第十四話 寄生獣化
膝を付き、肩で息をする斗真。よく見れば、首筋の血管が異様なまでに浮いている。
「まさか――」
その瞬間、俺は斗真の身に何が起こったのかを悟った。
それは――
「寄生獣化……!? う、嘘だろ!?」
そう。”アンノウン”に寄生される事によって発症する、寄生獣化だった。
僕の横で、声だけは何とか抑えつつも狼狽える翔。
そんな彼を横目に、僕は必死に冷静さを取り繕いながら斗真に声を掛ける。
「斗真……無理なの?」
「あ、あ……もう来る」
だから――
「そうなる前に、俺を殺せ」
「……」
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
やりたくない。そんなこと、やりたくない。
だけど、やらないと――やるしか、やるしか――
「……うん。分かった」
僕は苦悩しながらも、斗真の下へと歩み寄った。
「奏太……流石にこれは、俺がやるか?」
「いい。僕がやる」
責任は僕だ。僕のせいだ。僕のせいで、斗真はこうなったんだ。
なら――介錯は僕がするべきだ。
「や……べ……」
すると、斗真がバタリと後ろに倒れ込んだ。
見れば、出血部から近い右手が赤黒く変色している。
「ごめん斗真」
そう言って、僕は斗真の首に手を掛ける。
そして、様々な感情を渦巻かせながら――それでも冷静に言葉を発した。
「何か言う事ある? 手短に言って」
「……そうだな。俺の骨でも、なんなら道具1つでもいい。それを、
僕の言葉に、寄生獣へなろうとしている斗真は最後の力を振り絞る様に――寄生獣にならぬよう抗うように――そう言った。
ゴボゴボゴボ――
肉体が膨張する音。もう、時間が無い。
「分かった」
僕はそう一言だけ言うと、ゴキッ!っと頭を横に倒すようにして斗真の首を――折った。
――姉さん、ごめん。
その後、そんな声が聞こえたような気がした。
……多分、気のせいだけど。
ゴボゴボゴボ――ゴボ――ゴボ……
すると、絶命から程なくして身体の膨張が止まった。
母体となる斗真が死んだことで、寄生獣化が止まったのだろう。
「……うん。翔。回収しよう。あと、役割分担も少しだけ変更。
「……ああ、そうだな。急がねぇと。また寄生獣が来ちまう」
感傷に浸る暇は、斗真には悪いけど無い。
僕たちは即座に行動を開始する。
「取りあえず、索敵も僕がやるよ。翔は引き続き戦闘をお願い」
そう言いながら、僕は斗真のリュックサックを手に取ると、その中から使えそうな物を持てる範囲で取り出し、自身のリュックサックに入れる。
「翔も必要なのがあったら取って。僕は寄生の影響をほとんど受けていない足先の指の骨を取って、焼くから」
「……俺はいいや。流石に言葉を交わした奴の死体漁りは、気が引ける。元より、そんな容量に余裕もねぇし」
僕の言葉に、翔はそう言って首を横に振った。
翔の気持ち、別に分からなくも無いけど……そのせいで死んだら、元の子も無いよ。
死んだ人たちの慰めになるかは分からないけど、最善を尽くして生きないと駄目だと僕は思うな。
特に今回、彼は僕のせいで死んだようなものだから……ね。
「……よしっと。燃やすか」
斗真の足指の骨を採取した僕は、そのまま火を放って彼の死体を”アンノウン”ごと燃やした。
焼け焦げた死体は、寄生獣どもが食べる事だろう。
そう思いながら、僕はさっさと踵を返して歩き始めた。
「翔、行こうか。周囲の警戒とか、ルートは任せて」
「あ、ああ。分かった。戦闘は任せとけ」
その後、普段と変わらず冷静に言った僕の言葉に、翔はどこか引っかかりを見せたような顔をしながらも、頷くのであった。
それから、僕たちは順調に歩みを進めて行った。
同行者が1人減ってしまったが、元々ここは3日掛けたものの、僕1人でも行ったことがある区間だ。
故に、何か想定外の事が起こらない限りは、2人でも順調に進める。
「……なあ、奏太。お前は斗真が死んだことをどう思ってんだ~?」
軽く、されど重く。
そんな問いを唐突に投げられた僕は、一瞬立ち止まるも直ぐに歩き出すと、答えを告げる。
「同行者が死んで……それも僕のせいで死んで、僕は無力だなって思ったよ。僕が強ければ、同行者は死ななかったのかな?」
淡々と、ただひたすらに冷静に、僕はそう言った。
すると次の瞬間、翔が声を上げた。
「おめぇ……なんでそんな軽く言えんだよ! つーか、何が同行者だ。斗真の事を軽んじてんのか? その感情みたくよ」
「あ?」
それを言われた瞬間、僕の中で何かが切れた。
そして気づけば、僕は翔の右胸に銃口を突き付けていた。
「っ……!」
突然の事に、息を詰まらせる翔。
そんな彼に、僕は思うがままに言葉を発する。
「苦しさが、痛みが、感じないと思うか!」
ずっと痛い。苦しみが、重なるんだ。
どんどんたまっていくんだ。
どんどんどんどん……どうしようも無いぐらいに。
ずっとずっと、
「……っ!」
ここで、僕は激情していた事に気付いた。
ああ、駄目だ駄目だ。こんなの、ここでは不要な感情だ。
死ぬわけには……いかないからね。
「ごめん……行くよ。今の音で気づかれた。急ごう。そして、臭い袋やりつつ隠れて少し休憩だ」
「……おう。あと、すまんわ」
「……行くよ」
そして僕は、先へと進むのであった。
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