第48話 魔人対死に神
そう魔人は驚いた。
さっきまでの魔法。
すべてを、消し去る光。
直撃を、片手で払われた。
相手はいつの間にか、まがまがしい鎌を持っている。
その異様さに、彼は引いてしまう。
呪い、恨み、そんな意識の集合体。
なのに相手が怖い。
「なんだこれは……」
相対して目を見た瞬間、魔人は恐怖をする。
どこまでも暗く、すべてを取り込むような黒い目。
その目は、まるで台所の隅でチョロチョロする虫を見つけた主婦の表情。
それも経験を積んで、相対した相手などたいした事はない。
その対処方法は、熟知しているとでも言うように、どっしりと構えて、鎌を一閃。
その一振りは、空間すら切断をする。
「ぬうっ。なんだこいつ? 見た目は人だが、人ではないな」
数度の攻撃。
だが簡単に避けられ、逸らされる。
ぐうっ
「らあぁ」
ついに、余裕はなくなり声が出始める。
遠くでの戦い。
兵達は、一瞬の巻き添えで、自身の命が無くなることを理解している。
だが恐怖よりも、戦いそのものに目が奪われる。
ゆっくりとした動き。
だが、目に見えない攻防戦が行われている。
その証拠に、土煙が舞い上がり、いきなりはじける。
時折、はじけた余波が、周囲の木々を揺らす。
ここから一歩前に出れば、きっと乗数的に危険度は上がる。
下がらなければ…… だけど、動けない。
それは、武神も同じ。
「霧霞、あいつあんなに強かったのか。それにあの鎌なんだ? 死に神かよ。なあ」
横を見るが、いつもいる連中がいない。
「与野を見なかったか?」
「へっ。ああ」
戦闘に魅入られ、完全に意識がそっちへ行っていた。
「そうだ。少し前に、
「マジかよ。無事なら良いが」
武神のその言葉に、陽子は気がつく。
方向が最悪なことに……
今戦いは、霧霞君が多分勝っている。
鬼が膝をついて、うがああだとか言っているし。
だけど、業力君でも勝てるとは思えない……
出会っていれば、確実に……
そんな時、ドオオオンと音が聞こえた。
はっと気がついて、顔を上げる。
魔神がいなくなっていた。
だけど、霧霞君は腰に手を当て、地面を見つめている。
「何があったの?」
周りに聞くが、見ても見えていなかった。
悠人は飛び上がり、袈裟懸けに右拳を、魔人の左頬へと打ち込んだ。
その瞬間、首はねじれ意識が飛ぶ。
気がつけば、地面に倒れて、見下ろされている。
魔人は気合いを入れる。
生物としての限界か、脳のシグナルが足まで伝わらない。
「うがっ。くそ」
足を殴る。
「どうした、終わりならそれで良い、ゆっくりと休むがいい」
鎌が、振られる。
なんとか転がり、躱す。
「ぐぬぬっ」
足掻きのように魔法を放つ。
悠人ではなく、兵達のほうへ。
だがその一瞬の隙は、悠人には許されない。
魔人の原因となった闇は、いつ生まれたのかも分からない。
ただ宇宙を漂い、流れていた。
たまたま、この星に流れ着いた。
いやな光が星を包む。
だが、光を避けて地下に潜り、力を蓄えた。
その後、この星の生物のおかげか、いつしかそこそこの力を取り戻す。
竜脈の力を止め、浄化を行っていた神木そのもを、乗っ取ることに成功をした。
だが再び木は復活をする。
その日、何かが介入をした。
人の力ではない。
たまらず逃げ込んだ、地下の水脈。
やっと使えそうな個体を見つけて憑依すればこれである……
そうこの鎌。
この世のものでは無い。
自身を完全に滅するのは神でなければ無理。
肉体は死んでも、次に移れば良いだけ。
霊体に近い存在。
無敵だと思っていた。
だけれど、この切断面から広がる闇は、私よりも暗く深い……
逃げられない……
時間と共に意識が消失をしてしまった。
「戦いの中で、よそ見をしやがって」
相変わらず、魔人の体に切り傷はない。
だが彼は、闇と共に魂を切られてしまった。
完全なる消滅。
普段の輪廻へかえすものとは違う。
滅したのである。
兵のほうへ帰って、悠人は唖然とすることになる。
「ねえ、悠人くん」
「うん、何だ? んぐっ」
「おはよう」
あわてていた感じだが、キスと挨拶は必要事項なんだな。
さすが委員長。
「それでねえ、みんな居ないんだけど……」
「皆?」
「うん。兵隊さんが、武神君とかは、戦いの最中巻き込まれたって言っていて、その他の人も、足だけとか、体を半分落として消えたんだって…… どうしよう」
少し精神的なものが大きくて、少し壊れたようだ。
聖魔法を掛けて、少し治してあげる。
あの魔法に食われたのか。
「輪廻から外れていたら面倒だな」
だが昨日切ったとき、怨嗟の中には居なかった気がする。
ちょっと壊れた委員長を治しながら、モーニングエッチをする。
その後、八重を探す。
「クラスメートはもうほとんど死んだようだな。もう帰るか?」
「んー、せっかくだし、
「なんだそりゃ」
そう聞くと、にやっと笑われる。
「武力を持って、天下統一ぅ。勉強が足りませんな」
八重は、自身がおバカだと言うことに、気がついていなかった。
「そうだな勉強不足だ。似たような言葉で、意味が同じで
「そっ、そうでしょ。お勉強しよ」
そうして何の脈絡もなく、押し倒された。
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