第9話

「(ここが…アルバース王国…?)」


もうまもなく目的の場所へ到着するという時刻に差し掛かった時、カレンは窓から見える外の景色を見てやや驚きの表情を浮かべていた。

というのも、通り過ぎていく街の姿がグレムリー伯爵から聞いていたものと異なっているためである。


「(伯爵様は確か、アルバース王国は衰退した貧しい国で、王宮の周りの街でさえもボロボロで人の気も全くないって言っていたけれど…)」


それが真実なのだろうと信じて疑っていなかったカレンだったが、今自分の目に映る街の姿はその言葉とは正反対だった。

きらびやかな街並みに、きれいに整備された街道、そのわきには活気にあふれる人々の姿がよく見え、暗そうな表情を浮かべる人はまったく見られなかった。


「(これって……もしかして……)」


その光景を目の当たりにしたとき、カレンはようやくなにが事実なのかをその胸の中で悟った。


「(もしかして……伯爵様が言っていたことって……全部嘘だったの…?)」


非道な新しい王が即位し、国の人々はその恐怖におびえながら生活を送っている、というのが伯爵の言うこの国の評価だった。

しかしそんな姿はどこにも見られず、カレンにはその言葉が正しいものであるとは思えなくなっていった。


そしていよいよ、カレンを乗せた馬車は非常に大きく豪華な建物の前で停車した。

だれの目にも、そこがこの国における王宮であろうことは明らかである。


「到着いたしました、カレン様」


その場に馬を停止させた後、トリトスは扉をゆっくりと開け、カレンに対してそう言葉を告げた。

カレンはその言葉に導かれるままに、慣れない景色を前にやや体を緊張させながらも、ゆっくりと自身の体を馬車の中から外まで移動させた。

するとその時、カレンがアルバース王国の地に足をつくとほぼ同時に、カレンの到着を心待ちにしていた様子の一人の男が心から嬉しそうな口調で、こう言葉を発した。


「カレン!!よくここまで来てくれた!!ずっとずっと会いたかったよ!!」

「???」


男はうれしさのあまりか、そう言葉を発するとほぼ同時にカレンの体を強く抱きしめ、彼女の存在を全身で受け止める。

カレンは最初こそ驚きの表情を浮かべた者の、その男が誰であるかはすぐに気付いた。


「も、もしかして……ユーク叔父様??」

「あぁそうだ!!ユークだとも!!」

「!!!!」


目の前の人物が自らの叔父であることを知った時、今度はカレンの方が相手の体を強く抱きしめた。

その姿は、まさしく再会を心待ちにしていた人間の見せるそれであり、二人がこれまで会いたくても会えずにいた時間の長さを感じさせる。


「ずっとずっと君に会いたかった…!カレン、こうして再会できて私は本当に…本当に…!」

「叔父様、私もずっとお会いしたかったです…!で、でもどうして叔父様がこちらに??確か、前いた場所で剣術の先生をされていたはずじゃ…?」

「あぁ、実は私は今、アルバース王国の第一王子であらせられるフォード様に剣術の稽古を任させているんだ」

「えええ!?!?」

「偶然私の剣術を見てくださったクヴァル国王様が、私の実力を見込んでくださったんだ。それでぜひ、自分の息子にも同じ技術と心得を教えてほしいと言われてね」

「そ、そうだったんだ……」

「まぁひとまず、詳しい話は後で。長旅で疲れただろう?着替えてしばらくゆっくり休んでいるといい。カレンの部屋や洋服、食事もばっちりそろえてあるから、何も心配しなくてもいいぞ?」


実の叔父であるユークからの言葉に、カレンは自身の首を縦に振って答えた。

そんな二人の姿を、トリトスもまたうれしそうな表情を浮かべながら横目に見つめる。


カレンはここに来るまで、その心の中に非常に大きな不安を抱えていた様子であったものの、今は少しその不安は鳴りを潜め、穏やかな気持ちを取り戻していっているように見受けられる。

それは自分が新しい場所できちんと受け入れられたことを知ったからというのもあるだろうが、それよりも大きな要素は自分が慕っていた存在であるユークがこの場にいてくれたという点が最も大きかったことだろう。


カレンはそのまま、その場に現れた王宮の召使の案内を受ける形で王宮の中に入っていき、アルバース王国における第二の人生を今まさに踏み出したのであった。

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