第十九話 殺意と取引

「ふっ!」


「あがっ!」


 ダガーナイフを取った僕は、逆手のまま振り抜くと、眼前に立つ男の頸椎に突き刺した。


「はっ!」


 ドン!


 続けて、脱力する男の腹を足で蹴り抜き、側溝の中へと突き落とす。

 まずは1人。

 冷静――と言うよりは無感動にその事実だけを確認した僕は、返す刀で今度は小銃持ちを狙う。


「くっ 来るなぁ!」


 そいつはそう言って、銃口を素早く僕の方に向けて来る。

 先端には銃剣があり、接近戦にも長けた武器――だけど。


「遅い」


 大方蹂躙ばかりで、経験をほとんど積んでこなかったのだろう。

 そう思いながら、僕はその場で半身になって射線を外すと、素早く袖から投げナイフを取り出し、男の喉へ容赦なく投擲した。


「あがっ!」


 喉を貫かれた男は、そのままよろけて側溝へと転がり落ちる。

 そして、僕は落ち行くその男に一切目を向ける事無く、代わりに残る2人に目をやった。


「な、あ……っ!?」


「何が、どういう……」


 時間にして、5秒程度。

 それで2人が死んだことに、残る2人は何がどうなってとでも言いたげな表情を見せる。


「絶対に、生かして帰さない」


 寄生獣と同じぐらい、人間の命を奪って来るのが、人間なんだ。

 この類の人間には、躊躇も容赦もしてはいけない。

 それをした先に待つのは――自分の死だけ。


「ば、化けも――」


「死ね」


 それから僅か数秒後。

 僕の横には4つの死体が転がっていた。


「……急いで、ここを離れないと」


 事情はどうあれ、ここで殺しをしたことがバレれば面倒な事になる。

 はみ出し者の死体が転がっていた所で大した騒ぎにはならないし、直ぐにここを離れよう。

 そう思った僕は、戦利品とばかりに装弾済みのリボルバーだけをさっと回収すると、その場を後にするのであった。


「……さてと。それじゃあ、引き続き市場を回るか」


 その後、無事市場の中心部付近に戻って来れた僕は、そう言って辺りをぐるりと見回す。

 こうして見ると、さっきの場所からほど近い場所なのにも関わらず、雰囲気が全然違うなぁ。


「いいものがあるといいんだけど……」


 一先ず買おうと思っているのは銃弾だが、それ以外にも良さそうな物があったら買っておきたい。

 そう思いながら市場を再び巡っていると、ある店が目に入った。


「掘り出し物市か」


 地面に敷かれたカーペット。その上に広げられているのは、多種多様な道具の数々。

 これらは全て、外で手に入った用途不明及び動作不良の道具だ。

 そのほとんどが、今の人類では理解不能な失われた技術ロストテクノロジーであるが故に、こうして安価で叩き売りされているって感じ。

 だけど、僕には前時代を生きたおじいちゃんの知識がある。

 だから、もしかしたらこの中に知っているものがあるかもしれない。

 そう思いながら、僕は広げられている道具を見やる。


「んー……それでも、不思議なものばかりだ」


 当然、そこにある物の大半は、僕にとっては見慣れない物。

 だが中には、外の探索中に見た事がある物もあった……まあ、当然何に使うのかは分からないけど。


「ん? なにこれ?」


 興味深く見ていると、ある物が目に留まった。

 長さ15センチほどで、真ん中部分にくびれのある円柱状の道具。

 状態が良く、ややボロボロであるものの、何か文字が書いてある。

 ……ああ、思い出した。これ、他の国の言語……英語ってやつだ。


「んっと……T、E、N……分かんなくて……A?」


 だけど、擦れているせいで全部読むことは出来なかった。


「ん? もしかして君、そこの文字みてぇなのが読めるのか?」


 すると、僕の呟きを聞いていたのか、店主がそんな事を聞いてくる。


「うん。おじいちゃんから教えてもらったお陰で、少し分かるんだ。ただ、擦れてて全部読めないし、意味も全く分からない」


「そうかぁ……そりゃ残念」


 僕の言葉に、店主はそう言って残念そうに肩を竦めた。

 さてと。結局これは訳わからないし……見た感じプラスチック製だから、素材として売れる事も無い。

 他を探してみよう。


「んー……ん? これは……」


 次に目に留まったのは、手のひらサイズの四角い箱。

 錆びや腐食は無さそうだけど、表面はだいぶ削れている金属製のそれを、僕は手に取った。

 一見何の変哲もない、素材にしかなら無さそうなそれだが、表面に薄っすらと彫られている紋様が気になったんだ。

 これは、確か――


「……うん。これ、どれぐらいで譲ってくれる?」


「お、それが気になったのか。よく分からん鉄の塊だし、良さげな素材でもくれれば、それでいいよ」


「分かった……なら、これでどう?」


 そう言って、僕はこのコミュニティへ来る道中で拾ってきた金属片を、リュックサックから取り出した。

 大きさはこの箱と大差無いが、状態が非常に良いものなので、丁度いいぐらいだろう。


「おー小さいけど、中々いい素材じゃ無いか。これなら、全然いい。取引成立だ」


「うん、分かった」


 そうして、僕はその場を後にした。


「これ……絶対おじいちゃん知ってる。帰ったら聞いてみよう」


 市場を引き続き歩く僕は、箱を眺めながらふとそんな言葉を口にした。

 だってこれは――おじいちゃんも持ってるんだから。

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