第六話 旧新宿駅コミュニティへ

「それで、役割分担はどうする? 出来れば僕が、戦闘でメインになるのは避けたい」


 自己紹介を終えたなら、次に話すのは役割分担。

 これを決めるだけで、パーティに纏まりが生まれるんだ。


「まあ、そうだな。戦闘は俺が前張るよ。だから奏太君には、ルート確保を頼みたい」


「妥当だな。なら、俺は索敵か。引き受けよう」


 役割分担は、驚くほど早く決まった。

 これ、揉める時はかなり揉めて、面倒な事になるんだよね。

 まあ、それはともかく、僕がルート確保。翔が戦闘。斗真が索敵となった。

 全部が全部この通りに進むことの方が珍しいけど、決まったからには頑張ってルート確保をするとしよう。

 勿論、それ以外のこともしっかり頭に入れながら、行動するけどね。

 そうしてコミュニティ内を歩いていれば、いつもの――”裏ルート”の出入り口に辿り着いた。


「旧新宿駅のコミュニティへ行くんだ。通っていいよね?」


「……ああ。外に奴らはいねぇ。今の内に行け」


 僕の言葉に、門番は壁に耳を当ててから、そう言って早く先へ行くよう促す。

 よし。急ごう。

 僕はそう思いながら、門番の横を通り、外へと出ようとする。


「……にしても、えげつない頻度だな。奏太。体力的にキツく無いのか?」


 すると、すれ違いざまにそんな言葉を投げかけられた。

 その言葉に、僕は目をパチクリさせながら一瞬立ち止まる。


「ううん、大丈夫。僕って、他の人よりも体力あるから」


 だが、直ぐに聞かれた事の意味を理解すると、そう言って答え、また足を動かした。


「それでもなぁ……ま、俺に止める権利は無いがな」


 別れ際にそんな言葉を投げかけられたが、僕は気にせずそのままコミュニティの外に出た。


「ふぅ……行こう」


 ここでもたもたしていれば、寄生獣に見つかる可能性がある。

 そしてここで見つかれば、それはコミュニティを危険に晒す事にも繋がるんだ。

 だから、ここは急いでいかないと。


「ああ。奏太君が先頭で、俺は真ん中。斗真が後方確認でいいな?」


「無論だ。地上に出るまでは特に、寄生獣に見つからぬよう、慎重に行く……が、やむを得ない場合は……頼んだぞ」


「りょーかい」


 よし。話は纏まった。

 急ごう。


「着いてきて」


 そう言って僕は地を蹴ると、崩れたトンネルの内壁の上に飛び乗った。

 そして、足元に気を付けながら、僕は所々崩落したトンネル内を突き進む。


「手際良っ」


「驚いたな」


 2人もしっかりと経験を積んだ”運び屋”のようで、僕の後をしっかりと着いてきてくれている。

 まあ、ここで後れを取るような人に、望さんが依頼をする訳が無いか。

 そう思いながら、俺はより一層崩落した地帯を巧みに進んでいく。

 嘗てはここも、コミュニティの一部だったんだけど……寄生獣の進行に遭い、爆破による意図的な崩落でそこを切り捨てる事で、進行を食い止めた過去があるんだ。

 今では、それ以降の度重なる崩落によって地上へと続くいい感じの道が出来て、それが”裏ルート”になったんだよね。


「……っ!」


「止まれ。そして屈め――来るぞ」


 刹那、僕の耳が嫌な振動音を捉えた。

 すると、それとほぼ同時に索敵担当の斗真が指示を飛ばす。


「うん」


「来るか……」


 僕は即座に指示に従い、その場で屈んで瓦礫の狭間に隠れる。

 身体が小さい分、隠れる事は得意なんだ。


「ギュルルルルル――」


 刹那、ここから見て反対側の壁にある横穴から、体長2メートルはある巨大なモグラが姿を現した。

 鋭い鋼のような爪、赤い眼光、所々銀色となった体毛――モグラ型寄生獣で確定だ。


「……」


 あいつの前では、絶対に動いちゃいけない。

 振動を感知されて――隠れていても、気配を消していても、襲われるんだ。


「ギュルルル――ギュギュン!!!!」


 刹那、辺りを見回していたそいつが唐突に瓦礫の山に頭部を押し込んだ。


「ギャァ!!! ギャァ!!! ギャァ!!!」


 そして顔を上げれば、そこには体長1メートルほどの赤黒くて細長い生物――ミミズ型寄生獣が咥えられていた。


「ギュルン!!! ……ギュルルルン!!!!」


 モグラ型寄生獣は、そいつを噛んで弱らせると、そのまま穴の方へと戻って行くのでだった。


「……よし。行こう」


「うん」


「だな」


 そして、過ぎ去った事を確認した僕たちは、直ぐに先へと向かって歩き出した。


「……なあ。奏太君は、いつから”運び屋これ”やってんだ?」


「うーん……8歳の頃からかな。やろうと思ったのは……もう覚えてないや……っと」


 壁の隙間に杭を突き刺し、それを利用して上へと登りながら、僕は翔の問いにそう答える。

 そう。”運び屋”を始めたのは、おじいちゃん以外の家族全員が死んだ8歳の時。

 まあ、物心ついた時からお父さんとお母さんを見て、”運び屋”をやろうって思ってたから……もしお父さんたちがまだ生きていたとしても、”運び屋”を目指していたと思う。


「子供が命を賭ける……か。それでもって、のうのうと奥に引き籠っている大人がいる。本当に反吐が出るな」


 すると、斗真が吐き捨てるようにそう言った。

 反吐が出る……か。

 ……反吐が出るって……どういう意味なんだろ?

 難しい言葉、おじいちゃんから聞いたものしか知らない。

 ただ雰囲気から、何となく言いたい事は分かった気がする。


「……出た」


 そんな感じで進み続け、気が付けば僕たちは無事、日の光が大地を照らす外に出ていたのであった。

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