第47話 魔人誕生

 魔王は必死で現場から逃げる。


 だが体は到る所でちぎれて、芋虫状態。

 転がりながら、衝撃を受けると、体に食い込んだ金属が彼を苦しめる。


 そして、たまたまなのか、ぽっかり開いてていた洞に落ちてしまう。

 底には水があり、その中へ飛び込む。


「ぐっ、息ができん」

 彼は覚悟を決める。


「そうかこんな事で、わしは死ぬのか……」

 水底に沈み、ふわっと受け止められる。

 ひどく寒い。

 だがそれが、痛みを麻痺してくれる。


 呼吸は、できず血中の酸素濃度は減っていく。

 

 ゆっくりと、彼は死の底に沈んで行っていた。

 だがそこに、運命はいたずらをする。


 神木が、力を取り戻し浄化され、ここまで逃げてきていた、闇。


 そう、ご神木が闇に染まるには理由があった。

 それが穢れとも闇とも言われる物。

 瘴気の固まりとも言える。

 それが溜まっていた。


 そこに、自身と親和性の高い体を持った生き物が落ちてきた。


 これは良い。

 そう思い、それは魔王の中に入る。


 死にかかり、意識を失いかかっていた魔王の目が開く。

 体は再生をしながら、巻き付いた金属すら取り込み変化をする。

 弱い部分を、ガードする部品。

 そして爪は、金属を使い強化される。


 水中から彼は這い上がる。


 身長は、魔人族にしても大きく、三メートル近い。

 鋼のような体。

 角。

 そして存在しなかった、しっぽまで生えていた。



 そう彼はたまたま落ちた洞の中、浄化され何とか生き残った、瘴気と融合をしてしまった。


 周囲に漂う、苦しさや恨みを吸収し、力に変える。


「ふむ、前より調子が良い」

 魔王は地から這い出す。


 そして、その辺りにいる獣を捕まえて、むさぼる。


 そして八重が、尋問という名の教育を行っているとき、北の方向で力が吹き上がったのを感じた。

 それは、俺と八重のみで、他の奴らは感じなかったようだ。


 皆は、戦場の確認のために出払っているのが、まずい気がする。


 そう治療していたのを見ていた。

 鬼が、浄化されると美形のダークエルフになる。


 それを見て、奴らは戦場に散っていった。


 まあそれだけではなく、遠見 貫司とおみ かんじ与野 悟よさの さとるはキンキラキンが飛ばされていったのを見た。


 あれが、敵将だとすれば、討ち取らなければいけない。


「もっとあっちだな」

「すげえ威力だ。あのシールドは霧霞だよなあ」

 遠見がぼやく。


「多分、霧霞はもっと強い。見せている力は十分の一くらいかもしれない」

 与野がそんな事を言っても、ふざけていると思えず、なぜかあいつならと納得できてしまう。


 そんな中、血の匂いが立ちこめる。

 二人は、体を低くする。


「どっちだ、見えるか?」

「たぶん、あっ……」

 遠見はある方向を指さしたが、その瞬間上半身がなくなった。


「ぐわっ」

 すぐ横にいた、与野も左半身が消失。

 顔は、左目の左側、脇腹までが曲線で切られていた。

 丸い何かが、攻撃として放たれた。


 向こうに、何かが立ち上がる。

「でけえ、教えなきゃ……」

 だがそこで、与野の命も尽きた。


 魔人は、クンクンと匂いでも嗅ぎながら、真っ直ぐに兵達の野営地へと向かう。


「畜生、生きていそうな美人さんは居ねえなぁ」

 ぼやきながら、永礼 理一ながれ りいちは、とっさに土魔法で壁を作る。


 だがその攻撃は、あっさりと壁を切り取ってしまった。

 永礼 もろともに……


 この辺り、木の無くなった範囲が五百メートルくらい。

 さっきの異常はなんとか見える。

 それに、大きな黒い奴。

 立派な角を生やし、どう見ても強靱そうな体。


 あいつはやべえ、うっとりするような筋肉だ。

 業力 研ごうりき きわむは、そっと場所を離れて、本陣の方へ向かっていく。

 途中で、古川 竜司ふるかわ りゅうじと、竜司の彼女柴田 美咲しばた みさきを見つける。

「やべえ逃げろ、美人捜しどころじゃない」

 別に、竜司はおねえちゃん探しではなく、魔法の威力を見ていただけだ。


 だが。

「どうした?」

「なんかやばいのが来ている。与野か武神を見なかったか?」

「簡易基地じゃねえの?」

「分かった、お前達も逃げろ」


 そう言って、転がりながら走っていく業力を見つめる。


「珍しいな、あいつが…… あれはやべえ、逃げるぞ」

 竜司は 美咲に手を…… 右手を伸ばす。


 それに気がついた 美咲が、竜司に左手を伸ばす。

 だが二人の伸ばした手は、繋がることなく消失をした。


 

「おおい。やべえのが来ている」


 そう聞かされる前から、もう見えている。


 星は丸くとも、木が無くなっており、見通しで三キロ以上ある。

 そして対象は、三メートル近い身長。


 その距離で目があった気がする。


 やって来た物は、円形の黒い物。

 円柱の中は黒き闇。

 すべてを喰らいつくす。


「ありゃやべえ」

 通常のシールドでは無理なので、前方で空間を切りゆがめて繋ぐ。


 やって来た、黒いビームは元来た方へ帰る。


 多少ズレたのか、片腕を喰らうだけで終わってしまった。


「うがああああぁ」

 そいつは、怒りの咆哮を上げて、走って来始める。


「ちょっと行ってくる」

 悠人は八重にそう言うと、本気で走り始める。


 常人の兵達には、きっと消えたように見えただろう。


 ただ八重は、見送りながら、黒い奴を睨んでいた。

「あれは穢れね。大丈夫かしら?」

 そう生身で触れば、浸食される。

 それは神とて同じ。

 穢れれば、堕天をするしかない。


 そう思って、思い出した。

「彼は、落ちて這い上がってきた者。そうね…… だから彼は魅力的なのに…… 闇にも光にも贖える存在。ふふっ。相手も驚くでしょうね」

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