第四話 銃弾とジャガイモ

 次の日の朝。

 目を覚ました僕は、昨日の戦利品を片手に、依頼主の下へと向かって歩いていた。


「よし、着いた。すみませーん! 奏太でーす!! 慎太郎さんは居ますかー?」


 やがて、1つの穴を見つけると。その入り口で声を上げる。

 すると、「分かったー!」という声と共に、中から1人の男性が出てきた。

 40代半ば程の、不精髭を生やした少々厳つそうな男――工藤慎太郎くどうしんたろうさんは、僕を見下ろすようにして見やる。


「ご苦労だったな。和也が死んだのは残念だが……仕方のない事だ。それで、依頼の品は?」


「これです」


 目尻を下げつつ言う慎太郎さんの言葉に、僕はそう言って革袋を差し出した。


「どれどれ……お、しっかり使えそうな金属を集めて来てくれたな。ありがとう」


 革袋の中身をじっくりと確認した慎太郎さんは、そう言って礼を言うと、左手に持っていたまた別の革袋を掲げた。

 そして、僕にそっと差し出す。


「ほら。約束の、38口径リボルバーの弾12発と、ジャガイモ6個だ」


「……はい。ありがとうございます」


 慎太郎さんの言葉に、中身がちゃんとあることを確認した俺は、そう言って頭を下げるのであった。


「それじゃ、今後も機会があったらよろしくな。和也の方には、俺からある程度の謝礼を和也の家の方に届けておく。お前は、ちとあいつの家族と顔合わせづらいだろ?」


「はい……ありがとうございます。では、僕はこれで」


「おう!」


 その後、僕は慎太郎さんの気遣いに頭を下げて礼を言うと、その場を後にするのであった。


「……よし。流石は慎太郎さん。いい銃弾だなぁ」


 そう言って、僕は受け取った銃弾を1つ取り出すと、それを手で優しく撫でる。

 慎太郎さんは金属加工のプロで、親から受け継いだ技術と経験を元に、銃弾を生産しては、売ることで生計を立てている。

 銃弾はとても貴重だから、本当にありがたい。

 これがたった1発あるだけで、外での活動における生存確率は格段に上がるし、いざとなれば通貨として利用できる。

 後は、同じく貴重な食料。

 宗太郎さんはそれなりに大きな家庭菜園もやってて、良い成果を出せば、これもくれるんだよね。

 家に帰ったら調理して、おじいちゃんと分けて食べよう。

 そう思いながら、僕は家へと向かって歩き出す。


「ただいま、おじいちゃん! 少し遅くなっちゃったけど、ご飯を作るね!」


 家に戻った僕は、寝込むおじいちゃんを元気づけるかのように声を上げると、小さな台所へと向かった。

 そして、そこで鍋を手に取ると、保管水を入れ、火をつける。


「……よし。こんな感じかな?」


 ぐつぐつと沸騰してきたら、その中にさっき貰ったジャガイモ6つを全て入れて、そのまま茹でる。

 木べらで上手い事混ぜつつ、丁度良い時間になったなと思った所で鍋から出して、水を切ると、皿に乗せた。


「後は……」


 そして、ジャガイモ全てにナイフで切り込みを入れ、食べる際に簡単に半分に割れるようにする。


「最後にこれっと」


 最後に、アクセントとして以前海近くのコミュニティへ行ったときに交換した塩をほんの少しだけ、先ほど入れた切れ込みの中に入れれば……よし。

 完成だ。


「朝と昼はこれを食べて……夜は、買いに行こうかな?」


 交換用として保有している、僕が使わない口径の銃弾がまだまだいくらかある為、それを使うとしよう。

 そう思いながら、僕は茹でジャガイモが乗った皿を持って、おじいちゃんの下まで歩み寄ると、すぐ横にある椅子に腰かけた。

 そして、小さな丸テーブルの上に皿を置くと、茹でジャガイモを手に取った。


「おじいちゃん。しっかり茹でたから、柔らかいと思う」


「ありがとう、奏太。なに、喉を詰まらせるような醜態は晒さんわい」


 僕の言葉に、上半身を起こしたおじいちゃんはそう言って笑うと、受け取ったジャガイモをゆっくりと頬張る。

 続けて、僕もジャガイモを1つ取ると、大きく口を開けて頬張る。

 ……うん。ジャガイモだ。

 それ以上でも、それ以下でも無い。

 んー……でも、もう少し茹で時間は短い方が良かったかな?

 そんな感想を抱きながら、僕はジャガイモを続けて食べていく。


「……うん。美味しいぞ、奏太。いつもありがとう」


 すると、おじいちゃんはそう言って、僕の頭を優しく撫ででくれた。

 おじいちゃんに褒めて貰えて……嬉しいな。


「へへへっ」


 僕は、思わず目を細めて笑うのであった。

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