第15話 ファースティナ王国

「ええい。助けろ」

 セコンディーナ王国遠征隊隊長、セナオミセ=スギューニ=ゲロ侯爵は叫ぶ。

 足でもくじいたのか動けないようだ。

 盾部隊が周りを囲むため、隊列から飛び出して走ってくる。


「やってみるか?」

 遠見がそう言って、この世界では、反則級の弓を使い、矢を放つ。


 振動防止にセンタースタビライザーなど、この世界には無い装備が満載された弓から、矢が放たれた。


 残念ながら、兜が丈夫だったのか、はじけて側に来た盾に突き刺さる。

「ひいいいぃ」

 叫ぶ声が聞こえる。


「ちぃ。囲まれちまった」

「残念だったな」

 与野が声をかける。


 彼は、武神 チームの軍師的存在。

「お前があのオッサンの頭を抜けば、それでこの戦争が終わっていたかもな」

 励まし? をして、永礼に合図をする。


 さっきオッサンが足に怪我をしていたこと。

 盾達が奇妙な感じに一部だけガードしていること。

「あそこだ。やれ」


 その瞬間、幾つもの炎の矢が空に浮かぶ。

 直接攻撃と延焼による被害を狙う。


 こちらの将、レオポルド=アウグス侯爵。こちらも辺境伯だが今だ馬上からみていた。

 

 セコンディーナ王国が使う矢のほうが、飛距離が長い。

 

 そのため、前衛の動きを見ていたが、冒険者の一部に見慣れない黒い集団がいる。

 そして、敵将に向かって飛んだ矢は、そのスピードもさることながら、あわて具合からすると何か敵に傷でも追わせたのか?


 惜しいことにあわてて引っ込んでしまったが、そこに追撃が始まる。


 普通の魔道士では不可能な、一〇個もの並列起動。

 それが敵将が逃げ込んだ辺りに、撃ち込まれる。

「ほほう。あの者達のことを調べよ」

「はっ」

 臣下が調査に向かう。



「うわぁ、ええいこの、きっちり守らんか」

 言われた兵達も、自分のことで手一杯になってくる。


 木の上に鉄板を張った盾は、中から燃え始める。

「早く陣の奥へお下がりください」

「わかっとる」

 四つん這いで、なんとか奥へ逃げていく。

 さっき威勢のいいことを言っていた、本人とは思えない。


 後ろに移動する経路を、周りの兵が起こすアクションをみて、攻撃も追いかけていく。だがまあ、程度による。


「埋もれてしまった。逃げられたな。理一もういいぞ」

 言葉の通り、攻撃が止む。


 まだ矢の攻防は続いていた。

 敵軍で、太鼓が鳴る。

 その音に合わせて、盾隊が一歩ずつ前に出る。


 一〇歩近く進んで、自軍の矢が敵に届き始める。


「これほどの差があるのか? 去年からで改造をしたがどうやっても距離が出ない」

 敵の弓を鹵獲したい。だが、この数年そこまで行けない。


 セコンディーナ王国は、弓での戦闘を得意としている。

 敵は倒しても、自軍の兵は殺させない。

 そのため、分が悪くなれば自領を捨ててでも退却を始める。

 その線引きがどこか? それが此処での戦闘において重要だった。


 ファースティナ王国側は、雑兵ぞうひょうなど、どうでも良いという感じ。

 勝てばいい。

 だが、領兵などは大事なようだ。

 領兵には、貴族の子弟が混ざってくる。

 死んだときには、責任もあるし見舞いも必要である。



 徐々に詰まってくる距離。

 セコンディーナ王国側から、不意に槍が投擲され始めた。

 それは、人の投げる距離を凌駕する。

 地球では昔、投げ紐アーメントゥムを使い、六〇メートルほど投げていた記録がある。


 ただ、こちらはアトラトルのような投槍器を使っているようだ。

 棒の先にフックがあり、それを槍のお尻、石突の部分に引っかけて投げている。


 実は、弓で槍を飛ばすものも存在するが、攻城戦のみの使用となっている。

 このような歩兵戦では意外とジャマだし、標的にされるからだ。


 魔法がある世界だから、色々とある様だ。


「よし、魔法部隊攻撃開始」

 矢の残り数が少なくなったのか、装備が変わる。

 弓は、鹵獲されないように、後ろへと送られる。


「侯爵様、彼らは流れの傭兵で、スヴァールの町にて冒険者をやっているとのこと。ファースティナ王国から来たようですが、王国の民ではないと言っていたそうです」

「それを聞いて、侯爵はピンときた」

 伝承の、勇者召喚。

 今まで幾度となく行われ、王国の状態を見て逃げ出したもの。

 能力が無いと放逐され他国にて、その力を発揮したもの。


 話は色々と残っている。


「あの髪色、拾い物かもしれん、彼らとつなぎをつけろ」

「はっ」


 そう言われた彼は、真っ直ぐに俺達の方へやって来た。

「侯爵がお話があるそうだ。来い」


 いい加減貴族にはうんざりしている俺達、竜司が吠える。

「やだね。貴族という奴らはどいつもこいつも。用事があるならてめえが来い」

 その宣言に、美咲はあちゃーと言う顔をしたが、周りは意外とそうだなと納得。


「貴様達、本気か?」

「俺達は、冒険者だ。ギルドの決まりでそちらの命令は聞く必要が無いと聞いている。ギルドマスターは承知なのか?」

 当然、こんなことを言うのは、竜司でも武神でもない。


 与野 悟よさの さとるだ。


「その言葉、覚えておけ」

 そう言って兵は下がっていった。


 無論、侯爵に聞かれその兵は叱られ、逆恨みをして来た。

 理不尽だろ、異世界なんてこんなもんさ。

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