第十三話 ミスの代償
五反田の核シェルターコミュニティ跡を出た僕たちは、大通り沿いに旧新宿コミュニティを目指して歩みを進めていた。
「さーてと。切れ味はどうか……なっ!」
ザシュ! ザシュ!
直後、翔が振るったマチェットが、道塞ぐ植物を斬り裂く。
「斬り味良好。良きって感じだな。暫く使ってみよ」
それを見て、翔はそう言ってどこか満足気にマチェットへ視線を落とした。
確かにあれなら、容量を気にするほど嵩張る事も無いし、よく使うなら入れ得だね。
「確かに、便利そうではあるな。まあ、俺はダガーナイフで十分だと思ってしまうが……な。咄嗟に出す時に間違えたら洒落にならない可能性があるし」
「うん、まあ実際それはそう。別に、間違えなきゃいいだけの話ではあるんだけどなぁ……」
その後、斗真の正論に翔はそんな言葉を口にする。
うん。斗真の言う事も正しいね。
正直僕は、翔と同様に間違えなければ問題は無いと思う質だけど……リスクを少しでも抑えたいと思う斗真の気持ちも、分からなくはないかな。
「……ちっ にしても今日は、鳥型が多いな。そのせいで犬型とかが変な場所に居るせいで、ルートがかなり面倒な事になっている」
「そうだね。でも、寄生獣と戦い続けるよりはずっとマシだよ」
「ほんとにそうだぜぇ」
そう。上空を見れば分かる通り、今日はいつにも増して鳥型が多い。
そのせいで、犬型や猫型といった寄生獣が身を隠せる場所に徘徊してて、面倒な事になっているんだ。
その対処として僕が選んだのは、崩れた建物の上の方――地上7メートル辺りを飛び移ったり、ロープを使ったりしながら進む道だった。
当然このルートは進行難易度がかなり高いが、寄生獣にはあまり襲われないという利点がある。
襲われた時が怖いけど、下を進むリスクと天秤に掛けた結果、こっちを選んだという訳だ。
「よっと。居なさそうだね」
「ああ。こっちも、寄生獣が来る気配は無い」
そんな場所という事もあってか、普段以上の警戒をしながら進んでいる。
予定では今日の昼過ぎには着く感じだったけど、この様子だと夕方頃になりそうだ。
まあ、日が出ている内に着けるなら特段問題は無い。日が暮れちゃって夜行性の寄生獣が徘徊する時間帯になっちゃうと、隠れて野営せざるを得なくなって、大変だからね。
死ぬリスクも、結構上がっちゃうし。
「はっ はっ はっと」
「あらよっと」
「はっ はっ」
そんな感じで、僕たちは崩れた建物を跳び伝いに進んで行く。
なるべく頭上が塞がれていて、かつ足場がしっかりしている場所――それを僕は正確に見極めながら、進んでいた。
これ、案外難しいんだよね。でも、見誤れば最悪ここから真っ逆さまに落ちて死ぬ。だから絶対に、間違える事は出来ないんだ。
「……ちっ 避けられんな。来るぞ」
直後、斗真がそう言った。
一拍遅れて、僕と斗真もこれから何が起ころうとしているのかを悟る。
「多いね」
「この感じ、鼠型かなぁ」
そして、何が来るのかを気配や音で判断しながら、即座に武器を抜いて臨戦態勢となった。
「「「「チュイー!!!!」」」」
刹那、下の階から這い上がって来たのは、体長1メートル程の寄生獣。
赤黒さが混じった灰色の体毛、赤い瞳、鋭い歯を持つ奴らの名は――鼠型寄生獣。
見るに、数は10といった所かな。
バババン!!!
すると、横で響く発砲音。
「へっ へ~い。死に晒せ!」
見れば、翔がリボルバーを発砲していた。
1発は外したものの、2発は命中して先頭に居た2匹の鼠型がバタリと地面に倒れる。
「「「「チュチュー!!!」」」」
だがそんなの意に介さず、残る鼠型はその骸を超えてこちらへ迫って来る。
距離はあと3メートルか。
「こっちへ来るなっ!」
「はあっ!」
それに対抗すべく、僕は2本の投げナイフを両手で持って勢いよく投擲。
斗真はダガーナイフでの迎撃を行った。
「ヂュン!!!」
「ヂュイー!!」
僕の投げナイフは正確に眉間へ突き刺さり、鼠型を死へと追いやる。
「はあっ!」
その後、僕は流れるようにダガーナイフを両手に構えて突撃すると、首を狙って勢いよく振り下ろし、殺していった。
「よし。あと少し――」
そんな時だった。
「うぐっ」
突然、頸椎に痺れるような痛みが走る。
なんでこんな時に、あれが……
「ヂュウー!!!!」
「あっ……」
マズい、しくじった。
そう思った時には、もう遅い。
まるで吸い込まれるように、正面から鼠型の鋭い刃が迫って来て――
「あぶねええええっ!!!」
刹那、横から伸びてきた斗真の右腕が、鼠型の口を塞いだ。
「はああっ!!!」
そして、その右腕を勢いよく地面に振り下ろすと、左手に持っていた投げナイフを鼠型の首に突き刺し、殺害した。
「あっ――はあっ!」
バババン!!!
突然の出来事に僕は一瞬呆けるも、直ぐに冷静さを取り戻すと、残る3匹の鼠型を弾丸を放って殺した。
「お、おい! 急に首を抑えて……大丈夫か? 奏太」
「うん、僕は大丈夫。……ごめん」
その後、僕は焦った様子で駆け寄ってきた翔にそう言ってしおらしく謝ると、今度はその場で佇む斗真の方を見やる。
「斗真、ありがとう。助かったよ」
僕の言葉に、斗真は小さく息を吐くと、こちらを見やった。
そして――
「……なら良かった。そして、すまん。
そう言って、ドサッと力なく地面に膝を付けるのであった。
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