第10話

「うん、よく似合ってるよカレン」

「あ、ありがとうございます…。でもこういう服ってあんまり着たことないから、なだか少し恥ずかしい…」

「恥ずかしがることなんてないさ。本当に似合っててかわいいんだから」


着替えを終えたカレンはユークの待つ部屋を訪れ、二人はそのまま会話を行っていた。

久方ぶりの再会であるためお互いに非常にうれしそうな雰囲気を発してはいるものの、その一方でやはり恥ずかしさも感じているのか、妙なぎこちなさも同時に感じさせる二人だった。


「そ、それにしても驚きです…。まさかこんな形で叔父様に再会できるだなんて」

「私もびっくりだよ。まさかカレンが、グレムリー伯爵に婚約者として選ばれていたとはね」

「叔父様、知ってたんですか??」

「あぁ、知ってたとも。だからこそ私は、君の事をそこから救い出そうと考えたんだ」

「す、救い出す…?」


ユークの発する言葉を前にして、カレンはやや不思議そうな表情を浮かべる。

一体何がどういうことなのかという雰囲気を見せる彼女に対し、ユークは事のいきさつを丁寧に説明し始めるのだった。


「グレムリー伯爵の話は、こっちの国でもよく話題に上がっていた。身勝手でどうしようもない男であるとね。しかし伯爵という立派な位を持つ貴族家の長である手前、彼に対して強い言葉をかけられる人物はなかなか現れず、現れたとしても彼によって消されていってしまっていたそうだ。そんな時、カレンが伯爵から婚約者として指名されたらしいという話を聞いたんだ」

「そんな早くから…」

「伯爵がカレンの事をただの暇つぶし程度にしか考えていないであろうことは、私には容易に想像がついた。それくらいに彼の評判は悪かったからね。それで僕は、何とかカレンの事を救い出せる手立てはないかと考えていたんだ。そこで私に力を貸してくださったのが、この国の国王であらせられるクヴァル様だった」

「お、叔父様はもう国王様とも近しい仲に…!?」

「私がかなり悩んでいた様子だったから、話を聞かせてくれと言ってくださったんだ。そこで私がカレンの事を相談したら、クヴァル様は今回の計画を私に提示してくださった。これまで周囲の人間をだまし続けてきた伯爵の事を騙し返して、カレンの事を救い出そうとね」


ユークは得意げな表情を浮かべながらそう言葉を発したものの、カレンはその言葉の中にひとつ、なにか引っかかるものを感じとった。


「騙し返す?と言うのは?」

「あぁ、カレンにはまだ言っていなかったか。伯爵はクヴァル様が差し出すと言った数百枚の金貨に目がくらみ、君の事をこちらに売るという選択を取った。しかし、その金貨と言うのは偽物の金貨なんだよ」

「そ、そんな事が…!?で、でも伯爵様の目をだませるほどの偽物の金貨を、どうやってお作りに…?」

「それも簡単な話だとも。あの偽金貨は、かつて伯爵自身が作ったものなのだから」「えええ!?!?」


これまで伯爵のそばに居ながらも、自分が知らない裏でそのような事が起こっていたという事が信じられず、カレンはこれまでの人生で一番と言ってもいいほどの驚愕の声をあげた。


「はっはっは!そこまでリアクションをしてもらえるとなんだかおもしろくなってくるな♪」

「ええええど、どう言う事なんですか??伯爵様ともあろうお方が、偽金貨を作っていただなんて…」


伯爵に関してあまりにも無知だったカレンは、湧き出る疑問を抑えることができず、そのまま連続的にユークに対して疑問の声を上げる。


「アルバース王国には、ついこの間新しい王であるフォード様が即位された。しかし、その前の王は非常に身勝手でろくでもない王だったんだ。伯爵はそんな王と内通し、派手な金もうけを行っていたんだよ。君が伯爵家にいた時、伯爵の周りには妙に金が有り余っているとは思わなかったか?雇われる使用人や料理人がなぜか多いとは思わなかったか?」

「た、確かに言われてみると…」

「今この国は、前の王が滅茶苦茶な事をしたせいでいたるところにその時代の傷を残してる。それを今、クヴァル国王とフォード第一王子が中心になって立て直している最中なんだよ。だからこの国には、かつての王と同じくらいグレムリー伯爵は毛嫌いされてるし、恨みの声を上げる人も少なくない。…だからもしかしたら近いうち、伯爵家はすべての悪事を暴かれて解散させられる日が来るかもしれないんだ。だからこそ私は、一日も早く君の事を救い出したかったというわけだ」

「あの家にそんなすごい過去があっただなんて……私何も知らなかった……」


これまで知りえなかった伯爵家の真実の一端を聞き、驚きの表情を隠せないカレン。

しかしカレンは同時に、その心の中にこう言葉をつぶやいていた。


「(知らなかったのは私だけ?他の使用人の人たちは知っていたんだろうか?…もしかしたら、彼女たちも私と同じように何も知らないんじゃ?私の事を散々見下して利用してくれたけれど、彼女たち自身も同じ扱いを受けているんじゃ…?でもそれに気づいていないんじゃ…?)」


カレンが心の中に抱いたその疑問は、それから時を経ずして、現実のものとなるのであった。

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