温かい武人の胸板……

『武人、どっか引っ越すの?』

『ああ、結婚したら、ここじゃ狭いだろ。一軒家を買ったんだ。

ローンだけど…』

『え』

そうなんだ……。


湯船に入る湯水の音が俺達の沈黙をかき消しているみたいだった。


武人の心はもう準備ができているんだね。


彼女と共に生きていくケジメがついている。


俺が入る隙なんてこれっぽっちもない。


『お湯、入ったぞ』


俺の心は…もう、我慢の限界だ。


『武人も一緒に入る? 俺が隅々まで洗ってあげるよ』

『バカ、何言ってんだよ、、、』

意外にも頬を赤くして武人は照れていた。

『冗談だよ(笑)。武人、からかうとおもしれー』

『はあ? お前なあ…』

『お風呂入るから出て行って』

『ああ…』


武人は風呂場を出て行く。


――――パタンーーー。


『やっぱ、俺は武人の恋人にはなれない……』


俺は風呂場の中でしょんぼりした息子を触りながら感じていた。


暫くすると、武人が着替えを持って脱衣所に入ってきた。


『雅也、着替え、ここに置いとくぞ』

『……』


中から返事はない。


かれこれ30分以上風呂に浸かっている俺は武人の遠くなる声を聞きながら、

顔を真っ赤にしてのぼせていた。


『雅也、いつまで入ってんだよ…おまえは女子か』


武人が風呂場を開けると、お湯は冷たくなり雅也は湯船でぐったりしていた。


『雅也!!』


武人はすぐに湯船から雅也を抱きかかえると、雅也の身体にバスタオルをかけて

寝室へと向かった。


(ああ。なんだか居心地のいい胸板に守られているようだ)


(夢の中にいるのなら、このまま、ずっと、このままでいたい…)




⦅コイツ、意外と軽いな。贅肉なんて全然ついてね―⦆


⦅ホントに女みたいな顔してやがる…⦆


⦅あー、俺としたことがいかん、いかん。何、考えてんだか。

こいつは男なんだからよ…⦆


(この胸板は武人の胸板だろうか……)


(すごく、、気持ちがいい……)

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