第4話
「私はカレンとの婚約をここに破棄し、その代わりにエレナとの婚約を結ぶことを決めた」
「エ、エレナさんと…伯爵様が…」
自らの婚約者であるグレムリー伯爵から、直々にそう言葉を告げられたカレン。
彼女は伯爵から突き付けられた目の前の現実が信じられないという表情を浮かべながら、その華奢な体を震わせ、弱弱しい口調でそう言葉を発するのがやっとだった。
一方でエレナそんなカレンとは対照的に、楽しくて仕方がないという雰囲気を発しながら伯爵に対してこう言葉を返した。
「伯爵様、それは非常にうれしいお言葉なのですれど、本当に私でいいのでしょうか…?ここに居らっしゃるカレン様は伯爵様にふさわしい相手となるべく、毎日必死に勉強をされておられました。たとえ周囲からそんなものは無駄だと馬鹿にされても、自分は伯爵様から愛されているのだから無駄なんかじゃないと言っていたほどですよ?それがこんなみじめな形で終わって本当にいいものでしょうか?」
「……」
エレナはわざとらしくカレンの事を見つめながら、憎たらしさを存分に感じさせる口調でそう言葉を発した。
そんな彼女の言葉を受けて、グレムリー伯爵もまた同じような雰囲気の言葉を返した。
「ククク…とんだ身の程知らずがいたものだな…。カレン、お前は本気でこの私からの愛を授けられるとでも思っていたのか?少し街中で私が興味を持ったからと言っても、それは所詮一時的なものに決まっているではないか…。私のために頑張って勉強をしていたなどと、まさか一生ここに居るつもりだったのか?それこそ信じられないほどの身の程知らずであると言わざるを得ないな…」
「……」
呆れるような口調でそう言葉を放つ伯爵を前に、もはやカレンはなにか言葉を発するほどの気力もない様子…。
「カレン様、どうやら伯爵様はあなたへの愛想を完全に尽かしてしまわれたようです。…あなたはずっと周りに対して、自分の事を伯爵様はいつか認めてくださるものだと言って回っていましたけど、それはいつ訪れるんですか?この状況からでも伯爵様があなたの事を認める未来があるとでも?」
「……」
「おいおいエレナ、できないことを言うものじゃないぞ。そもそもカレンには何の期待を寄せるまでもないだけの事だったんだ」
「あらまぁ、それは残念ねぇ♪」
「……」
どこまでも嫌味な口調で言葉を放つ2人、その様子はまだまだカレンの事をいじめたそうなものではあったものの、消沈してしまったカレンからの反応が得られない点を見て一旦それを中断することとしたのか、二人の話題はそのまま自分たちの今後の未来に関してのものに移った。
「それでは伯爵様、ここにいるみじめにも婚約破棄されたカレンはこれからどうされるのですか?元いた本屋?かなにかに返すのですか?」
「あぁ、それはもう決めている。カレンにはこのまま隣国のアルバース王国に行ってもらう事に決めた」
「あら?アルバース王国ですか??」
アルバース王国、それは現在伯爵たちが位置する国のすぐ隣にある国であり、王がその頂点に立って臣民を導く正真正銘の王国である。
「そうだとも。かの国の王室関係者とは長い付き合いでね。なんでも政治上の理由で、年ごとの女性を欲しているとの依頼があった。それならそちらに送るにふさわしい人物がいると返事をしたら、ぜひにとの言葉をもらったよ」
「まぁ、それじゃあカレン様はこれから国境をまたいで旅行に行かれるようなものなのですね!うらやましいわぁ」
ここでもエレナはカレンの事を見つめながら、わざとらしく嫌味な口調で言葉を発する。
今の彼女には、その行為が楽しくて仕方がない様子だった。
「しかも対価は一生かけても使いきれないほどの金貨だと来た!これはもうカレンを隣国に渡さない手はないだろう??」
「まぁまぁ!!それじゃあ私と伯爵様はこれから、この国で一番のお金持ち夫婦となることができるのですね!」
「ああ、そうだとも。ほしいものは何だって買ってやれるぞ。めでたい婚約を果たした記念に、まずはどこかの城でも手に入れるか??」
「ありがとうございます伯爵様!!」
2人は互いに心から嬉しそうな雰囲気を発しながら、非常に明るい口調でそう会話を行う。
グレムリーはエレナの喜ぶ顔を見つめながら、その心の中で今回の自分の運の良さをこう言葉にした。
「(もともとカレンとの婚約を破棄する計画などなかったが、隣国がカレンの事を売ってくれと言うのなら聞かない手はないだろう♪。これで我が伯爵家は未来永劫安泰となり、隣国との関係も良好なまま維持、私の立場もこれまで通り活きることとなり、まさに誰も損のない神がかり的な取引だといえる…♪)」
そう、実は婚約破棄の順番は反対だったのだ。
伯爵がエレナとの婚約を選ぶことにしたからカレンを切り捨てたのではなく、カレンを切り捨てることでこの上ないほどの利益を生み出せると言われた伯爵が、カレンを捨ててエレナを代わりの婚約者とすることとしたのだった。
そこには当然、隣国の王室の人間の身が知る裏の理由があったのであるが、伯爵がその事に気づく様子は全くないのであった…。
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