第2話



時は遡って入学式が終わり、輝かしい高校生活が始まった頃に戻そう。

見慣れた顔から初めましてな顔が混じった教室は色めき立っていた。

勿論、俺もその一人だった。

中学で仲良かった奴らとクラスが離れてしまい、少しばかり憂鬱な気分でスタートしていたが、どうにか気を取り直して高校から初めましての奴らに話しかけたり話しかけられたりしていた。

俺自身は陽キャとまではいかないが、人と話すのは苦手ではないから色んな人と話せてそこそこ仲良くはなれた。

特に席が近いシマとは頻繁に話す機会があるからのと、ゲームが好きという共通点のお陰で他の人よりも親しくなれた、と思う。シマはどう思っているのか、わからないが少なくとも俺はそう思っている。

とりあえず、これで高校生活を安心して過ごせると、心に余裕が出来た俺は教室を見渡した。

他のクラスメイトも友達を作り和気藹々と話をしている。勿論、その中には由良もいるがその隣には燈……ではなく彼の彼女のリナが張り付いていた。

その光景は予想通りだったから驚きもしなかったが意外だったのは、あの人見知りエキスパートの燈が孤立せずに友達を作れている事だ。燈は知らない人とサシで話せずにいつも由良の後ろに隠れていた。

それなのに、今は由良に頼らずに一人で、友達を作るなんて。

中学では見ることのなかった光景に一人感動していた。

すぐに由良を頼るのかと思っていたのだが、同じクラスにいるにもかかわらずに話す事も関わろうともしないし、逆に由良から話しかけられても冷たくあしらったりしている。

それも一度や二度の事ではなく、一日に何度も見かけて燈もスゴいが、めげずに話しかけ続ける由良もスゴイと思ったりしながら二人を観察した。

その徹底した由良離れに同じ中学だった奴らは俺も含めて驚いていた。

あの燈が本気で独り立ちしようとしている……と。

人間誰しもやる気さえ有れば、何でも出来るんだなと一人頷いていると、誰かが近づいてきた。誰が来たのか気になり見てみると、一人は全く知らない顔でもう一人はついさっきまで盗み見ていた顔だった。



「よっ!シッマ!」


「おー。ハル。どしたん?」


「オレ、新しい友達出来たんよ!だから、紹介すんね!こちら、燈!」


「う、うす……」


「固い固い!オレ達、同い年!ゲーム好き!トモダチ!」


「最後なんで、カタコトぉ?」


「オレはシマ!よろしくな!」


「あ、よ、ろしく……」


「こっちが……」


「……知ってる……及川、だろ」


「あれ?知り合い?」


「ん。いや、同中」


「あー!なる!」


「燈、お前……友達、出来たんだな……」


「え?ま、まぁ……」



俺も燈とは保育園から一緒ではあるが、お互い連む奴が他にいたからあまり話した時が無くて、お互いに何処かぎこちなく雰囲気の中で話した。

燈は顔を引き攣らせ目線があっちへこっちへと動きながらも、何とか会話をしてくれた。

そんな俺達の微妙な距離感を感じたシマは渋い顔をしながらストレートに突っ込んできた。



「なんで、同中なのにそんな距離あんの?喧嘩でもしてんの?」


「いや、俺達は元から頻繁に話す仲ではなかったから」


「え?違うクラスとかだった?違うよね?ずっと同じクラスだったんだよね?」


「……少子化で中学は一クラスしかなかったが?それが、何か?」


「どうどう!怒んな怒んなー!オレらもだったって!少ないのいいじゃん!」


「……まぁ、事務的なやりとりはした時あるけど二人で話す事は……」


「なかった」


「えー……」


「俺は結城とあい……別の奴と連んでたし、燈はずっと由良といたしな」


「マジかよ……」

「逆にすごい!!」



燈は由良の名前にピクリと反応するが、特に何か言う事はなかったが、そのかわりに表情が無へと変わった。

触れない方が良かったかと思うも既に遅かった。空気を変える為に何か言おうとした時にその前にシマが隠す事なくドン引きしていた。ミハルは純粋に驚いた顔して俺達を交互に見ていた。

出会ったばかりの二人に燈と由良の事を話すのは色々とリスキーだから、今のところは話さないでおこうと開きかけた口を閉じる。

そのかわりに、心の中だけで言い訳じみた文句を垂れ流した。

仕方ないだろ。

燈に話しかけても由良が答えるからまともに話す機会なんてなかったのだ。話しかけても由良が燈の前に立ちはだかった。その様は僕の物に話しかけるなと言わんばかりだった。まぁ、あの鈍感野郎がそんな意図を持ってあんな風に振る舞っていた訳ではなかっただろうが。そうしたら、今、燈と由良の関係はこうもややこしくなつていなかっただろう。



「まぁ、これから仲良くなればいいじゃん!」


「それもそうだな」


「ところで、及川くん!君、ゲームは好きかね?」


「え?好きだけど?」


「え!?」


「え?何?」



ミハルから唐突で脈絡のない質問に驚きつつ、素直に答えるとなんでか燈が驚いた声を出した。あれだけ、頑なにこちらを見なかったのに「ゲーム」の単語が出ただけで目を輝かせながら俺の事を見てきた。その反応に年相応さを感じて、そこで初めて仲良くなれるかもしれないと思えた。



「ち、ちなみに、何のゲーム、好き?」


「え、一本に絞るのはな……普通にムズイ」


「じゃあ、今ハマってるゲームは?」


「んーん?……それなら、ダルコフ」


「え?まじ?俺も、好き!」


「やったな、燈!」


「及川、そのゲーム好きなのか。オレらも」


「そうそう!シマとオレはよく二人でやってる!!」


「へー、いいな。俺は基本的にソロだから羨ましい」


「燈は?誰かとやってた?」


「あー……友達、だった奴と」


「ふーん。じゃ、今度は四人でやろうや!」



ミハルは燈の言葉に深くツッコむ事もなく、なんならスルーして次の休みの日に遊ぶ約束を取り付けた。触れない方がいいと燈を見て思ったのか単純に興味がなかったのかはわからないが、ミハルの英断に心の中だけで拍手喝采を送った。

俺の周りにFPSゲームを出来る奴がいなかったから、初のゲーム仲間だし誰かと一緒にゲームするのも初めてで……、いや、結城と前にゲームをした時があったが、あれはノーカンだ。

だって、奴はあまりにゲームが下手だった。

その時、二人で遊んだゲームはダルコフではなくBODというゲームだったのだが、結城はナイフだけで5キルして敵の銃で15キルされていた。それにゲームしてる最中はホラーゲームさながらのビビリを発揮して角から出てきた敵にいちいち驚き悲鳴を上げていた。

そんなだから、エイムはブレにブレて銃を撃っても当たらないで敵に殺されるのを繰り返していた。これが、第三者目線から見たら面白いが、一緒にゲームする立場の俺からしたらたまったもんじゃない。

だって、勝てないから。一戦も。嘘じゃなく、驚くほど勝てない。

そんな奴とではなく、歴戦の兵士であろう奴らとゲームが出来る事に今から休みが楽しみになってきた。

それから、俺達は先生が来るまでゲームの話で大いに盛り上がったのは言うまでもない。



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