第三話 僕のおじいちゃん
僕のおじいちゃんは、地球が終末世界となってしまう前――前時代から生きている、凄い人なんだ。
このコミュニティは500人規模の、相当に大きなものなんだけど、それでもおじいちゃんと同じ前時代から生きている人は、3人しか居ない。
皆、病気か寄生か殺害か――後は、自殺。
そんな感じだった。
だけど、そんなおじいちゃんも、今――
「おじいちゃん。体調、大丈夫?」
僕はおじいちゃんの下へ歩み寄ると、背中をそっと左手で支え、右手でおじいちゃんの手を握ってあげる。
「大丈夫。奏太が大人になるまでは、くたばらんさ」
僕の言葉に、おじいちゃんは安心できるような笑みを浮かべて、そう言った。
でも……だけど、おじいちゃんはもう、86歳。
おじいちゃんの言うような医療が無い世界で、そこまで生きれるのは、流石に……厳しい。
だけど――それでも、お願い。もっと生きて。
お父さんもお母さんもお兄ちゃんもお姉ちゃんも――皆死んじゃったんだ。
僕を――1人にしないで。
ポン
すると、僕の頭におじいちゃんの手が乗せられた。
そして、僕はされるがままにおじいちゃんのベッドの横で、膝を付いて座り込む。
「そんな暗い顔、子供がするものでも無い。どれ、今日は体調も良いし、いくらか話を聞かせよう」
「ほんと? ありがとう。おじいちゃん!」
おじいちゃんの言葉に、僕は顔をぱっと明るくさせると、目を輝かせた。
おじいちゃんの話は、どれも面白くてわくわくする。
僕が知らない、前時代についての話だから……さ。
「そうだね。それじゃあ、今日は儂が研究員として働いていた頃の話を、しようかねぇ……」
そう言って、おじいちゃんはゆっくりと語りだした。
おじいちゃんは嘗て、生体チップの研究を行っていた。
生体チップとは、身体に小さな何かを埋め込んで、なんか能力を得る……みたいな感じらしい。
「あの頃はよく、同僚と一緒に居酒屋で安い酒を飲み交わしたものだ。今じゃ酒は、飲めないからねぇ……」
そう言うおじいちゃんの瞳は、どこか懐かしんでいるように見えた。
「お酒って、なあに?」
「ああ、そうじゃな。お酒は、大人の飲み物じゃ。今じゃ、限られたコミュニティでしか作られていない貴重品じゃの。まあ、値段関係なく飲まない方が良いぞ」
「なのに、おじいちゃんは飲んでたの?」
「……うむ。まあ、飲みすぎは駄目なだけじゃからな。ある程度なら、健康に良い」
「そうなんだ~」
また、新しい事を知った。
お酒……薬みたいに、容量さえ守れば、身体に良い飲み物を。
そんな感じで、僕は今までにも多くの事をおじいちゃんから教えてくれた。
車、電車、新幹線、飛行機――僕が知らない、移動手段。
スマホ、パソコン、テレビ――僕が知らない、精密機器。
ゲーム、旅行、動画サイト――僕が知らない、娯楽。
上げだしたら、キリが無い。
「……痛てて」
すると、ここで僕は唐突に痺れるような痛みを、頸椎に覚えた。
痛みで、僕は右手を咄嗟にそこへ当てる。
うう……まただ。
この前も、痛かったんだよね。
よく外に出てるし、無理をしているのかな……?
そう思っていると、おじいちゃんが悲痛そうな面持ちで口を開いた。
「疲れて、おるんじゃろう。今日はもう、休みなさい」
「うん……分かった。おじいちゃんもね」
おじいちゃんの言葉に、僕はそう言って素直に頷くと、隣にある僕の部屋に入った。
ベッドや荷物置き、装備などがある少し小さめの部屋。
そこで、僕は装備を脱ぐと、丁寧にメンテナンスをした後、ベッドに仰向けで寝転がった。
「回収してきた物資は……明日までだし、明日でいいか」
そう言って、僕は痛みが引いたことを確認しながら、深く息を吐く。
「……確か、明後日にも依頼が入っていたなぁ」
そう言って、俺はぼうっと天井を見つめた。
僕は、”運び屋”という仕事をしている。
依頼を受け、外から依頼者が望む物資を回収してきたり、別コミュニティへ物を届けたりといった仕事だ。
常に命の危険と隣り合わせ。大方、子供がやるような仕事じゃない。
だけど、僕はこれしか稼ぐ術を知らない。
後は、おじいちゃんが言う”外”に憧れていたから……かな。
「確か、旧新宿駅のコミュニティへ手紙を運んで欲しい……だったね。ついでに、物資や情報をいくらか交換してきて欲しい……って感じかな?」
僕は子供だけど、依頼でしくじった事は一度も無い。
そのお陰もあってか、最近は報酬の良い依頼も少しずつではあるが、受けさせてくれるようになった。
もっとも。報酬が良いという事は、その分危険度の高い依頼になる事を意味するんだけどね。
「ふぅ……でも、稼がないと」
おじいちゃんは、僕に色々な事を教えてくれた。
だから、僕は僕に出来る恩返しとして、おじいちゃんに不自由のない生活を送らせてあげたい。
「……ふあぁぁ……眠くなってきた」
ううん……瞼が重い。
近場とは言え、5日連続で依頼を受けたのは、やり過ぎだったかなぁ……
そう思いながら、僕は意識を手放すのであった。
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