第2話 初めての通報
「よ、おかえり」
知らない男(不審者)はごく自然に僕を迎え入れた。先ほどまでの恐怖と期待については、恐怖が9割越えとなっている。冷汗が止まらず、シャツは汗でびっしょりで、不快なまでに皮膚に張り付いている。直ぐにでも逃げ出したかったが、状況を詳しく確認して警察に通報しようと考えた。このような状況で冷静になれるのが僕の強みだ。
「だ、誰ですか!ここ僕の部屋ですよ」
「まぁ、落ち着けって。麦茶でも飲んでさ」と男はこの状況に見合わず落ち着いて言った。
「君はまだ帰ってこないと思ってたんだけどね。でも、早く帰ってきてくれて助かったよ」
僕は靴を履いたまま、男から目を離さないよう、一定の距離を保って部屋に入った。部屋の中は荒らされた形跡はなく、貴重品は盗まれてはいなさそうだった。ただ、不愉快な煙草の臭いがしていた。
男は冷蔵庫の中から麦茶を取り出し、グラスに注いで一口飲んでから僕に渡した。気色が悪かったので、一切手を付けないでおくことにした。
「まずは、警察に通報はしないでほしい。俺は泥棒でもないし、君を襲いに来たわけでもない。なんなら、君を助けに来たんだ」
「どんな理由だとしても、立派な不法侵入ですよ。どうやって部屋に入ったんですか?」
「結論から言えば、大家が鍵を貸してくれたんだ。君も知っての通り、あの親父は大分ボケていてね、状況を話したら快く鍵を貸してくれたよ。で、その状況ってのが今回の肝なんだ」
男は先ほどの紙煙草とは別の電子煙草をポケットから取り出し吸い始めた。
「あ、自己紹介がまだだったな。俺はワヤマってんだ、よろしく」
「サトウです」
「サトウ君ね、よろしく。早速だが、俺がここにいる理由を順を追って話そう。真面目そうな君には理解ができない話になると思うが、これから話す事は全て事実だと信じて欲しい」
僕は、小さく頷いたが、このワヤマという男が何を言っても信じられそうにない。テーブルの下では常にスマートフォンを持ち、いつでも通報できるようにしておいた。
ワヤマは僕に渡した麦茶をさりげなく飲み、僕の目を見て真剣な眼差しで言った。
「この部屋のトイレが、異世界への入口になっているんだ」
僕は、警察に通報した。
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