第31話 懲りない奴ら

「あの人数だ……」

「そうだな、これを使うか」

 吹き矢と、薬ツボ。


 獣人は毛があり、なかなか刺さらないが、人間は服一枚。

 胴体の鎖帷子部分を除けば、幾らでも刺さるところがある。


「買い物に行ってくるわね」

 情報収集をかねて買い物に出ていく、例の四人、田中 忍たなか しのぶ小林 未希こばやし みき小川 楓おがわ かえで星野 みゆきほしの みゆき


 四人だと、前後左右我らに死角などない、そう豪語している。


 少し混み合う市場。

「スリなどに気を付けて」

 声を掛け合う。


 周りにはあまり人間はおらず、獣人ばかり。

「この町って、獣人の実効支配なのかしらね」

「そんな感じね」

 小林 未希こばやし みき小川 楓おがわ かえでがキョロキョロしながら、そんな事を言っていたとき、彼女達はすでに囲まれていた。


「痛っ」

 星野 みゆきほしの みゆきがそう言って、首筋に手を伸ばすそこには、三角錐の先端に針が付いてものが刺さっていた。

「なにこれ、吹き矢」

 手に取ったそれを見つめて、彼女はそう言いながら、早くも体が痺れ始める。


「皆、吹き矢が気を付けて……」

 そうその言葉に、注意がむく。


「あっ、しまった」

 誰かがそう言ったときには、全員首筋に違和感。


 真っ昼間の、一通りの多い市場でのこと。

 いつの間にか周りを囲んでいた獣人達。

 その中心で、慣れた感じで素早く袋へ押し込まれて、彼女達はお持ち帰りされてしまった。


「あれ、彼女達遅いな」

 ぼちぼち、魔法による肉の熟成も終わり、料理を始めようかとする頃、野菜とかを買いに行った四人がまだ帰ってきていないことに気が付く。

 そうすでに二時間が経っていた。


 物がなければすぐに帰ってくるし、そんなにバカみたいに広い町ではない。


 皆は、すぐに行動を始める。

 時間をおくと最悪になるのは皆が知っている。


「くそう、市場へ行ったのは分かっているが」

「ああ……」

 皆が懸念をするのは、此処が人間にとってアウェーだと言うこと。衛兵の態度を見ても十分理解ができてる。



 俺達は、市場へ行き聞き込む。

「知らんな」

「見てないねえ」

「人間? どうでも良いだろ」

 まあそんな感じ。分かっていたが、殲滅したくなる。


 そんな中、俺と八重は武神に一言かける。

「あいつらの気配を追いながら探してくる。お前達は女子から離れるな」

「おう分かった」

「お願いね」

 山田 亜美やまだ あみが心配そうに言ってくる。

 彼女は結構どんくさくて、四人に守って貰っている。


「分かった」

 そう言って、すぐに行動を起こす。


「こっちよ」

 八重がクンクンとしながら、追いかける。


 これはお遊び、実際は匂いじゃなく、過去を見ながらとか彼女達の気配を追っているのだろうが、獣人国なので、警察犬ごっこ中。


 だがまあ、迷うことなく一つの大きめの屋敷へ到着。


 ガラが悪いか知らないが、門番が居たのをそのまま倒す。

「おまえらなんだ、このお屋敷は、ごはぁ」

「おまえたち、ぐはっ」

「ぐっ」

「ぎゃあ」


 とまあ瞬殺。

「峰打ちじゃ」

 そう言って、八重は進む。

 拳で、峰打ち? 裏拳か?


 まあ良い、気にせず母屋から別棟となっている建物に向かう。

 一見すると、従者とか使用人の居る建物だが、裏に回ると不釣り合いな大きなドア、荷物搬入用の開口部の様だ。


 そこを、開けようとするが、閂でもして閉まっているのか開かない。

 なので蹴る。


 外開きの扉を内側に開く。

 そしてずんずん中を進む。


 開け方の分からない暖炉を、力でスライドさせて、階段を降りる。


 途端に聞こえる叫び声。



 あっという間にさらわれてしまった。

 警戒はしていた。

 力もあり、普通なら負けないという、自信と慢心があったかもしれない。


 みゆきは、意識がある限り、曲がり角を覚える。


 幸い、体が痺れて動かないだけで意識はある。

 まあこれはさらった奴の、目的のために調合された薬のせい。

 今は声も出せないが、それはしばらくすると出せるようになってきた。


 乱暴に床におろされる。

 袋の中で、会話を聞くが非常にまずい。

「ええ、捕まえたばかりで」

「うむ、じゃあじっくり教育をしようじゃ無いか。なあにすぐに自分からねだるようになるさ。人間のメスなど我らにかかれば他愛ないもの」

 そう言って下品な笑い声。


 袋から出され、見えた場所はそんなに広くない部屋。

 周りの壁がすべて木の板で、到る所から枷がぶら下がっている。


 動かない体。

 あっという間に脱がされ、手足が開いた万歳状態で壁に固定されていく。

 こんな枷など力が戻ればすぐに壊せる。

 そう思っていた。


 だけど、あいても薬の効き目は熟知しており、時間をくれなかった……


 回りに居るのが、人間に見えないため、多少は恥ずかしさがましではある。


 だけど奇妙な獣人がやって来る。

 馬のような長い顔、でっぷりとした体。


 そう、ウマ科ではあるが、バクの獣人。

 この世界独自なのか、それとも進化の特殊性か、ひずめは指となっていた。


 いやなのは、こちらが四人なのに倍以上の人数。


 いや、連れてきたイヌ科の奴らも居るから……


 その獣人から、先の尖った舌がべろんと出てくる。


 そうそれは、無言で始まった。

 そしてその男性のそれは、人間とは違い、自由に動き回る。

 体の中で、這いずり回る……

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