第7話 色々な都合

「ええい。やっちまえ。女はさらえ」

 どこかでそんな声がする。


 ここいらの人は、赤髪。

 目はブラウン。

 俺達の髪色と目は目立つらしい。


 下卑た笑いが、周りから聞こえる。

「女とやるのは久しぶりだ」

「ああ。しばらく抱いてねえな」

 そんな軽口まで。


 それを聞いて、女子は怖がり、男子も怖がる。

 まあ、数人が固まりになり、ズザザとい感じで逃げ回るばかり。

 足元の悪い山道、そんなんじゃすぐ捕まるぞ。


 兵達は、一生懸命だが、山の斜面は慣れないと動きにくい。

 俺のように週一で、斜面を真っ直ぐ走る奇妙な登山をしていないと無理だろう。


 結構キツいんだよな。

 ふくらはぎがつるし。太もももパンパンになるし。

 しなやかで、ねじれる足回りが必要なんだとか言っていたよなぁ。

 それって車の事じゃ??


 そんな時、悲鳴が聞こえ始める。

「きゃあぁ」

 とか、

「いやあぁ」

 とか。


 幾人か切られたか?

 そう思ったら、兵達が盗賊を切っていただけだ。

 男の出す悲鳴が、地球とは少し違う様だ。


 兵達も、対人ならそこそこ使えるようだ。

 ただ、血のにおいが充満し、腕や腹を切られた盗賊達。


 そう、日本で普通に暮らす高校生なら、見ることのない光景。

 彼らは、それを見て……


 盛大にキラキラをぶちまける。

 途端に漂う、酸っぱいにおい。

 地獄だ、つられて戻ってきそうになる。


 そんな中、被害者も出る。

「そんな。いやあぁ。お腹が熱い。それに初めてだから? やっぱり痛い」


 そんな事を言うのは、立井 剛たちい つよし

 後ろから、剣で腹を貫かれたようだ。


 コイツはもう助からんな。

 ファルカリウス…… が出ない。

「仕方が無い」

 そっと近寄り、目隠しがてら頸椎をへし折り、安楽死させる。

 一瞬で意識は途切れただろう。


 問題は、そこで隠れて見ていたのが誰かだ。


 逃げるそいつを、追いかける。

「みたーなぁー」

「見てない。首をへし折って、殺していたところなんて」

 コイツは有卦野 真うけの まこと

 いつも立井と居た奴だ。


 仕方ない。

 その辺りに落ちていた剣で、一突き。

「ああっ。入ってきたぁ。すごういぃ」

 なんか妙な反応。

 そして、首を折る。

 だが仲良くかえれ。


 今度は周りに誰も居ないな、よしよし。


 少し離れた所で、事が落ち着くまでぼーっと見る。

 つもりだったが、やはり叫び声が聞こえると反応してしまう。


 そっと見に行く。

 

 意外と小規模集落。

 野郎達ばかり。


「予定外の戦闘だが、どうだ、実際の戦闘は? ああっ?」

 隊長テンションが上がって、少し変になっている。

「俺と違って、やめてと言っても聞いてくれない。判っただろう。躊躇すれば殺されることになる。やるときには躊躇するなぁ」

「そうか、躊躇無くか……」

 偉そうに言っていた隊長、俺がボソって言ったのが聞こえたのか、いきなり口ごもり始める。


「いや、ちょっと待て。訓練は別だぞぉ。練習で本気だと、みんな居なくなるからな。人は貴重な財産だ、十年訓練した奴を作るには十年かかるんだからな。良いなみんな」


 それから後、俺達は死体になれるためだと言って、掘った穴まで運ぶ作業をさせられた。


 軽く掘って、放り込んで埋めるを繰り返す。

 途中、いやあぁなどという悲鳴が聞こえた。


 クラスメート。見知らぬ他人とは違う、奴らの死体でも見つけたのだろう。

 流石にこの状況。消すのも変だし残した。

 単純に、八重がどこかへ行って、見ていないんだよね。


 

「畜生、兵達がなんでこんな所へくるんだよ」

 馬に乗り、逃げ出した幹部達。


 彼らは賢く、山の中に道を造り、それを利用して少し離れた場所まで移動して、住処とは離れた場所で、街道へ出て盗賊稼業を行っていた。


 山道には、途中いくつもの枝道とトラップを造っていた。


 その中、三キロほど離れた山小屋に彼らは落ち着く。

 馬に水を与えて、干し草を与える。


 そんな様子を、それに浮かんでガン見していた。



 そして戻ると、隊長さんに告げる。

「親玉が逃げています。おわなくて良いのでしょうか?」

「何? どっちだ」

 そう言って走って行く彼女、ギリーは後悔をする。

 馬が居たのに、なぜ俺は……


 そうそれに続く部下達も同じことを考えた。

 枝分かれに、急激なターン。

 そんな道を走り、彼らにはもう道が判らない。


 そうやって谷へ降り、小屋を見つける。


 馬が繋がれ誰かはいる。

「おい誰か居るのか、出てこい」


 そいつらは、どう見ても猟師か農民。

「この小屋はなんだ?」

「これは狩猟時の、休憩小屋でごぜえます」

「そうか」


 その時、八重の目が光る。

「最も狩猟と言っても、獲物は商人達ですけどね」

 彼は言いきってから口を押さえる。


「なんだと、野郎共やっちまえ」

「おお、なんだ? 少人数だやっちまえ」

 もう、どっちが盗賊なのか判らない。


 まあ遅れてきた兵数人も加わり、盗賊は連れて行かれる。


 兵団の隊長であるギリーは知らなかったが、衛兵の詰め所に連れて行くと大騒ぎになる。


「コイツは、雲隠れの一味。この面は、頭のジャチーだ」

「人相書きと一致します。ありがとうございました」

 冒険者なら、懸賞金が支払われている事案。

 だが隊長は、兵団所属。


 御礼の言葉だけを貰い、詰め所を後にする。

「へーあの盗賊、金貨十枚だったみたいね」

 それはおおよそ百万円程度。


 その晩、彼は眠れなかったようだ。

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