第16話 黒き者達

「来いと命じましたが、否定をされました」

 しらっと、兵は伝える。


「馬鹿者、彼らとつなぎをつけろと申したのだ」

 みんなの前で、いきなり叱責されて驚く兵。


「しかし、あのような下賎な者達」

「馬鹿者。もしかすると彼らは、通常のヒトでは無いかも知れぬ」

「はっ?」

 兵には、その言葉が理解ができない。


「いやいい。とにかく会いたいのだ。頭を下げてでも来て貰え。当たりならこの戦争など一気に片がつく」

「そんな馬鹿な……」

 そう言いながらも、兵は取り巻きを連れて行く。

 平民に頭を下げたくないから。


 彼は男爵家の長男。

 ボンジー=タダーノ。

 プライドだけはある。

 手柄を立てたのが目立つように、侯爵の周りでうろうろしていた。


 だが命じられたのは、冒険者を連れてこいとの命令。


「むう。どうすべきか。おい、あの黒い奴らに話をして、辺境伯様のところへ連れて行け」

「はっ」

 兵が走っていく。



「そこの方達、辺境伯様がお話ある様ですので、ご足労願えませんでしょうか?」

「辺境伯って偉い人だよね」

「あっハイ、今回の防衛、大将でございます」

「じゃ行かないと、まずくね」

「ギルドのマスターはなんと? 伺っておりませんが、多分問題ないかと」

「じゃあ行くか」

 ぞろぞろとみんなが、持ち場を離れる。


 その光景を見て、ボンジー=タダーノくん呆然。

「ななな、なんで?」

 自分が行ったときには、へりくつをこねたくせに。


 自軍で何かをするなら、後ろから矢を射かけてやる。


 自分は貴族だから平民に対して何かをしても、ある程度までは罰則がない。

 彼は男爵家の子弟だから、厳密には貴族ではないが、細かな事。


 ただ顔に似合った性根の悪さがあったようだ。

 恨んでやるぅ。


「ご足労いただき申し訳ない。つかぬ事を聞くが、貴公らファースティナ王国によって召喚をされた勇者様ではあるまいか?」

 その瞬間みんなの気配が変わる。


「ああ、そう警戒をしなくともよい。力を貸してくれるのならな」

「今ご覧の通り、俺達は奴らに対して敵対をしている。それ以上でもそれ以下でもない」

 俺が何かを言おうと思ったら、武神が、武神のくせにまともなことを言った。


「そういう事だ」

 一応俺も言っとく。


「ならば奴らの敵なら、我らの味方。彼らを追い返してほしい」

「ああ、まあついでだ」

 また台詞を取られた。


 八重が変な顔をして、頭をなでてくれた。


「とりあえず、奴らは侵略で、燃やせば良いんだな?」

「そうだ。できるのか?」

「おうよ。霧霞。出番だ」

「はあ? まあ良いけどよ、褒美はたのんだぞ」


 敵陣に向かって、火球を投げる。

 そうこの前見た、魔族の魔法。


 光の玉が敵陣へ向かい、上空で停止をする。


 その瞬間、光となって拡散をする。


 威力が強すぎて、こちらの弓兵や、盾役が飛んでくる。


 そう吹っ飛んだ。

 一気に膨張をする空気。


 広がり、そして今度は収縮。


 俺の撃った魔法は数千人を消滅させた。


 スコンと後頭部に何か当たる。


 目の前が、ブラックアウトをして俺は倒れた。



「…………」


「何が一体?」

 うん? ああそうか、ナニをやってんだ俺……


 人間の生活が羨ましくて、記憶と能力を封じ十数年。

 意外と短かったな。


 だが、いま俺が立っている暗い所には、クラスの連中の体が立っている。

 と言うか、あの一瞬か。

 動きが無く時が止まっているから暗いんだな。


 殺した奴らも、まだ居るし。

 頭を持ってみる。やっぱり中に魂がいる。

 別の奴、こいつは居なーい。


 パンツが1枚……

 これまでに帰った奴ら、此処で保存状態で止まっているのか。

 あのじじい、こんな事が出来るのは、さす神だな。


 だが記憶が蘇ったことで悩む。

「ここには、八重が居ない…… ああそうか、八重。久枝灘? そうか、あのお方は何をしているんだ? わざわざ記憶の改ざんまでして紛れ込んで、あのじいさんの神様知ったら心臓が止まるんじゃないか?」


 そうあの子は神、受肉をしてわざわざ俺とエッチをしに、異世界にまでやって来た様だ。


 クラスメートの体を楽しんだ後、異世界側へと帰る。


 そこは地獄のようだった。


 俺の亡骸を抱え、矢を放った、腐れ貴族は幾多の死体の中心で、一皮一皮むかれていた。


「その位にしておけ、姫様」

「へっ。あれ?? あっそうか死んだから記憶が」

「そうだ。とりあえずそこで炭になっている侯爵は、霧霞 悠人の命令により命ずる。復活せよ」


 燃えて炭になっていた体が、空中で再構築をされ、逆再生のように復活をする。


 裸だから、鎧とかまで復活をさせる。

 輪廻に戻ろうとしていた魂を捕まえ体へと戻す。

 リンクが切れているから判らんが、あのじいさんは今頃パニックだろう。


 パニックを起こしていた。


「なんじゃアイツ。志半ばで散るとは、死んでしまうとは情けない」

 まあ、魔法陣は壊した様じゃしもう平和になったのう……

 おおっ?

 あの、女子おなごはなんじゃ? これは神気??


「まさか…… ああぁ…… あん? あやつ頭に矢が刺さって、なんで生きておる?」

 下界を覗きながら、訳の分からない展開にオロオロし始める神。


 だがその後、死んだ者を復活。

 輪廻に入ろうとした魂まで戻してしもうた。

 そんな事が出来るのは、神の領域……

 あやつ、ひょっとするとわしより……

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神の都合と俺の都合 久遠 れんり @recmiya

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