当て馬と書いてキューピッドと読む

9

第1話



もし、俺がいるこの世界が漫画やらゲームの世界ならパッとしない見た目で特出した才能もなく平々凡々な俺はきっと脇役だ。

じゃあ、誰が主人公なのかと言うと……



「燈!もう、なんで先に行くの!」


「……はぁ?なんでお前と一緒に行かなきゃなんねぇの?」



噂をすればなんとやら、だ。

ちょうど話そうと思っていた奴らと出会した。というか、毎日奴らとは出会している。同じ時間の電車に乗って、同じ場所を目指して歩くとなると嫌でも遭遇する。時間をずらして電車に乗れと思われるかもしれないが、残念ながらここは田舎でそんな頻繁に電車は動かない。つまりは、毎日このやり取りを目にしている訳だ。勘弁してほしい。

一人は白髪で耳にピアスをとんでもない数を付けている燈とその隣で文句を言う黒髪の由良。

ちなみに、うちの高校の校則は非常に緩いので髪を染めようがピアス付けようが当人の自由という事になっているから全然問題はない。ただし、スカートの長さには厳しい。常にダブルラリアットこと家庭科の先生が目を光らせて女子を睨みつけている。

……話を戻そう。

この二人は保育園からの幼馴染で四六時中一緒にいる事で有名だった。登校からトイレから下校までありとあらゆる時間、片時も離れない。お前の身体はS極とN極で出来てるのかと言いたくなるくらいべったりだった。

でも、それも高校に入学したら珍しい光景になっていった。

何故なら、燈が由良といるのを拒み始めたからだ。

由良と接点のない人とかと友達になったり、登下校も別の人とする様になったり。

高校に入学してそうなったから由良も困っている様だが、そうなった理由を俺は知っている。

何故、燈が由良と距離を置き始めたのか。

俺が長々と語っている間にも二人はどんどん話を続けていた。



「家近いし同じ学校だから?」


「そんだけの理由なら別に一緒じゃなくていいだろ。……それにお前、彼女、いるならそいつと登下校しろよ……」


「えー、別に付き合ってるからって四六時中一緒にいなきゃいけないなんて決まりないし、僕が燈と行きたいからいいじゃん。なんでそんな可愛くない事言うの?昔はあんなに可愛かったのに……」


「……あっそ。てか、昔も別に可愛くないし」



そう言われた燈はそっぽを向いた。

嬉しい癖にな。耳赤いの見えてるぞ。

目の前で見せられる青い春真っ只中なやりとりになんの話をしていたか記憶が飛ぶ。

……そうだ。俺がモブだって話だ。

それで誰がこの話の主人公かを言おうとしていた所で途切れたんだった。

紹介しよう。

俺の前を歩く彼らこそ、物語の主人公に相応しいと思っている二人だ。

すれ違い面倒臭く複雑に絡まってしまった二人の思いの行方は一つの物語にするのが似合っている。

……その筈だった。



「……あ、及川!」



二人の後ろで気配を消して歩いていた俺に燈が気づき駆け寄ってきた。

その姿はついてない尻尾がぶんぶんと勢いよく横に振られているように見えて無下に扱えずに手を軽く上げて応えた。

俺の隣に来ると楽しそうにゲームの話を始めた。

いつもなら、相槌を打ったり返事をしたりするが状況が状況で中々集中が出来ない。

燈には悪いが、今の俺は別の方に意識を持っていかれているから。

燈は俺を見ていて気づいてないが、燈の背後では般若の面を背負った笑顔な由良が俺と燈を見ている。

修羅場となった通学路で俺は一人、どうしてこんなことになったのだろうかと燈にバレないように小さくため息を吐いたのだった。

事の始まりは入学式が終わった次の日。

思えばあの日からこうなる未来が確定してしまっていた気がする。



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