第42話 戦争
水蒸気が晴れたとき、獣人王ナラシンハは、愛剣シニフィカトビスタムを掲げたまま頭がなくなっていた。
魔王が、こちらを向く。
右手には獣人王の首。
それを、ぽいっと捨てると、技を発動する。
獣人王が死んだ。
その事に意識が奪われ、固まっていた者達を地獄のような炎が襲う。
基本弓と剣の武装しかない。
獣人達は逃げ惑う。
各個で力があり、武勇を持っていても、数にはかなわない。
ここから、獣人達は滅びに向かうことになる。
「忌々しい光め」
獣人の城で、王座にどっかりと座り込んでいる魔王。
「どうなさいますか?」
四天のエリーニュスが問いかけるのは、分断する山脈を迂回し、人間側に行くかという事。
ここから、精霊国へ向かうと、また神木が妖しい光を発している。
「うむ。ついでだ、大陸に覇を唱えるか」
魔人族の間でも、武に優れた獣人は一目を置く者達だった。
だが人間はひ弱。
捕まえ手足として労働をさせれば、意外と器用で、魔人族に比べて繁殖率も高い。
それにここに来て、ハーフの獣人が意外と便利だと分かった。
賢さと器用を持っている。
言ってしまえば、純粋な獣人は猪突過ぎて面倒なのだ。
誰かが、右と言えば考えも無しに右に走り、左と言えば左に走る。
一見良さそうだが、音頭を取るのが、支配者じゃ無くとも良いという所だ。
そう彼らは、考えない。
今しか見えておらず、相当に制御がしにくい。
見ざる聞かず、ただ突っ走る。
そのおかげで、自分たちが苦しむ事になっても。
そして、指導者の責任にする。
そう彼らは反省もしない。
ああ無論、上手く行けば自分の手柄だと喧伝をする。
まあいい。
魔王は、人間側に攻め入るようだ。
当然獣人国から人間の国セコンディーナ王国へと繋がる道は、交易の町アキンダリアを経由している。
いま、アキンダリアは混沌としていた。
色々な事情で、辺境伯が捕まったからだ。
獣人達は、我が物顔で町を歩く。
もし人間が居れば、昼間でも物陰に連れ込まれ、殺られるか姦られる。
そんな物騒な町。
その話は、王家に伝わり派兵を行う。
獣人国ともめるのは面倒だが、一度獣人は国から追い出せと命令が下る。
彼らは、こちらの法に従う気が無いようだからと、強硬手段に出る。
「行け、我が国に獣人は必要ない。まるで自分たちの領土のように振る舞いおって。彼の地には武神殿達がいる。力を貸して貰え」
「御意」
そして小さな町を治めるには多すぎる、五千もの兵が投入された。
獣人達は個々の力が強い。
念には念を入れた配慮だ。
だが、町に近付くと、そこにいるのは異形の者達。
「あれは魔人族」
アキンダリア治安軍、大将のマクシミリアーノ=ペカルスキーはこれは困ったと、自身の頭をなでる。
卵まで使って、テカテカに磨いた頭。
五センチほどの板を頭突きで割る威力を持つ。
そしてその性格は、苛烈。
例えば……
朝一からパチ屋に並び、一台の台にひたすら突っ込む性格。
ただペカらせたい。
一千はまりを、二連続で喰らっても彼はめげない。
心を押し殺し、自身の思いを貫き通す。
武人としては、立派。
まあ言うことを聞かない、偏屈親父である。
「何でも良い、行けぇ」
これにより、魔人国との全面戦争の火蓋が切られた。
どちらにしろ、向こうも進行する気だったので同じ結果だが、人間側が仕掛け、少ない魔人どもに押される。
次々と飛んでくる魔法。
金属を張った盾も魔法を数発受けると、内側の木が燃えてしまう。
「ええい、矢を放て。押し負けるな。斥候達、勇者達を探してこい」
「はっ。ですがこの状態町にはおられないのでは?」
馬上から、じろりと睨まれる。
「何か言ったか?」
「はっいえ。探して参ります」
そう言って兵は走っていく。
「まあいい、町を探し…… 精霊国の方にまで足を伸ばそう」
「そうだなあの人達が、獣人国へ向かえば国がなくなっているだろうし」
途中の町中で、魔人達が大量に捕まっている奇妙な屋敷があった。
「あれは落とし穴か?」
「その様だ。獣人にも賢い者が居るのだな。気を付けよう」
その頃、武神達も飽きていた。
村人は、酒を飲みたいがために、毎日宴会を行う。
それも果物ばかり。
「もういいか、帰ろう」
「そうだな」
それが聞こえて、村人が奇妙な舞を始める。
帰してはいけない、酒が飲めなくなる。
長命で有り、退屈をしている村人達。
彼らは、暇つぶしのために十年くらいなら宴会を開くだろう。
普通の人間には耐えられない。
何か芸をすれば、一瞬だけ意識がこちらに向く。
「よし、なにか考えろ」
「天と地の始まりはどうだ?」
「おお、それなら十日は演じられるな」
だがこの星の成り立ちに、彼らが生まれた必要性。
ぶっちゃけ、ひたすら、精霊種は素晴らしいという話し。
彼らは子供の頃、それを聞かされて育つ。
第一章から始まり千数百章まで。
噂では、各家により新章が追加され、後半は集落の中でも整合性は取れていない。
だがそんな話など、人間にとっておもしろいのかと言えば聞くまでもない。
よく日、彼らはいなくなっていた。
ただ酒樽は、十個ほど置いていた。
きっちり作り方を添えていたため、集落には、賢者伝説が残った。
この出逢いは、新章として記されるだろう。
「ええい。逃がさないから」
一人、ベッドルームに残されていた、巫女バルブロ=イサベレ=アマンダ=アルヴィドソン。
「昨夜、私だけ念入りだと喜べば、そういう事か……」
彼女は走り出す。
初めての集落の外、多少はドキワクで期待をしながら。
だが彼女は、巫女。
この地を離れるのは、世界樹が許さない。
村の出口付近で、出ては戻りを繰り返し、三日後、同じ所にいるのが分かり絶望した……
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