第43話 混沌

 少しぶりに、町へ帰ると町は廃墟? ではないが荒廃をしていた。


 到る所で建物が燃え、崩落もしている。

 獣人や、鬼のような種族が、町の到る所に倒れている。


「なあ、これって、戦争か?」

「なんか、暴動ぽいけどな」


 ある程度凄惨な現場だが、流石に皆慣れた。


 そして、俺達は、魔人族の好き勝手戦術をしらなかった。


 どーっと移動をしてきて、いきなり襲い出す。

 まあ流れてきた、盗賊の群れが来るような感じだろうか。


 人間がする戦争のように布告も儀礼も何もなく、出会えばいきなり戦闘に入る。

「家は、無事そうか?」

「庭がこれなら、一階も荒らされているだろうな」


 永礼が風魔法を使い、二階に飛び上がる。

 縄ばしごを降ろして貰い、数人が二階へ入る。


 中で、ガタガタゴトゴトと音がする。

 動いてしまった、仕掛けを直しているようだ。


「いいぞお」

 声がかかる。


 それまでの間に、庭をかたづけていた。

 そうは言っても、もうあれだ、埋めるだけ。

 罠を作ったときに出た土砂は、庭の端に築山にしていた。

 それを戻してきて、すべてなかったことにする。


 もうこの町で見るものもないし、なかった事にしようと考えていた。



 その頃伝令達は、どこかですれ違い、精霊国の罠にはまり入国できずうろうろしていた。

 そう迷いの森という防御システムが有り、誰かに導いて貰わないと中へは入れない。

「だめだ戻ろう」

 その数キロ先では、巫女が出られずに泣いていた。



 そうして、数日掛けて戻ってくると、一軒だけ綺麗な家がある。


「あっ居た」

 黒髪黒目を見つけて、兵達は走ってくる。


「すみません、王国特殊部隊、特別男爵の皆さんでしょうか?」

「うん? ああそうだな」

 声をかけられた業力は、自分たちの役職を忘れていたようだ。


「アキンダリア治安軍、マクシミリアーノ=ペカルスキー大将から助力を願いたいと要請が来ております」

「アキンダリア治安軍? 要請?」

 皆は話を聞いても、ピンと来ない。


「実は今、この町を魔人軍が襲っています。今本体はこの町の外れ、王都側に自軍を敷き、こちら側には魔人族がつめております。そのため、今こちらから攻めれば、丁度挟撃となります」

 そう言って嬉しそうに、伝令達は報告をする。


 挟撃をして、撃破すれば手柄は大きい。


 まあ良いか。


「分かった助けよう。いいよな皆」

 与野は軍師らしく、皆に提案をする。


「まあ良いだろう、魔人軍には知り合いなどおらんし」

 業力がベキベキと指を鳴らす。


 適当に家をかたづけて、翌朝出発をする。


 伝令部隊隊長はヨハン=ホッベマー準男爵。

 部下として、騎士爵が四人。

 シドニー=ウィンザー見た感じ普通、副官扱い。

 アミコンダー=ゾーリン。こいつは細かな事に気がつく。

 マッティヤー=マダタベール。こいつは小太り。

 チモフォイ=ヴィシュ。こいつは話を聞くと、どうも、深く考えないおっちょこちょいのようだ。


 そしてもう一チーム、別働隊が居たが、何処に行ったのかは不明。

 隊長ヨーコーニー=ツーパシールという奴らしいが、話半分で、すべて理解したと言い残し、どこかへ行方不明になるのが得意なようだ。

 そして知らぬ間に、隊に復帰しているとか……

 だが、たまに手柄を立てる。


 どこも、人数が増えれば色々と大変なようだ。



「さてと」

 彼らにあわせて、二日ほど移動をすると、敵軍の尻尾が見えてきた。

「見間違いはせんな」

「ああ鬼だぜ。赤、青、黄色…… 一杯だ」

「さあてと、どう攻めるか……」

 与野は考えていた。


 自分たちは強い。

 普通に囲み、包囲殲滅を行う形で撃破。

 なら魔法を撃ち込み、混乱した所に切り込むか?


 だが向こうは、魔人族。

 魔法を手足のように使う、永礼のような奴が沢山というなら、距離を取り魔法の撃ち合いで行く方が安全か……


「ふーむ、どう行くか…… あっおい」

 悩んで戦場を睨んでいた、与野。

 その方向へ、魔法が一つ飛んで行く。


「秘技、ツアーリボンバ」

 永礼が撃ったようだ。


 ツァーリ・ボンバは、地球上最悪の爆弾。

 旧ソビエト連邦が開発した兵器であり、TNT換算で約百メガトン。

 第二次世界大戦中に、全世界で使われた総爆薬量のとも言われている。


 その威力は、広島型原爆の三千三百倍ともいわれている。

 実験時千キロメートル離れた、ノルウェーやフィンランドでも窓ガラスが破壊されたという話が残っている。


「バカそんな物使うな」

 本物の情報を知っている、与野。

 あわててシールドを張る。


 本物なら、爆風による人員殺傷範囲は二十三キロメートル。

 熱線の効果範囲は百キロメートルにもなり、その距離でも、三度程度の火傷を負ったといわれている。


 魔法なら、放射能はないだろうが……


 光は、敵の真ん中で輝きを増す。



 ―― そして世界は光に包まれ、その後衝撃波。


 その世界に、音はなかった……


 ちょっとした峠の上だが、距離は三キロ程度しか離れていない。

 爆風は、坂道を吹き登り、彼らを襲った。


 無論敵の向こうに居る、王国兵も、近距離で喰らい吹き飛ばされていく……


 威力は、本物より圧倒的に弱かったようだが、魔人族はほぼ壊滅。

 外周部でも火傷多数に、爆風でなぎ倒され吹き飛ばされて、負傷者多数だった。

 無論王国軍も、負傷者はいるし、訳など分からないし、パニックだ。


 そしてこちらでは、永礼が囲まれ殴る蹴るの暴行を受ける。

「あんなに強いと思わなかったんだよぉ」

「いきなり試すなぁ……」

 この戦争、最大の功労者は、ボコられた……

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