第22話 災難

 マルタはなんとか逃げた。

 他の人達ミリー、ピア、ノヴァー……

 そして、晋也。

 旦那様と言うより、エッチが好きなお兄ちゃん。

 かれも、名前よりもお兄ちゃんと呼ばれるのが好きだった。


「マルタ。お兄ちゃんのことが好きかい?」

「うん、お兄ちゃん好き」

「ようし、ご褒美をあげよう」

 エッチをする前の謎の儀式。


 でも優しかった。

 村との生活とは違い、ご飯が食べられたし、美味しかった。

 彼らはそう、ご飯に無茶苦茶拘っていた。


「血抜きが甘い、誰だこれを処置したのは?」

「あんばいが悪い」

「獣臭さが残っているわ、湯通しをして」

 そんなことを、日々言っていた。


 私たちは、食べられるだけで満足だったのに。

 マルタは法面を転がるように河原へと落ちる。


 今朝までの、幸せだった生活の後。


 足跡を消しながら、川を下る。

 出てきたけれど、町に戻って、説明をしよう。


 そうして、偶然なのか、数日前にここを通った悠人達の殲滅が極悪だったのか、危険な目に遭わず、町へと帰ってきた。


 そうして、工事中の悠人達を見つけて、飛びつく。

 そして泣きながら説明をする。


「そりゃ、行かなきゃな」

「ひょっとすると、生きているかもな」

 ないとは思いながらも、武神と竜司は燃える。

 単に、石運びに飽きたわけではない。


 最悪なことに、盗賊退治は女子には危険だからと言いくるめて、彼らは出発をする。

 いやな人殺しのはずなのに、軽くスキップをしながら。

 石運びに材木運搬。

 木の切り出しと乾燥、そして製材。


 大変なことは分かっている。

 だが、男には立ち向かわねばならないときがある。

 それが今なのだ!!


 とまあ、現場に向かう。

 マルタから、大体の場所は聞いたし、勝手に行こうとしたら付いてきた。

「危険だぞ」

「うん、でも、悠人お兄ちゃんが守ってくれるんでしょ」

 顎の前に両の拳。

 祈るように、瞳に涙を溜めながらこちらを見上げて、お願いしてくる。


 その時、お兄ちゃんという単語が、悠人の中で何かを芽吹かせる。

 たとえ、反応を見て、マルタがこいつチョロいと思っていても……


 兄妹が居たことは無い。

 それはどこか憧れで、新鮮な響き。

 熟れきった八重とは違う。


 伸ばされた手を何も考えず取り、仲良く歩く。

 歩幅の違いから、遅れるマルタ。


 それに、武神達は足早に町から離れようとしている。

 まあ助けに行くなら早いほうがいい。たぶん、それ以外ではないだろう。

 振り返り、気が付いた女子が追いかけてこないだろうなとか、きっと考えてはいない。


 そうそれは正義のために行くのだ。


「おんぶしてやる。ほら」

「ありがとうお兄ちゃん。でも、お兄ちゃんが疲れちゃうよ」

「大丈夫だよ。お兄ちゃんは強いからね」

「ほんとう?」

「ああ、大丈夫だ……」

 そう言うと、彼女は怖々背中へと張り付いてくる。


 頭の中では、彼に触れられた、このままなんとか子種をもらえるように頑張る。でゅふふふ。などと考えていても、かわいいは正義。


 彼女の体が少し小さく、足ではなく、尻を支えることになる。

 足早に歩く振動は、彼女に妙な刺激を与える事になる。

 そう彼女は、経験者。


 栄養状態が悪く、少し小さかっただけ。

 そうは言っても、若いんだけどね。


 彼女は、思った以上の刺激に、少し苦労をすることになる。

 撥ねるから、胸の先とか、手が触れているお尻とか、敏感な前側とか、自転車のサドルどころではない。


 背中に乗っているだけで、彼女は上気し、軽く達してしまう。


 憧れの、悠人様の背中で。


 彼らと出会い、少し経ってから気が付いた。

 彼ら自身では気が付いていないようだけど、明らかに手を抜いている。

 自らが出しゃばらず、力を誇示するわけでもなく、でも強い。

 そうこのグループを率いるのは、悠人様なのにどうして?


 この世界では強い男が、表に立ちすべてを手に入れる。

 それが普通。

 それなのに、彼はどちらかと言うと裏へ回り皆を助けている。


 ミリー達も気が付いていて、彼の物になりたいと言っていた。

 確かに、鈴木様達も優れていた、世界の常識には少し疎いけれど、すぐに計算をして、何かあっても答えを出す。

 でもそれは、このグループ。黒い人達は全員がそう。

 女の人でも、学校という所で、きちんと教育を受けているのだそうだ。


 考えられないところ。

 ファースティナ王国の秘術により、強制的にここへ連れてこられたと言っていた。

 帰りたいと、日々誰かがぼやいていた。


 そんな中で、やはり異色なのが、悠人様と彼の横に立つ八重という女の人。

 よく見れば、彼女は悠人様以外とほとんど関わらず、興味が無い。

 私たちを見る目は、路傍の石。

 

 そう、見えていても、見えていない。

 興味など全くない。


 ふつう、そんな感じだとギクシャクする人間関係が、なにもない様に行われる。

 あの人は、本当に人間だろうか?

 噂では、魔族は人を騙すと、あの戦争の時説明をされた。

 魔族では? そう思ったが、それなら悠人様が気が付かないはずはない。


 そう……


 でも、いい加減到着をしないと、彼に気が付かれるほど流れ出てきてしまう。

 もう幾度、私は達したのか……


 うん? 我慢できずにお漏らしか? 小さな子だから仕方ないか……

 そっと浄化をする。

 憧れの悠人様には、すでに気が付かれていたことを、彼女は知らない……

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