第3話 ①



失恋した。

だけど、その恋は俺が勝手に好きになって告白することなく、砕けて終わったから恋とすら呼べないものだったけど。

好きになった相手は物心ついた時から隣にいてゲロ吐きそうになるくらい甘く優しい男友達の由良。

だから、勘違いした。

その優しさ全部が俺だけに与えられた特権なんだと。

もしかして、もしかしたらアイツも俺と同じ気持ちなのではないかとも期待していた。

あの日が来るまでは両思いだと信じ疑っていなかった。



「燈。僕ね、彼女出来たんよ」



一瞬、何を言われたのか理解出来ずに全ての機能が一時停止した。まず、頭を殴られてから胸を刺されるほどの痛みに襲われる。

立っているのに地面はグラグラと揺れて、いや、あまりの衝撃に俺が揺れているだけだ。

そんな状況でも言われた言葉の意味を何とか理解しようとするも、理解出来ずに無意味に反芻する。



(彼女?彼女って……、あの彼女?お前、昔、彼女とか興味ないって言ってたのに。俺とゲームしている方が楽しいって言ってた癖に)



そんな言葉が出かけるが、堪える。

ただの友達だった俺に言う権利のない言葉だ。

暫くしてやっと理解したと同時に最初に感じた以上の痛みに襲われたのだが、その痛みを上回る羞恥心に燃え尽くされそうになる。



(恥ずッ!?恥ず過ぎる!?勘違いクソ男じゃん、俺!!)



そんな言葉が口から出そうになるのを何とか耐えながら、どうにか絞り出した気持ちのこもってない空っぽな「おめでと」を送った。

あまりの衝撃に笑っていたのかも覚えていない程だった。覚えていることはただただ自分を恥じていたことくらいだ。

たった四文字を言うまでかなり時間、沈黙していた気もするが由良は特に気に止める様子もなく、嬉しそうに笑いながら「ありがとう」と言って、頼んでもない彼女との出会いを話し始めた。

由良の長い長い話を要約するとその彼女とは高校入学前の説明会で出会った奴で、相手が一目惚れしたとか頭が熟れたことを抜かしながら告白をしてきて、由良がそれを受け入れてカップル成立した、らしい。

たった、短く要約出来るほど浅い出会いの癖に何を長々語ってんだかと舌打ちをしたくなったが既の所で我慢した。

由良の話を聞いてまず思ったのが、そんな奴より俺のがお前のこと知っているのにだった。

その次に中身も知らずに皮がタイプと言った相手と迷わず付き合える由良が理解出来なかった。由良の考えが理解出来ないと思ったのはこれが初めてだ。

俺が由良の事を好きだと知っての嫌がらせだと言われたら速攻で信じるくらい目の前の出来事はあまりに非現実的で受け入れ難いものだった。

そんな底の浅い理由の告白で了承して付き合った由良に勝手に幻滅して、こうして当たって砕ける前に俺の恋心とかいう青臭いだけのなんかは粉々に砕けて散っていった。

交際宣言された日は一睡も出来ずに凹みまくったが、俺の心はまだ少しほんの少しだけ由良に向いていた。向いてはいたが、それと同時に前も向いていた。

アイツのことは忘れよう。

そんで、アイツ以上に幸せになってやる。

どれだけ、嫌いになろうとしても長年の片思いをすぐに断ち切るのは、中々の無理難題で俺も由良みたいに他に目を向けようかと考えたが、その度に由良と比べてしまい失敗に終わった。だけど、このまま由良に拘り続けては駄目だと思った俺はある作戦を思いついた。

俺が由良を嫌えないなら、由良に嫌われればいい。

そこからは早かった。

思い立ったが吉日とばかりに次の日には店へと行って色々買い揃えて実行していた。……今思えばもう少し躊躇えよ、とも思わなくもない。

由良が綺麗で似合っていると褒めてくれた黒髪を真逆の色に染めた。

形が好きだと言われた耳にもピアスをつけまくった。それと、由良は割と古風な考えを持ってる奴で親から貰った身体を大切にしない奴は嫌いだと言って、ピアスやタトゥーなんかを嫌っていた。

つまり、だ。

そのことを知っているのにピアスをつけるなんて、それはもう……すんごく嫌な気持ちになってあわよくば俺のことを顔も見たくないくらい嫌いになるかもしれない。……本当は声もハスキーで好きと言われたが、これは流石にどうしようもないからどうもしない。

今のとこ由良からしたら派手な高校デビューをした幼馴染になるだけなのはわかっていた。

でも、今はとにかくどうやってでも由良にこんな奴と友達と思われたくない!と嫌われて距離を置かれたかった。

なんでこんなに距離を置きたいのかというと失恋したのもあるが、長年両思いと勘違いしていたという事実と向き合うことから逃げたいというとんでもなく情けない理由の方が大半を占めていたりする。

由良を見る度に嫌でも勘違いしていたことを思い出す。

その度に羞恥が湧き上ってきて、それプラス自分に対しての怒りで頭は埋め尽くされて平静さなんて何処ぞに消え上手く話せなくなる。

イライラしてないのにぶっきらぼうな受け答えになったりとかなり実害が出ている。

だから、どうやってでも最速で嫌われる必要があった。

けど、冷静になった今は自分の行動力にドン引きしていた。

いくらなんでも一人の男の為に髪を染めて痛いことも嫌いなのに耳に穴を開けるなんて、この時の俺は衝動的に見た目を変えるくらい平静さを保ってはいられないくらいイカれている。ちなみに髪を染めたのと耳に穴を1日でやった。イカれすぎ。

だから、見て目を変えて由良以外の人からどう見られるとかは一切頭になかった。

そんな無駄な行動力のせいで高校初日に後悔することとなった。


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