第十八話 絹の買い物
翔と別れた僕は、市場を散策していた。
旧大手町駅コミュニティと同様、地下鉄駅のホームを活用して作られた市場には、数多くの店が出ているのが見える。
品揃えは僅かに違えど、基本的なものは変わらない。ただ、ここには大規模な製糸施設があるお陰か、絹製品が豊富に揃っているのが見て取れた。
当然、向こうのコミュニティでも作られてはいるけど、数が相当限られてて、市場では滅多に見かけないんだよね。
「お、いらっしゃい。見ない顔だな。様子からして、他所から来たもんか?」
絹布の店の前で足を少し止めていたら、店主に声を掛けられた。
露店型のその店には、普通の純白な絹布を始め、加工されて衣類となったものなど、多種多様な絹製品が並べられている。
さてと。取りあえずここで交渉してみようかな?
過度に吹っ掛けて来るようなら、別の場所に行けばいいだけだし。
そう思いながら、僕は口を開いた。
「うん。旧大手町駅から来た”運び屋”だよ。絹を買いに来たんだ」
「なるほどなるほど。その歳で”運び屋”とは、珍しいもんだなぁ」
僕の言葉に、店主の男は両腕を組みながら、感心するように頷く。
よし、交渉開始だ。
「45口径の銃弾17発……これで、白の絹布はどれぐらい買える?」
そう言って、僕は銃弾を1つ店主に見せた。
すると店主は、それをまじまじと見ながら、「うーむ」と唸る。
「うーむ……なるほどね……よくあるタイプか。これなら、ざっと50センチ幅で4メートルといった所かな」
そして、そんな査定を下した。
……うん。
しっかり吹っ掛けられてる。生きる為とは言え、子供相手でも容赦ないね。
じゃあ、ここはちゃんと交渉しよう。
あまり商売ごとには詳しくない僕だけど、必需品の大まかな相場ぐらいは知ってるんだ。
それもまた、生きる為に必要だからね。
「そうなんだ~。じゃあ、同じ種類の銃弾を追加でもう17発渡すから、
そうして僕は、続けてそんな言葉を口にする。
今度はこっちが吹っ掛けてやった。
「むっ……」
すると、店主が明らかに動揺したような顔になった。
子供だと思って、油断したのかな?
だけどまあ、流石にそっちもそれで頷く筈も無く……
「流石にそれは多いよ。11メートルで勘弁して……」
と、言ってきた。
「13メートル」
「……分かった分かった。12メートル。これ以上は無理だ」
だから、続けてそう言ってみれば、店主が降参したように手を軽く上げながら、小さめの声でそう言った。
よし。大体それぐらいは相場かな。
粘ればもう少し減らせそうだけど……やり過ぎは厳禁。
これぐらいにしておこう。
「うん、それでいいよ」
そう言って、僕は銃弾を店主の前にちゃんと確認しながら置いていった。
その間に、店主は長さを正確に測って裁断し、綺麗に折り畳んでくれた。
「ええっと……よし。ちゃんと本物だな。毎度あり」
「うん、問題ない……ありがとう」
その後、互いに交換した品の確認を済ませると、僕はそう言ってこの場を離れるのであった。
「ふぅ……これだけあれば、流石に足りるよね。翔も買うんだし」
そう言いながら、僕は得た絹布をリュックサックの中にしまう。
「さてと。じゃあ次は、消費した銃弾でも買いに行こうかな?」
今リュックサックの中には、道中で拾ってきた使えそうな金属類がいくらか入っている。
それなりに嵩張るこれらは、出来ればここで使い切っておきたい。
そう思った僕は、安定して欲しい銃弾を求めて再び歩き出した。
「……おい。随分と濃い火薬臭いがしたぞ」
すると、突然背後からそう声を掛けられた。
チラリと振り返って見れば、そこには大柄スキンヘッドの男が突っ立っているのが見える。
しくじった……五反田の核シェルターコミュニティ跡で、偶然手に入れた大量の火薬――当然、バレたら怠い。
余所者なら猶更だ。
「銃弾を相当数仕入れて、備えているんだ。急いであともう少し仕入れないとだから、先を急ぐね」
そう言って、僕はその場から逃げるようにして歩き出した。
複雑に、何度も曲がり角を曲がるようにして市場を抜け、もう大丈夫かなと思った僕は、その場で壁にもたれ掛かる。
そして状況確認をすべく、やや反射的に辺りをぐるりと見回した。
「……人通りが少ない所に来ちゃったか」
どうやら僕は、人通りの少ない場所――市場の奥の隅の方に来てしまったようだ。
明かりが少なくて薄暗い……こういう所は治安が悪い傾向にあるから、さっさと抜け出さないと。
僕のような子供なんて、恰好の獲物なんだし。
そう思いながら、僕はここを抜け出すべく早足で歩き出そうとした――次の瞬間。
「こんな所にガキか」
「余所者だな」
「そのリュック、色々と入ってそうだなぁ……」
こういった人の少ない場所を根城にする、コミュニティの弾かれ者とでも言えるような集団が、僕を囲うように姿を現したのだ。
「っ……!」
数は4人か。しかもリボルバー及び銃剣付きの小銃を所持しているやつがそれぞれ1人ずつ……か。
すると、リボルバー持ちの奴が、あろうことかその銃口を俺に向けてきた。
「全部置いてけ!」
そして、そんな言葉を吐く。
殺意……こいつら、僕を殺しても問題ないと思ってる。
殺り慣れてるな……なら――
「やるか」
そう言って、僕は素早く腰のダガーナイフを1本、逆手で抜くのであった。
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