第3話 第一陣、帰宅。

「畜生ふざけやがって」

 なぜかこの部屋も男女のペア。


 古川 竜司ふるかわ りゅうじ柴田 美咲しばた みさき

 まだ、口元には血の流れた跡と、頬の腫れ。


「どうするの?」

 そう聞かれて、考え込む竜司。

 考えても現状、どうしようも出来ない。


「くそう……」

 竜司は柴田に、のし掛かるしか出来なかった。


 

 そして、現状を受け入れられず、泣き出す女の子達。

「一体……」

「此処って一体何なのよ」

「勇者諸君って、言っていたわよ」

「そうね。魔族と戦えって言う口ぶりだったわ」

「どうする?」


 口々に思いを言葉にする。

 心配しているだろう家族。

「今晩、唐揚げだったのに……」

 おかずの心配をする、少しぽっちゃりした増田 美香ますだ みか

 彼女は毎晩、育ち盛りの弟と食事中のバトルをしていた。

 それにより鍛えられた、顎と俊敏さ、そして、動体視力。


 毎晩、弟の箸を母親達に気が付かれないように、パリィしながら戦っていた。

 そして今日は、唐揚げだった……

 このままでは、やつにすべて蹂躙されて食われてしまう。

 そんな絶望が、心を支配する。


「美香、泣かないでよ」

 そんな彼女を心配する友人達。

 美香は、何時しか涙が頬を伝わっていた。

 そう、すべては唐揚げのために。


 ここに集うのは五人。

 ぽっちゃり、増田 美香ますだ みか

 ラーメン屋の看板娘大谷 恵おおたに めぐみ

 影の薄い美人系、阿部 静香あべ しずか

 いつも活発娘高橋 由希たかはし ゆき

 思いつきで自爆が得意木村 真帆きむら まほ


「ねえ、あの変な模様が描かれた部屋」

 木村 真帆が、思いつく。

「最初に来た部屋?」

「そうそう。来たのなら帰れそうじゃない?」

 それを言われて、みんなもなるほどと納得をする。


「食事の後、就寝とか言っていたから、その時に行きましょう」

 意外とあっさりと話が決まり、実行をすることに。


 食事は、中世の様相。

 大皿に盛られた料理。

 ドンと置かれたナイフで各自が切り、皿のようなパンに乗せる様だ。

 冷たい目をした、執事のような男が教えてくれた。

 まるで、こんな事も知らぬのかとでも言う感じで。


「あのー、せめてフォークか何かありませんか?」

 クラス委員の鈴木 悠司すずき ゆうじが手を上げて聞く。


「トレンチャーにとった料理を、手で優美に頂くものだ」

 ツンとした感じで教えられる。


 そして、飲み物はワイン。

 この世界、生水の危険性は承知されており、子どもまでワインを飲んでいる。

 無論小さな子どもは、湯冷ましで割ったものだが……


 そして、生徒達は質素で味気ない食事を食べ始める。

 だが酔っ払い、機嫌はいい。

 そして、この世界では下品とされるトレンチャーまで食べてしまい、侍従や侍女達に裏で笑われることになる。


 そう日本との常識が違い、結構苦労することになる。

 トイレはツボ…… その上に、座面に穴が空いた椅子が置いてあった。

 そして、水で洗う。

 小汚い布きれと手で……


 色々と疲れ、だが酔っ払い、ふらふらと部屋へと帰る。

 その途中、こそこそと道を外れる女の子達。


「ねえ。あの子達」

「うーん。あっちは…… 来たときの尖塔へ行く気か?」

 夕暮れ時、城内はすでに薄暗いが、人もまだ結構うろうろしている。

 兵や侍女達。


 周囲を気にしながら、彼女達の後を付いていく。


 途中、見回りの兵が彼女達に気が付き、追いかけようとした。だが、八重がどこから出したのか判らない棍棒で、躊躇無くぶん殴る。

「これで良し。記憶は飛んだはず」

「―― そうなんだ」


 その流れるような動きで、俺はなにも出来なかった。

 記憶の中の彼女は、もっとおとなしい感じだったはずだが……


 思い出される部屋でのキスシーン。

 つい彼女の横顔を見つめてしまう。

 夕日に照らされた彼女は美しかった。

 棍棒を持って、優雅に舞い踊る。


 そうしてゴンゴンとしながら、追いかけていたが、重要拠点の尖塔。

 兵が仁王立ちをしている。


