第3話 ②
(いや、そうだよなぁ……俺も逆の立場ならそうするわ)
登校初日。
事前に知らされていた教室に入るも、クラスメイトは俺の姿を見ると異様に騒つき始めた。
それはそうだろう。
俺以外にも髪を染めている人はいるが、俺と同じ白髪の人は一人もいなかった。ついでに、こんなにピアスを付けている人もいなかった。
完璧にやらかした。
黒板に書かれた席についてすぐに机に突っ伏した。
(こんなん、ぼっち生活まっしぐらじゃねぇか)
絶望していても由良を頼ることはもう選択肢にすら入ってなかった。この時点で俺はもう昔とは違うのだが、嘆く俺は気づくことはなかった。何故なら、高校デビューに失敗した人間の末路を自分が辿る事になるなんて、と絶望していたからだ。
でも、そんな超絶可哀想な俺に神は微笑んでくれた。
「あれ?君、大丈夫?眠いだけ?それとも具合悪い?どっち?」
「へぁ?」
誰にも話しかけられないと油断していた俺の肩を軽く叩いて誰かが声をかけてきた。
知らない声に安堵半分、残念半分の自分に嫌気が差す。すぐに変われないとは思ってはいたが、ここまでとは思ってなかった。さんざん由良と距離を置いた癖に何を期待しているんだとどっちつかずな自分にイライラしてくる。
(お前の思い人は今、見知らぬ女といるのが聞こえるだろ)
まだ、期待する愚かな心を無理矢理心の奥底へとしまい込む。出来ればこれ以上浮上せずにそのまま綺麗さっぱり消えてくれる事を願いながら。
ごちゃごちゃ考え事をしていて、すぐに返答出来なかったからか、再度肩を叩かれて驚いて間抜けた声を出てしまった。
そういえば、話しかけられていたなと顔を上げた。
こんな俺に話しかけてくる奴が誰なのか顔だけでも確認しとくか。……なんて、話せないことを前提に目の前の誰かと対峙した。
「……え、誰、すか?」
「あ、初めまして!オレ、ミハル!よろしく!」
「俺、は燈。……よ、ろしく」
そこにいたのは、本当に知らない人だった。黒髪に人の良さそうな笑顔を浮かべた……ミハル、が心配そうな顔して立っていた。
俺の見た目に全く物怖じしない姿にコイツとなら仲良く出来るかもしれないと淡い希望を胸に抱きながら返事をした。
「よかった~!具合悪いのかと思ってさ!」
「いや、違う、けど……」
「てかさ、すげー髪の色!似合ってんね!めっちゃカッケェ!」
「え?あ、ありがと……」
「ピアスもいいな!オレも開けたかったんだけど、母さんに止められてさ~」
「そうなん?」
「そう!もうさ、高校生だし別に良くね?ってオレは思うのにさ!」
「確かに。……でも、言うこと聞くんだな」
「あー、ね。母さん、怒ると怖いからさ」
次々と話しかけてくるミハルに圧倒されながらも、なんとか言葉を返した。
俺、今、出会ったばかりの他人と普通に会話してる!
その事に静かに喜んでいるとミハルは俺の前の席に座った。どうやら、ご近所さんだから話しかけてくれた様だった。それでも、初対面の人に話しかけられて、会話出来た事が嬉しいし、自分が一歩成長した様に感じられて自分の事ながら誇らしく思った。
由良がいなくてもどうにかやっていけんじゃね?
絶望の教室から一抹の希望を見出してからは世界が輝いて見えた。
「お!なんかいい事あった?」
「え?なんで?」
「いや、笑ってるから」
「それは……ミハル、と話せて、嬉しくて」
「え!?めっちゃ嬉しい事言ってくれんね!」
「待ってッ!やっぱ今のナシ!」
「なんでェ!取り消し不可!もっと、話そ!」
俺の言葉にミハルもニコニコと太陽の様に明るく笑ってくれた。その姿がホントに喜んでいる様に見えて釣られて俺も嬉しくなってしまう。
そこからは、さっきまでのぎこちなさは消えてスムーズに会話出来るようになった。
好きな漫画、好きな歌手と無難な話題をお互いに出しては正直に取り繕わないで話した。
漫画の趣味は少し違い、俺が読んだ時のない聞いた時はある漫画の名前をミハルは口にしたけど、あらすじを聞くと俺が好きな系統ぽいから、後で読んでみようかなと言うと明日学校に持ってくると言いだした。最初はミハルの荷物が増えて重くなるから断ろうと思ったけど、同士を増やす為の労力は厭わないから気にしないで!と鼻息荒く力強く言われその押しと圧に負けて礼を言ってお願いをした。どうやら、その漫画に推しがいるらしく、ミハルはその子の良さを語ろうとしていたが、ネタバレを踏みそうで怖いから漫画を読んだ後に聞くと言って慌てて止めた。
好きな歌手も漫画、アニメ好きとなれば聴く歌手はわりと固定される。世間の流行りの曲にはお互い疎いけど、今期のアニメの主題歌についてはお互い詳しくて話が弾んだ。
昔のアニメから今期のアニメの主題歌までで一番好きな曲は何かという話で盛り上がりかけるもミハルに途中で止められた。
いいところで止められて睨むとミハルが謝った。
「ごめんごめん!でも、オレの友達がめっちゃ詳しいからさ!休み時間になったら紹介する!だから、そん時にまた話そ!」
初登校で二人目の友達を確保出来そうで内心ガッツポーズをした。めっちゃいい奴が近くで良かったと嬉しすぎて泣きそうになる。
高校生活をずっとぼっちで過ごす事にはならなそうだと一安心し、本命のゲームの話題を振った。漫画もアニメも好きだけど、やはりゲームを超す物は俺の中には存在しなかった。……ここだけの話、漫画の話をしている時からゲームの話がしたくてしたくてソワソワしていたのだが、ミハルにはバレていないようでホッとした。
ミハルはゲームすら守備範囲で難なく会話のキャッチボールは続いた。
どれだけ続いたかと言うと、それはもう先生が来るまでお互いの口は止まる事なく動き続けるほどだった。
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