第12話 ①
「今日から体育祭が始まるが、怪我しないように気をつけながら優勝目指して頑張るぞ!」
「「「おー!」」」
「先生の奢りー!」
「男に二言は無いですよね?」
「……無い!だから、全力で頑張っていこう!」
来たる体育祭。
クラスメイト達は殺気にも似たやる気に満ち溢れていた。
朝のHRという名の決起集会が終わり、それぞれが体育館やら校庭へと向かう中で俺達は教室に残っていた。
俺とシマは補欠ではなく試合に出場することが決まってはいるがまだ出番ではない。
普通は応援しに行くのだが、俺達は普通じゃないので自分達の出番までは教室でゲームをしながら駄弁ることに決めていた。
いつもの窮屈な制服から解放されてラフな格好のジャージ姿でゲームする姿は完全に休日の俺達で、学校の教室でダラけているのが変な感じがすると思いながらゲームをしていた。
「そういえば、一輝とシマは何時からだっけ?」
「俺は10時から」
「オレは13時」
「まだみんなでゲームする時間あるね!」
「うん。でも、二人はいいな。今日ずっとゲームしていられる」
「……一輝さん、それはどういう意味かな?」
「え?俺とシマは試合出るからその時間はゲーム出来ないから……」
今朝、張り出されたトーナメント表を思い出しながら答える。俺とバスケをしたがっていた結城のクラスとはかなり離れて配置されてしまったから勝ち続けなければ対戦は不可能に近いほどで。その事を思い出してこれはかなり頑張らなければならないなとより一層気を引き締める。
俺が試合の時もゲーム出来て羨ましいとそう言ったら三人とも一斉にこっちを見てきた。
しかも、三人共に信じられないものを見た目をして俺を見てきた。
まさか、そんな目で見られるとは思ってはいなくて混乱しているとシマがドデカイため息を吐いた。
「はぁぁぁぁ~……え、何、それは一輝が頑張って試合してんのに俺達は応援しないでゲームしてるような人間だと思われてる、ってこと!?てか、オレが試合してる時も一輝はゲームするつもりだったん?」
「いや……、うん。ちょっとだけ思ってたし、ゲームするつもりだった」
「えー、酷いなー!」
「そこまで、人間辞めちゃねーよ」
「そうだ、そうだ!決めた!めっちゃデッカい声出して応援する!」
「それは……ありがと。嬉しいけど普通の声量でいいよ」
「遠慮しないで!」
「いや、遠慮じゃなく……」
ミハルなら有言実行する人だと、この数ヶ月で学んだから丁重にお断りした。
そのかわりにシマが試合に出る時は一緒にドデカイ声で応援することを約束をしたらシマに止められてしまった。まぁ、止められてもやるけど。俺と同じ気持ちなのか確認の為にミハルを見るとバッチリ目があった。その瞳……いや、にこにこと楽しそうな表情だけで俺と同じことを考えているのがわかり、俺も笑って頷いた。
それを見たミハルも頷き返してくれて、意思疎通の成功を確信してまた手元のゲームに視線を戻した。
時刻は9時50分。
ギリギリまでゲームをしていた俺達は急いで体育館に向かい、試合開始10分前に到着した。体育館にはもう俺以外のクラスメイトが揃って待っていた。
それを見て急いでジャージを脱いで、委員長から事前に渡されたビブスを揃いのクラスTシャツの上に着てからコートに立つクラスメイトの元へと駆け寄る。
「よし、揃ったな。優勝するぞ」
「これだけバスケ部がいるなら大丈夫だろ」
「バスケ部に混ざる及川って……」
「……俺もスタメンになるとは思ってなかった」
「ゆきくんに補欠にしたら後悔するって脅されたからね」
「アイツの言うことなんて無視していいのに」
「まぁまぁ……、そう言われたのもあるけど様子見で一回試合に出してからこれからも試合も出場させてもいいか考えようかなとも思ったからさ」
「使えないって思ったら遠慮なく補欠でいい。目標は優勝だから、それを叶えられる人選にしてくれていい」
「言われなくてもそうするよ。まぁ、期待外れてあまり役に立てなかったらね。さ、試合が始まるよ」
揃いの蛍光ピンクのTシャツを着て肩を組み円陣を作って委員長が士気を高める為の有難い言葉を一言二言言ってから声を揃えて雄叫びを上げた。由良もいるが、俺とは一言も話さずに目も合わさずに自分のポジションに行ってしまった。まぁ、元から仲良くもないからいいかと俺も無理に関わろうとはぜずに気合い十分なバスケ部のクラスメイトとハイタッチしながら与えられたポジションについた。久しぶりなのに2番のビブスは責任重大だ。ちなみにポジションの指示も結城の仕業で俺が選ぶ権利は一切無くて気づいたら勝手に決まっていた。体育祭が終わったら一度奴を殴りに行くことがたった今決定した。
緊張していない風に装っているが内心は心臓がとんでもない速さでリズムを刻んでいるし、バスケを真剣に習ってる人に混じって試合しなければならないことに戦々恐々としていた。経験者に混じるだけでもプレッシャーなのにやる気満々なクラスメイト達に足を引っ張りたくないと思えば思うほど余計身体に力が入った。結城のこと嫌いになりそうだ。俺と久しぶりにバスケがしたいなんて下らない理由でヤル気のなかったイベントに無理矢理引っ張り出されたこと、一生恨んでやる。
緊張と雑念に囚われた心を落ち着かせる為に目を閉じて深呼吸をした。……少し冷静になれば、そもそも、ズブの素人にクラスメイトだって一ミリも期待はしていない筈だからこうなったら気楽に楽しんでやる。結城と一緒にバスケしてた時みたいに楽しんでやればいい。
そう言い聞かせながら目を開けて、目の前の対戦相手を見た。
「……大丈夫」
そう呟いた時に試合開始のホイッスルが鳴らされた。
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