第七話 いつも通りの戦闘

 地上に出た僕たちは、建物や瓦礫の陰に隠れながら、旧新宿駅のコミュニティを目指して歩いていた。

 予定移動距離は、20キロ弱。

 明日の夕方には着くことだろう。


「……ちっ 犬型か」


 すると、僕たちの進行方向に6体の犬型寄生獣が徘徊しているのが見えた。


「位置が悪い……旧皇居が直ぐそこだ」


 そう言って、僕は右方向を見やった。

 旧皇居――緑溢れる、嘗て天皇が居た場所は、今ではその恵まれた環境もあってか、大型寄生獣の住処となっている。

 しかも、あそこには混成型――いくつかの種が混ざった特異な寄生獣の姿が数体確認されていて、大型寄生獣も好き勝手には動けない。

 だからこそ、直ぐ近くにある僕たちのコミュニティが存続できているんだけど……ね。


「これは……戦う方が安全かな」


「だねー。じゃ、俺前行って切り込むわ。銃弾は温存」


「了解だ。戦闘音で他の寄生獣が来る前に、仕留めるぞ」


 こうして方針を即座に定めた僕たちは、一気に戦闘態勢に入る。


「んじゃ、行くぞ」


 そう言って、右手に短刀を構えた翔が地を蹴った。

 そして、一気に犬型寄生獣へと接近する。


「バウバウバウ!!!!!」


 犬型も1歩遅れて気づき、その鋭い牙をむき出しにして襲い掛かって来た。


「物騒だ――なっ!」


 だが、翔は直前で拾い、左手に握っていたビルの瓦礫を、先頭に居た奴の口内に突っ込んだのだ。


「ヴウゥン!!!!」


 突然口内を塞がれ、出鼻を挫かれた犬型は苦悶の声を上げて、明後日の方向へと駆けて行く。


「遅い」


 犬型相手に――ましてや、こんな悲惨な事になっている奴に負ける程、僕は弱くない。

 寄生だけはされないように距離は取りつつ、僕は頸椎を一突きして処理した。

 寄生獣は下手に斬り刻むと、そこから”アンノウン”が出て来る可能性があるからね。

 肌を露出させていなければ、基本的に大丈夫だけど……それでも、油断は出来ないんだ。

 だってそれで、お兄ちゃんは――


「……後は、そこかっ!」


 1体処理した僕は、瓦礫を拾うと、返す刀で残る犬型目掛けて投擲する。


「ギャイン!」


 それは、1体の顎を強烈に殴打させる事に成功した。

 本当は、その口の中に入れてやりたかったけど……無理かぁ。


「上出来だ」


 だが、隙は作れた。

 そして、その隙を斗真は見逃すことなく、真っ先に首をダガーナイフで掻っ捌いて、殺して見せた。


「いい感じだっ!――ねっ!」


 そして最後の1体を、翔は顎を蹴り上げてからの喉一刺しで殺った。

 よし。これで全滅……完全勝利だ。

 そう思い、僕は内心で少し口角を上げた。

 ただ、勝利の余韻に浸っている暇はない。


「急ごう」


「だな。火は着けとくぜ」


「俺もやろう」


 ルート確保の為、僕は即座に前へと出てルートの確認。

 その間に、2人は犬型の死骸を焼いた。

 死骸に残っている”アンノウン”自体は、これで死んじゃうから、やれる時は積極的にやって行かないと。

 そう思いながら、僕は焼かれる死骸を尻目に、前方を見やる。


「うーん……崩れそうだなぁ……あれ」


 ここから見て、右側の高層ビルは全部崩れて、瓦礫と植物の山になっている。

 そして左側は、まだ崩れていないが、だいぶボロボロになっている高層ビルが並んでいた。

 うーん……手前側のビルは大丈夫そうだけど、その隣にあるビルは……上の方が下に崩れてきそうだ。

 大型鳥型の寄生獣が、ビルの屋上で暴れたのかな?


「……よし。右側の方から、瓦礫の隙間に隠れるようにして行こう。こっち側は、道路が結構割れてるから、足場に気を付けて……うん。それで、旧東京駅までは行けそうかな?」


 うん。ルートも決めた。

 細かい所は、その時その時で見て決めれば良いから……一先ずはこれで十分。


「それじゃあ、行こう」


 そう言って、僕は2人に向き直った。


「あーおっけ。行くか」


「了解だ。行くぞ」


 そうして僕たちは、また先へと向かって歩き始めた。

 地下とは違い、ここは地上。寄生獣の数は桁違いだ。

 そんな、いつ寄生獣に襲われてもおかしくない場所を、僕たちは慎重かつ大胆に進んで行く。


「いいねー。その歳で、ビビらずきっちりやることをこなす。これ、大人でも出来ない奴多いんだぜ~?」


「へー。僕、ソロの事が多いから、そういう人と当たった事は無いんだよね~っと」


 翔の言葉に、僕はそう言って窓枠を乗り越え、大型の目が届かない室内に侵入する。


「全くだ。挙句、そういう奴に限って、自分はそこそこ出来ると思い込んでいる。何度か見捨てたな、俺は」


 そして、斗真は吐き捨てるようにそう言った。

 中々酷い言い方をするけど……正直、それは賢明な判断ってやつだ。

 足を引っ張られた挙句、その人を助けるために自分が命を懸けるだなんて……どうかしているよ。


「ま、賢明な判断だな。俺も、そんなシーンに出くわしたら、多分そうする」


「まあ、2人は平凡どころか有能だ。人格もいい。余程の事が無い限りは、見捨てはせん。気分も悪いしな」


 なるほど。

 ”運び屋”の多くは、自分が生き残ることを第一に考え、その為なら同行者を見捨てるにする事も辞さない――だけど、それにも優先順位があって、最終手段として見捨てる人も居れば、見捨てる事を前提に行動する人も居る。

 少なくとも、ここに居る人は非道なタイプでは無さそうで、良かった。

 まあ、そういうタイプの人は悪目立ちしちゃうから、上手く隠してても必然的に人が寄り付かなくなって、ソロになっちゃうのがオチだけどね。


「……よし。いい感じの所まで来れた。後は、大型の住処を避けながら、南下しよう」


「そうだね」


「だな」


 そうして地上を歩き出した僕たちは、更に先へと向かって進んで行くのであった。

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