第十五話 旧新宿駅コミュニティに着く
同行者を1人失いながらも、しっかりと確実に先へと進むことが出来た。
道中、当然何度も寄生獣に襲われたけど、見た目以上の筋力を持つ翔が、得意の蹴りで大体対処してくれたよ。
どこか顔に危機感があるように見えたけど……多分、同行者が1人死んで余力が無くなったからかな?
まあ、無理も無いね。
そうして歩き続け、夕焼けが今にも消えて夜の帳が下りようとしている時――
「……着いたね」
「ああ、ほんとだな」
僕たちは、旧新宿駅コミュニティに辿り着いた。
嘗て、日本最大級の賑わいを見せていたと言われている駅を形作っていた巨大な建物は、今やこの辺最大の瓦礫の山となっており、身を隠すには打ってつけのように見える。
コミュニティがあるのは、この瓦礫の下――旧新宿駅の地下1階を拡張した場所。
「行こう」
「だな。確か、この辺から入れた気がするなぁ……あ、瓦礫で塞がってる。なら、あっちか」
そして、僕たちはまた歩き出した。
旧新宿駅コミュニティへ入るのに、道と呼べる道は無い。
旧大手町駅コミュニティの裏ルートと同様、瓦礫で出来た道なき道を、方向のみを頼りに進む感じになる。
その後、何とか中に入れそうな道を見つけた僕たちは、瓦礫の中へ潜るような感じで、入り口へと向かって進み始めた。
「「「ヂュイー!!!」」」
バババン!
「……使うしか無いか」
当然、ここにも上より少ないとて寄生獣は居る。
だが、戦うどころか満足に動く事すら出来ないこの環境――見つかれば確実に銃弾を使わないと対処できない。
下手に使い過ぎて、赤字になったら普通に本末転倒なんだよ、これ……まあ、今回は道中で大量の火薬を手に入れたからいいんだけどさ。
そう思いながら、僕は翔と共に進み続ける。
そして、遂に――
「……よし」
「お~やっと着いたぁ~!」
僕たちは、旧新宿駅コミュニティの入り口に到着した。
ふぅ……休みたいし、早く中に入ろうか。
「それじゃあ、入れて貰おう」
そう言って、僕は錆びつつも堅そうな扉に手をやると、コンコンとモールス信号で合図を送る。
極々一般的なモールス信号で、「旧大手町から依頼。”運び屋”2人」と伝えたのだ。
すると、10秒ほど経ってから扉がズズズと音を立てて横にスライドし、人1人がギリギリ通れるぐらいの隙間が出来た。
「うむ……ああ、偶に見る顔だな。いいぞ、入れ」
「うん、ありがとう」
「おーありがとさん」
そして出てきた門番から許可を貰い、僕たちは無事中に入れたのであった。
「ふぅ。それで、何の依頼で来たんだ?」
「はい。秋月望さんの依頼を受け、秋月詩音さんに手紙を渡しに来ました」
門番の言葉に、僕はそう言ってリュックサックからすっと取り出した手紙をチラリと見せる。
「なるほど……分かった。秋月詩音さんは確か……ああ、大通路を真っ直ぐ50メートル程行った所の右手にある、秋月の表札がある錆び鉄ドアの家だ。届けてやってくれ。兄の事を、よく気にかけているからな」
すると、門番は名簿のようなものを見ながら、そう言って教えてくれた。
「うん、分かった。じゃあ、行こうか。翔」
「ああ、そうだな。さっさと行って、手紙を届けて来ねえとな」
そうして僕たちは、手紙を届けるべく、詩音さんの家へと向かって歩き始めた。
「俺はひっさびさに来たけど、人多いなぁ。やっぱ」
「旧大手町駅よりは流石に少ないけど、それでも300人ぐらいは居るからね」
大通りを歩きながら、僕たちは道行く人たちを横目にそんな事を口にし合う。
すると程なくして、1つの横穴――家に辿り着く。
「ここかな?」
「秋月って書いてあるし、ここで確定だろ?」
「だよね……じゃあ、早速渡そうか。中に人、居るみたいだし」
そう言って、僕はドアをノックすると声を上げた。
「詩音さん! 手紙を届けに来ましたー!」
「旧大手町駅のコミュニティから、秋月望が出したやつだぜー!」
続けて翔も、補足するような感じで声を上げる。
すると、家の中からバタバタと足音が聞こえ――
ギィ――
「ありがとう、お兄ちゃんからの手紙を届けてくれて。取りあえず、中に入って!」
20代半ば程に見える、髪を肩程までに伸ばした女性が勢いよく出てきた。
彼女は、僕たちの姿を見るなりそう言って、中に入るよう促す。
「うん、分かった」
「お、おう。入らせてもらうぜ!」
そんな彼女に対し、僕たちはそれぞれそう言って、家の中へと足を踏み入れた。
室内は、少し散らばっているといった感じで、床に物が少し転がっているのが見受けられる。
まあ、この原因は恐らく……
「まま! この人たちは、だぁれ?」
この子供だろう。
大体4歳ぐらいだろうか……その女の子は彼女の下へ駆け寄ると、そう言って僕たちを見やる。
「お客さんですよ。ままは少し話があるから、向こうでちょっと待っててね」
「うん、分かった!」
彼女の言葉に、元気よく頷いて子供部屋らしき場所へと戻って行く女の子。
聞き分けの良い子供だなぁと思っていると、やがてリビングらしき場所に案内された僕たちは、椅子に座るよう促された。
「んーそれにしても、こんな子供が来るなんてねぇ。ちょっとびっくりしたよ?」
「その気持ちは、分からんくは無いぜ? ま、実力はガチもんだから。普通に、そんじゃそこいらの”運び屋”よりは有能だ」
椅子に座ると、椅子が2つしか無い故に立ったままの彼女は、世間話を言うかのようにそう言った。
そんな事言われてもなぁ……と思っていると、翔が横からそんな事を軽快に言う。
「私の夫も”運び屋”
するとそう言って、彼女――秋月詩音はニコリと笑みを浮かべるのであった。
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