第五話 運ぶのは手紙
そして迎えた次の日の朝。
1日ゆっくりと休んだ僕は、自室で出発の準備をしていた。
今回は、それなりに遠い場所へ行くからね。
旧大手町駅から旧新宿駅までは、直線距離でも6キロ。ただ、直線に進めば開けている危険地帯を何度も通ることになるから、ハッキリ言って無理だ。
だから、行くには大回りをしないといけなくなり、それで行くと大体20キロ弱になる。
「えっと……服に綻びは無し。ホルダーにリボルバーとナイフもある。手袋もしっかりとつけて……っと」
外に出る時は、なるべく肌の露出を抑えなくてはならない。
そうしないと、寄生虫”アンノウン”に寄生されて、自分が寄生獣になってしまうかもしれないからね。
メイン武器は、愛用のダガーナイフ2本に1丁のリボルバー。
まあ、使わないに越したことは無いんだけどね。
「食料、予備のナイフ。革袋、臭い袋、銃弾等。後は、取引で使えそうな物……っと」
その後、身なりを整えた僕は、次にリュックサックの中身の確認を行った。
うん。中身も大丈夫。
問題はない。
「よし。それじゃあ行こう」
そう言って僕は立ち上がると、額にゴーグルを付けた。
砂塵が舞った時に、すぐさま下ろして着用すれば、一昨日みたいにさっと行動できる。
見落としがちだけど、結構重要な道具なんだ。
そうして準備を終えた僕は、家を出る前におじいちゃんに声を掛ける。
「おじいちゃん、行って来る。予定通りに進めれば、4日ぐらいで帰って来れると思う」
「そうかい。気を付けてね。儂の事は、心配せんでええ」
僕の言葉に、おじいちゃんはそう言って軽薄そうに笑った。
おじいちゃんは、知識系のアドバイスを色々な人にしているから、僕が居ない間の生活ぐらいなら、伝手である程度どうにかなるんだよね。
凄いなぁ……僕のおじいちゃんは。
「うん。分かったー!」
そうして僕は家を飛び出すと、依頼主が居る穴へと向かって歩き出した。
「よっこらせっと」
依頼主が住んで居るのは、駅のホームがあった場所。
僕はホームの上に飛び乗ると、そこにいくつもある市場を横目に、隅に隠れるようにしてある穴へと向かう。
「あ、居るなぁ……」
その穴の前には3人の人間がおり、何か話をしている。
1人は依頼者で、残る2人は身なりから、僕と同じく依頼を請け負った”運び屋”だと推測しつつ、そこへ向かうと声を掛けた。
「すみません。依頼を受けた、黒木奏太です」
僕はそう言って、礼儀正しく挨拶をする。
すると、ラフな格好をした大柄な男性――依頼者が口を開いた。
「おう、奏太。なーにいつもしけた顔してんだよ」
そう言って、依頼者は僕の頭を豪快にわしゃわしゃと撫でる。
「あわぁ~……望しゃん止めてぇ……」
僕はされるがままにわしゃわしゃされながらも、依頼者――
望さんはおじいちゃんの友人の子供で、その繋がりもあってか、会うたびにこうされるんだ。
悪い気はしないんだけど……なんかね。
「はははっ ま、つー訳で今回はよろしくな。ぶっちゃけお前に頼むのは気が引けるんだが、俺の伝手で頼めるのが、お前しかいないんだ」
そう言って、僕の右肩をポンポンと叩く望さん。
「大丈夫。僕の力でやれると判断したから、引き受けたんだよ」
そんな望さんに、僕は毅然とした態度でそう返した。
「そうか……強いな。ま、つー訳で言っての通り、奏太が最後の”運び屋”だ」
すると望さんは、若干置いてけぼりといった様子になっている”運び屋”2人に、そう言って僕を紹介してくれた。
「こんな子供が今回の同行者か~」
「まあ、問題は無いか。それなりには出来そうだし」
それに対し、2人の反応はまずまずといった所だった。
実績はそれなりにあるけれど、子供だからなぁ……僕の事を知らない人からしてみれば、これでも反応としてはいい方だ。
この前なんか、罵倒した挙句、僕の装備を盗ろうとしてきた奴も居たし。
まあ、外でそんな揉め事起こすような馬鹿は、そんな事に意識を割いていたせいで寄生獣に喰われて死んだけど。
……むぅ。思い出したら、なんかムカついてきた。
「まあまあ、そう言ってやるな。子供だが、実力は俺が保証する。それで、お前らには依頼した時に言ってた通り、この手紙を旧新宿駅のコミュニティへ届けて貰いたい」
そう言って、望さんは懐から3枚の手紙を取り出すと、僕たちにそれぞれ1枚ずつ手渡す。
「3枚なのは、万が一の保険な。向こうに着いたら、俺の名前を出して
「うん、分かった」
「りょーかい」
「ああ……分かった」
望さんの言葉に、僕たちはそう言って頷く。
「じゃあ、頼んだぞ。それと、やれそうだったら向こうで絹を交換してきてくれ。相場以上で買い取るぞ」
「分かりましたー!」
そして、ついでの依頼も承った僕たちは、その場を後にし、去ってゆく。
「普段は近場で、単独での行動をしている黒木奏太です。基本的な事は、大体やれます」
出入口へと向かって歩きながら、僕は淡々と同行者2人に簡単な自己紹介をした。
これから共に活動する上で、これは基礎だからね。
「あ、ああ……。俺は
「俺は
すると、20代半ば程の男――水上翔は、どこか困惑したような顔をしながら。30代前半程の男――坂月斗真は、平然とした様子で、僕に続き自己紹介をするのであった。
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