第十話 囮作戦
「おらぁ!!」
「ニャアンッ!!!!」
物陰から強襲してきた、体長1.3メートル程の赤黒い毛に覆われた生き物――猫型寄生獣を、翔が咄嗟に硬い鉄板が埋め込まれた靴で喉元を蹴り抜き、昏倒させる。
「ふんっ!」
そして、そのまま流れるように僕が、地面に伏した猫型の頸椎を踏み砕いてとどめを刺した。
「ふぅ……よし」
猫型は気配を消す能力が圧倒的に高く、その点に関しては犬型よりもずっと厄介だ。
だけど、その代わりなのか群れる事は基本的に無いから、ちゃんとやれば対処は出来る。
「今の所は、気配なし。だが、油断はするな」
「了解了解。いつでも戦いに入れるぞ」
「うん……あと、この感じからしてそろそろだよ」
そう言って、僕は周囲をぐるりと見回す。
この付近は、見覚えがある。五反田の核シェルターコミュニティがある場所――その近くだ。
「キシャアア!!!」
「おわー鷲型飛んでるなぁ」
「獲物を探しているのか……怠いな。陽光下に出た瞬間見つかる。迂回経路を探そう」
「うん。そうだね……ん?」
相応のリスクを覚悟せねば、勝つことの出来ない鷲型寄生獣が空を徘徊している事を確認した僕は、使えそうな迂回経路が無いか周囲を探――ろうとした瞬間。
「「「バウバウバウ!!!」」」
後方にある、倒壊した建物によって出来た通路から、3匹の犬型が飛び出て来た。
「来たか……鷲型に見つかるリスクを考え、ここは俺が拳銃で仕留める。警戒は任せた」
そう言って、僕のよりも古い型のリボルバーを抜いた斗真は、迫り来る犬型に標準を合わせる。
「じゃあ、僕は……あ」
この位置関係。背後に行けば、鷲型にやられる。
なら――
「2匹だけ仕留めて! 翔は、1匹を蹴りで向こう側に!」
「……! なるほど、理解した」
「お、おう! 任せろ!」
僕の言葉に、斗真は若干目を見開かせてから直ぐに頷き、翔は戸惑いつつも力強く頷いた。
ババン!
刹那、響くのは2発の銃声。
「ギャイ……ン」
「ギャインッ!」
同時に、2匹の犬型が頭部を撃ち抜かれて崩れ落ちた。
だが、残る1匹はお構いなしにこちらへ迫って来る。
「ガウ!!!!!」
そして、その鋭い牙を光らせて先頭に居る翔を噛み砕こうとする――が。
「へへっ お前ボールなっ!」
翔の回し蹴りが、犬型の脇腹にクリーンヒットした。
鉄板が入ったその靴による強烈な回し蹴りは、犬型程度では到底抗える代物では無い。
「ギャイン!!!」
犬型は、そんな情けない鳴き声を上げながら、俺の横をゴロリと転がる。
「おらっ! おらっ! おらあああああっ!!!!」
「ギャイン! ギャイン! ギャイーン!!!」
そこに、翔が追撃とばかりに連続蹴りをお見舞いし、犬型を外へと追いやった。
「はーっ はーっ ……流石に足疲れたわ」
建物の外まで犬型を蹴り上げた翔は、そう言って足を擦りながらこちらへ歩み寄って来る。
「うん、ありがとう。翔」
「ああ。実に強力な蹴りだった。凄いと思うぞ」
「おう。いやーそう褒められると嬉しいな。それで、何が目的なんだ?」
僕と斗真からの誉め言葉に、翔は頭を掻いて照れつつも、そう言って自分の後ろを流し見る。
そこには、
「バウバウ!!!!」
犬型は直ぐにこちらを見やると、鋭く吠えた――その直ぐあと。
ドオオオオオオン!!!!!!
そこを起点に、大きな破壊音が周囲一帯に響き渡った。
僕は咄嗟にゴーグルを付けつつ、その一点を一切目を反らさずにじっと見つめる。
「ふぅ……やはり反応早いな」
「おわー……なるなるほどほど。それ狙いか~」
斗真と翔も、流石の反応速度で半足後ろに下がりつつ、念のためのゴーグルを付けながら、それぞれそう言葉を零した。
バサバサ――
「キシャアア!!!」
直後、大きな羽音と同時に土煙が晴れる。
そうして姿を現したのは、犬型を嘴に銜える鷲型寄生獣。
「キシャアアアア!!!!!!」
それを喰らいながら、鷲型は颯爽とその場から飛び立っていった。
「……ふぅ。もう大丈夫そうだね。今の内に行こう」
地上を見下ろすように飛んでいた鷲型が、唐突に表れた犬型を無視する事は本能的に出来ない。そう判断しての行動は正解だったと思いながら、僕はゴーグルを上げるとそう言って、2人を見やる。
「いやーやっぱ奏太君は機転が利くね。俺じゃ咄嗟に思いつかんぜ」
「全くだな」
「2人が居てこそ……少なくとも、僕1人じゃ出来なかった作戦だよ」
2人の言葉に、僕は軽く首を横に振ってそう言った。
僕だけじゃ、犬型をスムーズに送り出すだなんて真似は到底出来ない。筋力が圧倒的に足りないから、物理的に不可能なんだ。
その点、翔は脚力が他の”運び屋”と比べてもずば抜けている。あの作戦を実行するのには、打ってつけだったという訳だ。
「うん……じゃあ、ここは一気に突っ切ろう。鷲型のお陰で、他の鳥型が居ないし」
「だなだな」
「ああ。急ごう」
その後、僕たちは残った犬型の死骸処理をすると、早急に先へと向かって走り出した。
そして遂に――
「よし。あそこから入れば、ここのコミュニティに入れる!」
五反田の核シェルターコミュニティ――その入り口がある廃墟に、辿り着くのであった。
だが、そんな中で。
「……ん?」
僕は、ある違和感を覚えるのであった。
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