第十七話 外を知らない無垢な子供

「みてみて~!! 出来た~!!!」


「うん、凄いね。心寧ちゃん。何を作ったの?」


「お城~!」


 積み木で遊ぶこの子……心寧ちゃんに、僕は笑みを浮かべながら付き合っていた。

 別に楽しいという感情は無いけど、心寧ちゃんのこの笑顔を守りたいなとは思える。

 惨劇をそれなりに見て来たから……ね。僕は。


「お城かぁ。一度くらいは、本物を見て見たいな」


「ままがくれた絵本にあった! 心寧も、お外に行って、見たい!」


 僕の言葉に、そう言って純粋無垢な笑みを浮かべる心寧ちゃん。

 外の危険を肌身で感じた事が無いからか、それとも子供だからか――

 それは止めた方が良いと言おうと思ったが、止めておいた。

 代わりに、別の言葉を言う。


「外は危ないからね。行くなら、もっと大きくなってから……準備をしてからにしようね」


「うん! お外は危ないって、まま言ってた。だから、しっかり頑張る!!」


 分かっているのか、分かっていないのか……ただ、この様子なら少なくとも無謀な事はしないかな。

 素直でいい子だし。


「ふ~。話終わったぜ~!」


 すると、奥から翔と詩音さんが出てきた。

 そして翔が、身体を伸ばしながらそんな事を言う。


「ああ、終わったんだ。翔」


「おう。それと、詩音さんの手紙を望さんに渡す依頼を受ける事になった。帰るし、ついでって感じで受けるか?」


「うん。勿論受けるよ」


 どの道、依頼完了を知らせる為に帰るのだから、受けた所で負担は一切無い。

 そう思った僕は、迷う事無く翔の言葉に頷いた。

 すると、頷く僕を見た詩音さんが、手紙を1枚手に持ちながら口を開く。


「ありがとう、奏太君。うちの子とも、遊んでくれて……報酬は前払いで、それなりに弾ませるね。それじゃあこれ、頼んだよ」


 そう言って、詩音さんはその手紙を僕に差し出した。


「分かった、詩音さん」


 奥は手紙を受け取ると、そう言ってこくりと頷くのであった。


「それじゃあ、少し待ってて」


 その後、詩音さんはそう言って再び奥に行ってしまった。

 僕たちに渡す報酬を、取りに行ったのだろう。


「ふー……さてと。にしても、随分と懐かれてるな、奏太」


 すると、翔が軽快にそんな事を口にした。


「うん、そうだね……うんうん。いい感じだね」


「えへへ~」


 その言葉に、心寧ちゃんと引き続き遊びながら頷く。

 それからも少し遊んでいると、詩音さんが戻ってきた。


「45口径の銃弾16発。奏太君には17発。これでいいかな?」


「ああ。全然構わねえぜ」


「うん、それでいいよ」


 相場通り。僕が使っているリボルバーと口径は合わないが……貨幣として普通に使う事が出来る。

 麻布を交換してきて欲しいと望さんから言われているし、その交換の足しにしようかな?

 そう思いながら、僕は受け取った銃弾をリュックサックの中に入れる。


「さてと、話はこれで以上。ありがとね、お兄ちゃんの手紙を送ってくれて」


 こうして話が終わり、別れの時間となった時。

 詩音さんは最後にそう言って、頭を下げた。

 離れ離れの、兄妹……今思うと、色々とあったのかなぁ。

 そう思いながら、僕は口を開く。


「僕は、依頼を受けただけだから」


「そうそう。んじゃ、手紙はしっかり届けるぜ」


「うん。責任を持ってね」


 そうして、僕たちはこの場を後にしようと踵を返して歩き出す。


「お兄ちゃん! また来てねー!」


 すると、背後からそんな声が聞こえてきた。

 僕は一瞬足を止めると、くるりと振り返った。

 そして、笑みを浮かべながら口を開く。


「うん。また来るね」


「うん! 約束だよ!」


「ああ……分かった。約束だね」


 また会う約束を、”運び屋”にするなんてなぁと思いながら、僕は小さく笑って頷いた。

 僕の思っている事が分かったのか、詩音さんの顔はどこか不安げだ。

 まあ、大丈夫。死ぬつもりは無いから。


「行こう」


「だな~」


 そして僕たちは今度こそ、この場を後にするのであった。

 その後、家を出た僕たちは、大通りを奥へと向かって進みだした。


「さーてと。んじゃ、次は向こうにある市場に行くか。絹を仕入れようぜ」


「そうだね。でも、どれぐらい交換する? 量聞き忘れちゃってるし……」


 望さんから、絹を交換してきてくれれば、相場以上で買ってくれると言われたが、肝心の量を聞き忘れてしまった。

 どうしたものかと思っていると、やれやれといった様子の翔が、さも当然と言わんばかりに告げる。


「多めでいいだろ。あっちじゃ絹全然手に入らないから、余ったら他の人に売り捌けばいいだけだし」


「なるほど」


 翔の言葉は、まさしく盲点だった。

 確かに、向こうなら高く売れるから、余っても全然問題じゃないね。

 もしかして、だからわざわざ量を指定しなかったのかな?

 ”運び屋”としての生存術は鍛えてるんだけど、優先順位の低い事に関してはまだまだ未熟だから、全然頭に無かったよ。

 そう思いながら僕は歩き、やがて市場に辿り着いた。


「さてと。……あ、陽菜いるな。すまん、ちょっとやる事出来た。軽いあいさつ回り的なやつ。時間掛かるから、ここで解散って事にするか」


 そう言って肩を竦める翔に、僕は小さく息を吐いて頷く。

 視線からして、向こうに知り合いでも居たのだろう。


「うん、分かった。それで集合は……明日の朝、出入り口前でいい?」


「ああ、そうだな。それで構わねえ……じゃ、ぼったくられねぇように気を付けろよ!」


 僕の言葉に翔はそう言って頷くと、向こうへと駆けて行くのであった。

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