 流石に彼女達も動きが止まる。


「うわー兵隊さんが居る。どうする?」

「お願いをしたら見せてくれないかな?」

「無理でしょう」

「そうかなぁ」


 動きが止まったし、目的は判った。

 背後から近寄り声をかける。


「おい」

「きゃあぁぁ」

 響き渡る絶叫。

 大谷 恵、反応早すぎ。


 無論。

「何者だ」

 こうなる。


 すでに剣を抜き、こちらへと向かって来る兵士二人。

「ごめんなさい。声をかけたら、お友達が驚いてしまったの」

 八重が説明をする。


「お前達、勇者か。ここは立ち入り禁止だ帰れ。それに城内を勝手にうろうろするな」

「そう言われてもぉ、ちょっとだけ見せてくれません?」

「だめだ。帰れ」

「ケチ」

 その瞬間、兵の頭は殴られ横を向く。


 見事な棍棒の一撃。


 まるで、燕返しのような切り返し。

 優美な曲線を描く棍棒、その軌道上に存在した頭。


 首の上だけ、はじかれるように動いた。

 そして兵の意識は途切れる。


「ケチなんだから。さっ、行くんでしょう。魔法陣を見に行きましょ」

 そう言って、五人を連れていく。

 ぶっ倒れた兵を気にしながら、脇を抜けていく。


 そして……

 鍵がかかっていたようだが、なぜか開いた。


 そして中へ入るが、当然、ここに居ても何も起こらない。

 彼女達は、陣に対して魔力を器用に流し込んでいたが、駄目なようだ。

「みんな、そんなに帰りたいんだ。ドキワクの冒険とか、ステキなロマンスとかあるかもしれないよ」

 八重が説得をするが、「お店が」「家族が」「唐揚げが」等々、みんなは帰りたいらしい。


「仕方が無いわね。悠ちゃん。お望みのようだから殺っちゃって」

 うん? なんで、八重がその事を?


 なんで、俺の右手にデスサイズが?

 柄の部分と刃が繋がる口金部分、そこに一対のドクロが背中合わせに意匠されており、目の部分が怪しく光る。


 だがすごく手になじみ、うん。力が湧いてくる……

 まじまじと見ていると、八重から声がかかる。

「悠ちゃん。懐かしいのは判るけれど、早くして。きょ、今日はこの世界でのしょ…… 初夜なんだから」

 そう言って、股のところで両手の指を組み、もじもじし始める。


 そして、いつの間にか、彼女達は動きが止まりぼーっと立っている。

 そうさっきまで、しゃべっていたのに、今は何処を見ているのか判らない目、表情の無い顔。

「ねぇぇ。はぁーやぁーくぅぅ」

 なんで胸の前で手を組んで、お尻を振るんだよ。


「ああっ。判った。急かすな」

 おれは、軽くデスサイズ。ファルカリウス=メッサー=トルーシー。

 俺の相棒を振る。


 それだけで、五人の首が飛び倒れ込む。

 無論物理的な肉体は、傷一つ無い。

 俺が刈るのは、魂のみ。


 魂はもうこの世界に無いが、倒れ込んだ五個の死体は残る。

 どうしようかと、呆然と眺める。

「んー。悠ちゃん。他の女の子。体が気になるの? 脱がすなら手伝うわよ」

 少し機嫌が悪くなりながらも、聞いてくる。


「ばっ、ちがう。この死体をどうしようと思って」

 そう言うと、彼女はじっとこっちを見つめてくる。

 体を少し横に倒し、手は後ろで組み、なぜか、下方から俺の顔を見上げるように……


「本当にいいの? 見たいなら今だよ」

「ああ良いから」

「嘘つきなんだから」

 そう言った彼女が、なぜか右手を横にだしてくるりと舞うと、もう彼女達の体は無くなっていた。


「がっかりしないで。見たいなら、私が見せてあげるから」

 そう言って、腕にしがみついてくる。

 あれ? 鎌は何処に?


「別に……」

「嘘つきぃ」

 俺はその時、頭痛を感じていた。ああこの会話のせいも多少あるが。


 そうたぶん。仕事をしたから、施した封印がこの時から壊れ始めた。


 地上などに存在してはいけない力。

 そうそして、横にいるのは痴女。

 目を閉じても、強引に開けられる……


「ほら見てぇ……」

 柔らかいおっぱいが、顔の上に……

 ああ神様……

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