第32話 言い訳

「いやああぁ」

 やっと声が出だした頃、体のしびれも取れてきた。

 だが、しびれが取れると感覚も戻る。


 破瓜の痛みを感じる。

 異世界でも必死で守ってきたのに、こんな変な生き物に……

 その時、やって来た、立ちこめる少し生臭い甘い匂い。

 その匂いを嗅いだとき、痛みすら快感へと変わり、思考が散り始める。


 ただ快楽を体が、心が求めてしまう。


 そう人間にとっては、強力な媚薬となるフェロモン。

 叫び声は、すぐに嬌声へと変化をする。


 少し前まで、隣で同じようにやられていた楓の目は、感覚が戻ればこんな枷など壊せる。辛いだろうに気丈に…… 目がそう訴えていた。

 タイミングを合わせて殺ろうと……


 だけど、ふと見ると、もう顔を振りよだれをたらし、さっきまでの彼女はいなかった。


 私ももうだめ、頭の中がピンクに…… はっ?


 目の前に立つ、変な獣人。

 その後ろに立つ、霧霞君と目が合う。

 彼の目がふと悲しそうに見えた。

 良いんだけど、だめよ。

 今の格好が急に頭の中で思い出される。


 一糸まとわぬ姿で、変な獣人にやられている最中。

 奇妙な長い舌が、私の胸をなめ回している。

 急に恥ずかしくなると、意識をぶった切っていた感覚が私を襲う。

 同級生の目の前で感じまくるのはいやあぁ。


 そんなことを考えていたら、彼はどこからか大きな鎌を取りだし、その獣人の首をはねた……

 はずなのに、首はくっ付いている。


 だけどこいつは倒れ込み、抜けるときゾクッと来た…… 

「はううっ」

 腰と足がガクガクになり、力が抜ける。

「あううっ」

 繰り返し、ゾクゾクが来る。


 かれは、それを見て驚いたようだが目をそらされたぁ……


 その後、その場に居た獣人達を無表情で切っていく。

 切られた感じはないのに、命を狩られたようにバタバタと倒れていく。


 やがて、自分の股間から流れ出す何かを感じる。

 白濁したもの……

 アイツ死ぬ瞬間に出しやがった。

 なぜかそんな気がする。


 獣人との混血。

 私は青ざめる。

 こんな、望まない一回で、子どもなんて出来たら死ぬしかない。

 すると、いつからいたのか久枝灘さんが居た。


 手枷を外しながらそっと言ってくれる。

「悠人に頼みなさい」

「悠人って、霧霞君?」

 私がそう言うと、彼女は呆れたように言う。


「この場、他に誰がいるの? この子像にしてほしいんなら生き返らせるけど?」

 私はブンブンと首を振る。


 これって子象だったの? 

 それにしては?


「参ったわ、バクだからあそこを動かせるのね、中から子宮を揉まれたときに思わず声が出ちゃった」

 未希があっけらかんと言っているけれど、普通じゃない。

 彼女は、霧霞君のことを好きかもと言っていた。


 告らないの? そう聞いたとき、彼女は照れながら久枝灘さんが居るしと言っていた。

 だけど、あのちびっ子現地人。

 マルタちゃんは、松井と関係があったはず。

 でも彼は、気にせず連れ回して、明らかに彼女は美人になった。

 距離感を見ても絶対そう。

 そして、そんな二人を見て久枝灘さんも、嬉しそうだった。


 そうそれで、彼女は告るか悩んでいた。

 死んだらしいけれど、ノヴァー達が言っていた、良いオスは捕まえる。

 最悪、種だけもらえれば、それで良いという言葉。


 まあ、助けられて……

 ああ、さっきの匂い。

 あれでまだ酔っている?


 私は、わあぁってなる前に、霧霞君と目が合ってけれど、そうじゃなければ発情状態で酔ってる?


 そう思っていると、光が部屋を覆う。

 目が開けられないくらいまぶしくて、目をつぶる。


 そして、目を開けると、体中が爽やかになって、頭がクリアになった。

 途端に、叫び声。

「きゃあぁいやあ。霧霞君見ないで…… いや、見て良いから抱きしめてぇ」

 うんパニクったね。目が覚めたんだ未希。

 

 私は服を探す。

 売るつもりだったのか、そこそこ綺麗に脱がされていた。

 服は高いしね。


 さっきの光のおかげか、服も綺麗だし、中から出てきていた奴の体液も綺麗になくなったようだ。


 そしてちゃっかり彼に抱きついて何かを、お願いしている。

 上書きをしてと。


 初めてが変な獣はいやと。

 私もそう思う。

 彼にお願い……

 そういえば、あの鎌はどこに?


 そして他の子が、抱きついているのに、久枝灘さんはドキワクで嬉しそう。

 彼が、久枝灘さんに聞くと、声が響く。

「抱いてあげて、忘れさせれば良いのよ。フェロモンとちょっと小技の使える性器など、凶悪なあなたの物とは比べものにならないわ」

 えーちょっと怖いんですが。


 でも…… 一歩踏み出すと、忍や楓もお願いをしている。

「わっ私も」

「じゃあ全員ね。帰りましょう」

「えっここは? このまま?」

「どう考えても上級の屋敷、最悪捕まるわよ。ここでは獣人の方が偉いみたいだから」

「そうね」

 皆でそそくさと、屋敷を後にした。


 そして帰り道に、教えてくれた、浄化と治癒魔法。

 妊娠は防げたはずだという。

 ただ男性のあれ、栄養があってミネラルとか吸収した分は諦めろって、食事と同じだと訳の分からない説明をされた。


 そして、食欲のない私たち。

 皆は帰って来た姿を見て喜んでくれたが、なんとなく悟り、少し距離が遠くなる。

 まあこの時は、どうしたって元気が出なかったし。


 でもその晩、大人の世界を見て経験をしてしまった。

 そう、とてもそれは生々しく甘美だった。

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