第九話 惜しんだ者から、死んでいく

 休憩を終え、旧品川駅のコミュニティ跡を出た僕たちは、そこから進路を西に変えて進み始める。

 今の所は順調……だけど、それなりに距離を歩けば、どうしても予定外の事態に恵まれる事が何度もある。

 それは、今回も同じだったようで……


「崩れてる。この前見た時は、大丈夫だったのに……」


 そう言う僕の視線の先には、進路を塞ぐかのようにバタンと倒れている巨大なビルの壁。


「植物的に、つい最近に倒れたっぽいな」


「進路はどうする? もたもたはしていられんぞ」


 2人の言葉に、僕は僅かに考えを巡らせてから口を開いた。


「窓から、倒れたビルの中に入って、その中を進もう。迂回するとなると、屋根が全くない場所に出そうだから、鳥型に沢山襲われる」


 そう言って、僕は物陰から上を見やる。


「カァ! カァ! カァ!」


「クルッポー! クルッポー!」


「チュン! チュン! チュン!」


 そこには、体長80から1.5メートルほどの鳥型寄生獣が、種ごとに群れを成して飛んでいた。

 鴉型、鳩型、雀型――どこにでも見かける型の寄生獣だ。

 そこまで強くは無いが、一度見つかって戦闘すれば、連鎖するように次々と襲い掛かって来るから、逃げ場所となる閉所の無い場所で戦いたくない。


「道理だな。ここは一気に抜けて、窓から倒れたビルの中に入ろう」


「よし。それなら先頭は俺がいいな。ビルに入った瞬間に、出会い頭で襲われる可能性があるし」


 斗真は頷き、翔はそう言って前に出た。

 うん。慎重にでは無く一気に突入する都合上、ここは戦闘を担当する翔を先に行かせる方が賢明だね。

 そう思いながら、翔に先頭を譲った僕は、2番目に回るとそこから周囲の警戒を行う。


「……行けそうだな」


「うん。今なら大丈夫そう。正面の、瓦礫が少ない所から入って」


「了解っ! 遅れるなよっ!」


 僕と斗真の言葉に、翔は力強く頷くと、一気に前へと飛び出した。

 そして、その後を僕と斗真が即座に追いかける。


 バサバサバサッ――


「カァー! カァー! カァー!」


 刹那、頭上から羽音と鳴き声が聞こえて来た。

 距離を詰めてきているな……。


「とああああっ!」


 だが初動の差で、流石にこっちが飛び込む方が早かった。

 まず翔が、転がり込むようにして倒れたビルの内部へ窓から入る。


「よっと」


 続いて僕が、ぴょんと跳んで窓枠に片足を掛けると、そのまま蹴り上げるようにして中に飛び込んだ。


「はあっ!」


 そして最後に斗真が、窓枠の下側に手を掛け、乗り越える様な感じで中に入った。

 そのすぐ後のこと。


 バサバサバサッ!


「「「カアアァ!!!!!!」」」


 鴉型寄生獣が、窓枠に次々とぶつかる様子が視界に飛び込んできたのであった。

 ふぅ……やっぱり、鴉型は反応が早いなぁ。

 ただ、その大きさ故にこの大きさの窓からは入れない。


「ちぃ! やっぱ居るかぁ!」


「「「バウバウバウ!!!!」」」

「「「グルルルルゥ!!!!」」」


 しかし、一難去ってまた一難。予想通りと言うべきか、閉所たるここには犬型寄生獣が徘徊していた。

 左右二方面から――数は合わせて6。


「ここは使おう。左をお願い」


 そう言って、即座に僕が構えるのは、38口径リボルバー。

 銃弾は貴重だけど、使うのを惜しめば簡単に死ぬ。

 それを僕は何度も見てきた。


「ふぅ――」


 息を吐き、思考をクリアにした僕は一切躊躇う事なくその引き金を三度引いた。


 バババン!


 繋がる様に響く発砲音。

 そして放たれた弾丸は、犬型の脳天を正確に貫き、一瞬で命を奪った。


「よし――」


 仕留めたと確信した僕は、すぐさまリボルバーを仕舞って代わりに投擲用のナイフを数本右手に構えると、窓の外を見やる。


「「クルッポー!!!!!!」」


「「チュン! チュン! チュン!」」


 するとそこには、こちらへ向って来る数体の鳩型と雀型の寄生獣。

 鳩型は通れないだろうけど、雀型なら確実に通れる。

 そう思った僕は、雀型のみを狙って投げナイフを放つ。


「ヂュンッ!」


「ヂュッ!」


 喉を狙ったそれは、しっかりと雀型の命を奪った。


 バサバサバサ!!!


「ポー! ポー! ポー!」


 そして鳩型は、ちゃんと窓枠にぶち当たって、鴉型と同様に撃沈してくれた。

 寄生獣は、元となる生物よりも知能が下がる……これに救われたかな。

 とまあ、それはともかく、こっちは大丈夫そうだね。


「さて。そっちは――」


 そう言って、僕は左側を見やる。


「ふー仕留めた仕留めた」


「終わり……だな」


 どうやらそっちは、銃弾を使わずに2人がかりでサクッと終わらせてくれたみたいだ。

 それなら、一旦は大丈夫そうかな。


「奏太も終わらせたか。なら、早急に窓際から離れよう。次が来る」


「うん、分かった」


 そうして僕たちは、すぐに窓際から逃げるようにして走り出した。

 所々が崩れた、横倒しとなったビルの、本来は壁であったろう場所を突き進む。そして、大体ビルの真ん中らへんまで走った所で立ち止ると、状況の確認を行う。


「ふぅ。いやーさっきはナイス判断だ、奏太」


「全くだ。もたもたしていれば、危うかったやもしれん。それで、この後は?」


「そうだね……ビルの根元の方から外に出て、建物や瓦礫の陰に身を潜めながらコミュニティまで一気に向かおう」


 2人からの褒めを上手く流しながら、僕は方針を告げた。

 根元付近から出れば、ほぼ確実に他の建物の近くに出られるからね。開けた場所にはなるべく行きたくない都合上、その選択は大事になってくる。


「だねー。それが無難に良きって感じだね」


「ああ。建物内故、犬型による挟み撃ちや猫型の奇襲には気を付けるぞ」


「うん、そうだね」


 そうして僕たちは、横倒しとなった廃ビルの中を慎重に進んでいくのであった。

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