第十一話 滅亡はある日突然起こるもの
五反田の核シェルターコミュニティを目前にした所で、僕はある違和感を覚える。
「待って。なんか、これは……」
「ああ、奏太も感じたか。この違和感に」
どうやら斗真も同じように、違和感を感じ取っていたようだ。
「んあ? ……あーはいはい。なるほどね。確かになーんか嫌な感じがするな」
その後、少し遅れて翔も違和感に気付くと、そう言って眼前にある廃墟をじっと見つめる。
「……考えすぎの可能性も当然あるが、慎重に行くぞ。念のため、臨戦態勢になっておけ。特に翔」
「了解了解。任せとけ」
冷静な斗真の言葉に、翔が軽快に頷くと、武器の短刀に手を掛けた。
うん、いつでも戦えそうだね。
「先頭は僕が行く。後方や左右の警戒をお願い」
「おう」
「了解した。気を付けて行け」
そうして、僕も当然臨戦態勢になりながら、コミュニティがある廃墟の中へと進んでいくのであった。
「……やっぱり、寄生獣の気配はしないね」
「だな。だが、やっぱりおかしい」
「そうそう。なんて言うんだろ……人が居る感じがしないってかさ。人が出入りしてる感が無いよね。コミュニティの入り口付近なのに」
廃墟に入ったものの、寄生獣の姿は見えなかった。
それに関しては予想通りなんだけど……それなら、この違和感は何なのか
うーん。もしかして……
「いや、見てからだ」
脳裏に一瞬浮かんだ説を、僕は頭を振ってかき消すと、どんどん奥へと向かって進んでいく。
やがて、目に入ってくるのは
その瞬間、僕たちの思考は一致する。
「襲撃……か」
「おいおい、マジかよ……」
「……この壊されよう、寄生獣だな」
やっぱり……か。
脳内でそう思いながら、僕はそう言葉を漏らした。
コミュニティが寄生獣の襲撃に遭う事は、決して珍しい事でも無い。
それ故に、僕は冷静にその事実だけを受け止めながら、続けて口を開く。
「被害状況は、どんな感じかな?」
「分からん……が、戦闘音はしないから、少なくとも戦いは終わっていると見た。中にここのコミュニティを崩壊させられるだけの寄生獣が居るのなら、流石に感じ取れるし……見に行くとしよう」
「だねだね~。助けを必要とする人が居たら、でっかい恩を売れるしね。ほっとくのもあれだし、見に行くか」
どうやら2人は、下に行って状況を見に行くみたいだ。
うーん……隠密系の寄生獣に襲撃されたような戦闘跡では無さそうだから、行くリスクはそこまで高くない。
情報は交渉材料にもなり得るし、色々考えれば行く方がいいかな。
「そうだね。気配を消して、慎重に行こうか」
「おけおけ。先頭は俺が行く」
「ああ、適任だな」
こうして僕たちは、慎重に下へと続く壊れた梯子を下って行くのであった。
カツ、カツ、カツ、カツ
所々が無い、金属製の梯子を降るのはそれなりに緊張する。
だけど、万が一壊れて崩れちゃっても引っ掛ける場所は沢山あるから、死ぬことは無い。
そう思いながら30メートル程下った所で、ようやく地面に足が付く所まで来れた。
「よっと……ああ、マジかよ」
最初に降り立った翔は、前を見るなりそう言って眉を顰めた。
それを見て、僕は嫌な予感を覚えつつも、地面に降り立つ。
そして目の前の光景を見て――同じく眉を顰めた。
「……無残だね」
頭部が無い、足が無い、腕が無い、ぐっちゃぐちゃ――そんな、無残な姿となった人間の骸が、そこには沢山転がっていた。
壁と地面は赤黒い血で染まっており、そこら一体に死臭が蔓延している。
僕は鼻を塞ぎたい衝動に駆られつつも、ダガーナイフを構えながら周囲を見回した。
「……なるほど、な」
その後、最後に降りてきた斗真が、そう言って目尻を下げるのであった。
「……取りあえず、先へ進もう。”アンノウン”に気を付けろ」
「だねぇ……。死体が綺麗さっぱり喰われてないあたり、討伐はされてるみたいだし」
「ああ。生存者を見つけ、話を聞かねばならないな」
そうして僕たちは、死臭が蔓延する通路を、眉を顰めながら進みだした。
核シェルターの通路、居住区、栽培室――次々と部屋を見回していくが、どこもかしこもあるのは瓦礫と無残な死体のみ。
この核シェルターの構造は知っているから、もう残っているのは……最奥にある倉庫だけかな。
「……なっ!」
「……マジかい」
「……そうなんだ」
そして、倉庫に足を踏み入れた僕たちの目には、衝撃的なものが飛び込んできた。
だって、そこには――
「虎型寄生獣……か」
黄色と黒の体。そして鋭く長い牙を持つ、体長7メートル程の寄生獣。
猫型寄生獣をずっと大きくしたようなそいつは通称、虎型と呼ばれる寄生獣。
上位の寄生獣であり、危険度はあの鷲型寄生獣を大きく上回る
そんな危険寄生獣が――
「死んでいる」
なんと、全身傷だらけにしながら死んでいたのだ。
見れば、その周りには十数人もの人間の骸が転がっていた。
そんな彼らに共通するのは、皆銃なりナイフなりといった武器を持って死んでいるという事。
情況から、恐らくは――相打ちだった。
「……相打ちとは言え、虎型を仕留めるとは。優秀だな」
「ああ。本当に……な」
「……うん」
何度も行ったことがあるコミュニティの滅亡。
それを目の当たりにした僕は、すっと目尻を下げつつも、気を強く持とうと気張り続けるのであった。
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