第2話 勇者様は結局だれ?

 周りは、暗い石造りのホール。


 俺が飛んできたとき、目ざとく飛びついて来たのは、幼馴染みの…… だれ?

 頭の中に、何か流れ込んできた。

 久枝灘 八重くしなだ やえ


 そうそう。彼女は中二の時、興味もあって色々で、俺の部屋でキスをした。

 だけど、その後ぱったりと来なくなっていたんだ、そうだそうだ。


 学校であっても、彼女は逃げまくっていたし。

 だけど高校は、いつの間にか同じ高校へ来ているし。


 久しぶりの彼女は、結構育っていて、むにゅっとした。

「悠ちゃん」

 泣きそうな顔で、俺の方を懐かしそうに見つめる彼女。


 とりあえずこの出来事で、能力の確認とかその辺りをするのを忘れた。


 みんなは、あーだこーだと言いながら、水晶板に触って光らせていた。

 青、赤、水色、茶色。白のようだ。

 白だけ別の班へ分けられる。

 白は多分、性…… 聖属性。

 緑が無いと加色混合で白にならない。そんなつまらない事を考えてしまう。

 緑ってなんの属性だろう。


 彼女は白。


 俺は、触ると割れた。

 一瞬黒だった気がしたが、黒は今まで居なかった。

 もう一回、お代わり水晶板が来たが、触っても無反応だった。

 だが、安心した瞬間に、割れた。

 まるで俺に対して、揶揄っているような水晶板。


 ほら大丈夫。でも…… うそぉ。ふははっ。

 そんな声が、どこかから聞こえそう。

 パキパキと…… 割れていくんだよぉ。


 そしてオッサンが、気が狂ったように真っ赤になる。

「もう、お前はいい。触るんじゃ無い。次」


 後で聞いたが、実はすごく高いらしい。


 そうして、全員名が終わり、部屋を移動する。

 相変わらずガヤガヤしているが、謁見の間で、強制的に静かにさせられる。


 そう、ガヤガヤ言いながら部屋へ入り、怒鳴り声と、槍が向けられる。

「貴様達、控えぬか。王の御前である」

 とまあ。幾人かが当然口答えをして、槍の柄の部分でしばかれ、石突の部分でグリグリされる。

 

 特に、ちょっとヤンキーが入っている古川 竜司ふるかわ りゅうじと横にいる柴田 美咲しばた みさきは結構もろに喰らった。

 あそこに転がっている、白い歯は誰のだろう?


 しかし、勇者として呼ばれながら、扱いはひどいな。

 あの神め、滅ぼしちまえよこんな国。

『いやあ、直接は手が出せんでのう。すまんな。じゃ』

 ちょと待て、何だ今のは……


「どうしたの?」

 八重が見つめてくる。

「いや、さっき神のやつが」

 兵士さんに殴られたくないので、こそこそとしゃべる。

 すると頭をなで、慰めてくれる。

「もう大丈夫だから」


 その瞬間……

「ぬおっ。なんじゃ。小僧との接続が切れた。あの小僧自らに封印をしておったし、解除できるはずは無いのじゃが……」


 じいさんは焦る。


 そう自らが招いた、危険な存在。

 彼女は、どさくさに紛れ、楽しもうと画策をしてみた。

 彼の記憶はきっと、ここへ来たことで、徐々に封印が解けるだろう。

 それまで、見知らぬ振りで楽しもうと。


 そっと紛れ込んだ。


 じじい。

 此処の神は、気が付かなかった。

 凶悪な異物の混入を。


 気が付けば、きっと禁忌を破り、地上へと赴いて平伏する相手。

 自分より階位が幾つも上に存在をする神。

 それが、自分の世界へとやって来た。


 彼と居たいから、楽しそうだから、そんな理由を実行する機会を与えてしまった。


 ちなみに、悠人も上位神だが、封印のせいで読み切れなかった。


 さて、大ボケをかました神は、最後生きていられるのか。

 それこそ、神のみぞ知る。



「さて、よくぞ来られた。歓迎をする」

 王様は、見た感じ三十歳過ぎ。

 結構若い。


 床に転がる数人をちらっと見るが、そのまま言葉を続ける。


「この世界には、幾多の民族が住まう。その中で我らと和平を結び平穏に暮らすがいる一方、自身らの優位な力を利用し侵略を行う者どもがおる」


 そう言った後、俺達のほうを見回す。


「それを魔族という。人とは違い、魔力に対し強い親和性をもつ。つまり強力無比な魔法を使うことができる。その姿も異形となり人とは違う。言わばモンスターに近い。だが言葉を交わし社会性を持つ。今まで、召喚した勇者達は、その事に尻込み。裏切られ滅せられた。よいか、彼の者達を信じるな。必ず裏切られて殺されることになる」

 そう言い切り、王はため息を付く。


「長年の戦乱により、招いておきながらたいした持て成しも出来ない。許してほしい。諸君には期待している。理不尽だと嘆くこと無く力をつくし、この世界に平和を与えてほしい。たのむ、我らにはもう力が無い。君達に頼るしか道は無いのだ…… すまぬ」


 そう言い切ると、頭を下げたが、口元に薄笑いを浮かべて、場を後にする。


 さて幾人が気が付いたのか。

 刹那の笑い。


 ここに居るのは、まだ未熟な高校生達。

 ザワザワとし始めるが、今度は兵から止められない。


「よろしく頼む」

 部屋の中で誰かが言った。

 それに呼応するように、周りのみんなが頭を下げる。


 それの答えは、ざわざわ。


 みんなは、案内をされて、あてがわれた部屋へと向かう。

 その中で、納得していないのは四人。


 俺と、八重。そして、手酷い目にあった古川と柴田。

 他の者達は、演説で説得をされたようだ。



「どうするの?」

 嬉しそうに聞いてくるのは、なぜか俺と同じ部屋にいる八重。

「えっなんで。男女一緒?」

 驚く俺と、えっ普通でしょという感じの彼女。


「そうみたいよ。えっと、私と一緒じゃいや?」

「いやじゃ無いです」

 とっさにそう答える。

 肉欲が暴走する季節。健全な男子十七歳。無理です。


「そう、よかった。ずっとね。一緒にお話とかしたかったの。随分離ればなれで淋しかったの」

 そう言った彼女は、俺に抱きついてくる。


「そうか、悪かった」

 そう言って抱きしめる俺の頭の中で、確かに何かが軋む音がした。

「しばらくは、一緒に居よう……」

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