第46話 逃げる魔王

「またあの光だ」

 魔王達は、逃げ惑う。


 火と違い、森の中に逃げても容赦なく降ってくる光。


 獣人族のような力押しなら対応できる。

 人間達の道具に対してでも、強靱な体で跳ね返すことができる。

 だがあの光は、少しの隙間から入ってくる。

 魔人族にとって、毒のような物。


「卑怯者め、正々堂々と勝負をしろ」

 そんな事を言い始める。


「おい、どうする」

 などと話し合っている間に、魔王は、後を四天王に任せて逃亡をする。


 獣人国の町に着くと、防具を探す。

 そして見つけた、キンキラキンのフルアーマー。


 そして戦場へと戻る。


 そこには、体中から煙を噴き上げ、それでもなお戦う四天王の姿があった。

 周りの魔人族は、倒され、それでも立ち上がり、人間達に立ち向かう姿に涙をする。


 キンキラキンで戻ってきても、魔王には目もくれない。

 魔王は、涙を流しながら、例の魔法を放つ。


 究極、火焔魔法。


 ノリノリで攻撃をしていた人間達の上に、光が一つ降ってきた。

「まずい。シールド」

 悠人が叫ぶ。


 だが人間は多く、全員をカバーする事が出来ないと感じて、光のすぐ側に分厚いシールドを張る。


 魔王にとって、最強の技。


 周囲はまばゆい光に包まれ、衝撃波遅れて音がやって来る。


 そう、悠人はシールドを張りに行ったとき、壺のような形状で魔法を囲み、出口を魔人族側に向けた。


 魔王の、切り札は魔人族に向けて牙をむいた。


 その威力は強力で、森から木が消えた。

 先ほどまで踏ん張っていた四天王も、撃った本人の魔王も、魔人族の兵達も。

 自らの強力な技で、すべてが吹っ飛んだ。

 本来上空に抜けるはずだったエネルギーまで、すべてを喰らったのだ。


 そうまるで、その場所に隕石でも降ったかのように、地面すらえぐっていた。


「ほう、まるで隕石の落下みたいだな?」

 悠人は平気だったが、周囲にいた普通の人達は急激な気圧の変化で、それどころではなくなっていた。そう、耳から血が流れ、かなりの人数は鼓膜を破壊されたようだ。


 それを見て、治癒魔法の光が舞うことになる。


 惨劇の中、土の中からひっそりと金色の何かが這い出してきた。

 着込んでいた金属が潰れ、体に食い込み、かなり悲惨な状況。

 だが生命力が強いらしくまだ動く。

 それは人知れず、森のほうへと這いずっていく。



 そんな中で、たまたまなのか、生きている魔人族が発見された。

「鬼だ」

「鬼だな」


 ざわざわと周りは騒ぐ。

 実は関わりが少なく、現地の人間でもあまり魔人族と関わったことがないのだ。

 

「怪我をしているし治すか」

 そう言って、少しぐちゃぐちゃだが、おそらくメス個体に修復を掛ける。


 聖魔法の光が当たると、苦しみ始める。

 仕方が無いから、浄化魔法はほどほどにして、治癒魔法を掛ける。

 だが聖属性なために、煙が上がり苦しみながら再生される拷問状態。


 生き残っていた魔人族は、ゲルデ十七歳。

 女の子。

 魔法は強力で多彩。だが、自信がなく引っ込み思案。


 それは親が悪かった。子供の頃から親に馬鹿にされて育ったためだ。

 そう親父さんの求める、一発の力。

 それは弱かったが、まだ子供の頃のこと。当然だが一発一発の力は大人に劣る。


 だが素直だった彼女は、多彩なコントロールと様々な属性を扱うようになった。


 今回神木の異常により大移動をして、その途中で軍の人間に見初められて付いてきた。


 その初となる戦いで、地獄を見ることになった。

 とっさに、土魔法でシールドを創り、その中に潜り込む。

 だが魔法は強力で、壊されてしまう。

 すぐに次をと思ったが間に合わず、吹き飛ばされた。


 だがそんな状態でも諦めず、ガードをして、致命傷は避けた。

 そして、半分地面に埋まっていたところを発見された。


 意識が覚醒をする。

 痛みはない、だが何か……

 体から力が抜けていく。

 根源と言える何かが……


 目を開けると、黒髪黒目の変わった種族。

 その目は、どこまでも暗く、奥の方で似た感じを感じる。

 だから人間だと思わなかった。


 まあ、人間の形を取っているが、前職は死に神。

 ああいや、記憶と力が戻ったから現役か?


 そりゃ瘴気に馴染んだ魔人族、引かれるのも分かる。


 体が治るにつれ、痛みが襲って来始める。

「動くな。まだ途中だ」

 そう言われて、彼女はじっと我慢をする。

 治ったところの痛みがなくなり、今度はむずがゆくなっていく。


「まだ動いちゃだめ?」

 最初は、手足も千切れ、顔も半分すりおろされていた。

 だけど、治ってくると女の子。

 実は治しながら困っていた。


 そこに八重がやって来た。

「どう生きてる? 死んでるなら生き返らせるわよ…… あれ鬼が、美形のダークエルフになったの」

 そう言って、八重は彼女の胸の先を突っつく。


「感覚も大丈夫そうね」

 だが流石に、彼女も胸を隠す。


 服はないので、野営用のマントを渡す。

 八重が服を持ってくるまでだが……


 なかなかの美形。

 いやな予感しかしない……

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