第6話 偶然か、必然か?

「そんなわけあるかぁ」

 剣が抜かれ、振り下ろされる。


 そう木剣ではなく、本身。

 シャランとか言って、キラキラした刃が日の光を反射する。

 よく手入れがされている。


 つい折りそうになったが、それはやめる。

 一歩踏み込み、持ち手を殴る。

 剣を手放させると、腕を決め投げる。

 また肘か肩か、関節がびしっとか言ったが知らん。


「ぐはっ…… うがあぁぁ」

「大げさな。腕の一本くらい。うちの親父は、痛みなど気のせいだと言っていましたよ」

 そう痛みなど戦闘にはジャマ。気にしなければ痛くないと言われて、子供の時幾度泣いたか。

 その後、父さんは母さんに知られて、ボコボコにされていたが。


「おまえ、一体何者だ」

霧霞 悠人きりがすみ ゆうとでごぜえます」

 一応頭を下げる。


「そうじゃねえ。勇者にしてもおかしい」

 隊長はそう言いながらも、腕を抱えて走っていった。

「痛かったんだな」

 

 その様子を見てしまった、有象無象のクラスメート達。

「お前一体?」

霧霞 悠人きりがすみ ゆうとでごぜえます」

 同じくそう言って、一応頭を下げる。


「そんな事は知っている」

 と突っ込まれる中、へーと言う反応が半数以上を占めた。

 クラスメートなのに…… つい、涙が……


 まあ俺も、関わりの無い奴の名前は知らんが。

「霧霞君、名前も気になっていたけど、武道とかしているの?」

 プルルンレベル五の女の子だ。

 えーとと思っていたのに気が付いたのか、彼女はむくれた。

「ひどっ。川瀬 陽子かわせ ようこと言う名前、記憶に無い?」

 教室では、悠人の左斜め前に座っている。

「あー、川瀬さんね。はいはい」

 そう言ったら、冷たい目を貰った。


 そこに飛んできたのは、当然八重。

 ガシッと、俺の腕を持つ。

「あらっ。そういうつもりじゃ無いの。この世界危なそうだから、その、武道を教えて貰おうかと思って」

「あらそう。だけど、人殺しの技よ。あなたに出来るの?」

 なぜ家の秘密を知っているのか、まあ八重だし仕方が無い。


「人殺し? でも、魔族? モンスターだって王様が」

「どっちにしろ生きているものを殺すの。おわかり?」

 びしっと指さす八重。

 そっと腕をおろさせる。


 勘違いをしたのか、指を絡ませてきた。

 周囲でそれを聞いていた連中も、ザワザワとし始める。


「そうだよ。殺さなきゃいけないのか」

「えーやだぁ」

 そんな声が聞こえてくる。


 だが、その日は現れなかった隊長が、翌日無茶振りをしてきた。

 兵を二十人ほど引き連れ、いきなり、剣とかが目の前に並べられる。

「お前達に訓練は必要ないようだ。早速実践に向かう。なに、今日は獣が相手だ、倒せば晩飯が豪勢になる頑張れ」

 そういえば、腕が治っているな。

 ああ治療魔法を受けたのか。


 それはいいが、視線が俺から離れない。

 そんなに見つめられると、照れてしまう。

 つい両頬を、手でおおってくねくねしてしまう。


 それを見て、隊長の眉間に皺が寄る。


 でだ、俺達はぞろぞろと近くの森へと向かう。

 うーん。都合二時間くらい駆け足。


 俺はいいけど、兵隊さん達はかなりキツそうだ。

 俺達は、革のプロテクターだが、兵達は金属製。

 フル装備ではない様だけど、重いんだろうな。


 そんなつまらないことを考えていたら、街道を外れて、森の中へと突入する。

 ここまでの道中、街道の左右には、畑が広がり、かなりのどかな感じ。

 ただ働いている人達、足枷が付いていた。

 奴隷なのか、単なる決まりなのか。

 平民の、扱いについて、これが基本なら良くない国だな。


 町中の人は普通だった。

 家とかも、古い造り。下半分石を積んだ感じで上は木造。


 町中は、一応、石畳で舗装されていたが、街道は未舗装。

 まあアスファルトでびしっとされていたら、俺達は今、どこかのテーマパークでドッキリを仕掛けられているのだろう。


 だけど…… 聞き慣れない声がする森の中。

 そして、獲物に紛れて奥の方で死臭。


 隠れては居るが、周囲に増えてきた人達。


 隊長は獣と言ったが、獣のような人達が相手じゃ無いのか?


 おれは、足が止まる。


「おい何をしている。止まるな。早く来い」

 叫ぶ兵。

 その背中に矢が刺さる。

「ぐわっ」


 おれは、体勢を低くしながら、地面に落ちている石を数個拾う。


「そこっ」

 木の上、葉の茂る枝の上に石を投げる。

 なんかね。勇者特典なのか、神様特典なのか、石は枝に隠れていた射手の頭を爆散させたようで、そのまま降ってきた。


「きゃあぁぁ」

 女子達の悲鳴が響く。


 それを合図に矢が飛んでくる。

 俺はそれを見て、何もしなかった。

 仕組み上、死ねば帰れるらしいし、放っておこう。


 一応周りを見回し、自分は守る。

 こんな所で死ねば、きっとあのじじいに笑われる。

『死んでしまうとは情けないのう』

 きっと、言われるだろう。


 石を、ブンブン投げていく。

 兵達も、矢を射かけているが、下手だ。


 相手は身軽で木から木へ移って行っているし、地上の方も囲まれてきている。


 俺は、クラスメート達、全滅してくらないかなぁと考えてしまう。


 そう、普通に考えれば、ろくでもない話しだが、みんなを帰すためだ。俺が自ら手を下すのは簡単だが、ストレスはかかる。

 向こうに帰っても殺した相手達と授業を受けるんだ。

 おれが殺したことを、相手に知られてはいけない。


 あの召喚陣は、あの日こそっと壊したから、もう呼ばれることは無い。


 そう、みんなのためなんだ。


 そんな中、八重はぼーっと立ち、周りを見ていた。

 ふしぎなことに、矢は近くを通っても当たらない。


 ただ、笑顔を浮かべて、彼女は立っている。

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