夜の路上ーーー

『あ、ねぇ、ちょっと、雅也さん、待ってってば』

奈穂子が雅也を追いかけてきた。

『なに?』

俺は立ち止まり、振り返った。

『私と今からホテル行かない?』

なに、言ってんだこの女は…。

『いかない』

『普通、私の胸の谷間見れば、男なんてイチコロなのに雅也さんは

反応しなかった、なんで? 武人さんも汐里がいる手前、反応、

薄かったしさ』

『だって、俺、アンタに興味ないし。多分、武人も…』

『はっきり言ってくれるわね。私に魅力がないってこと?』

『俺は自分が好きになった人じゃなきゃしねーの。わかった?』

『そう…。だったら、私が雅也さんを本気にさせてみせるわよ』

『アンタがどんなに頑張ったって無駄だと思うけど、じゃあね』


雅也は何の戸惑いも表情もなく、あっさりと言った。


雅也の背中を見つめ、奈穂子の心に闘志がメラメラと湧いていた。


(ある程度の男なら制覇してきたつもりだった。私の魅力がわからない男が

いたなんて…)


奈穂子はお金の為に売りだってしてきた。


見た目だけなら初めて会った男でもその日のうちに落とせる自信があっただけに、

その屈辱は奈穂子の心に火をつけたのだ。


お互いの快楽だけを楽しむ遊びだけの付き合い。


男も奈穂子の手にかかれば尻尾を振ってついてくる。


(武人さんは汐里がいるから仕方なくても、雅也さんはまるで

興味を示さなかった)


自分に興味のない男程、その気にさせたいのが奈穂子の

ポリシーだったーーー。


(いつか、雅也さんを振り向かせて見せるわ……)


奈穂子は笑みを浮かべ、暫くの間、遠くなる雅也の背中を

見つめていたのだった―――――ーーー。

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