第3話 明日から頑張る

 9時30分ごろ、お腹いっぱいになってきたので、店を出ることにした。

「今日はありがとうございました。俺が払います。」

といい、俺は席を立ったが、

「いや、いいわよ。私が払うわ。私のほうが年上だから」

お姉さんはそう言って、先に会計の方に向かった。

「いや、俺が...」

正直に言うと、経済的にはぎりぎりだったし、純粋にお姉さんに甘えたかったので、お姉さんに払ってもらいたかった。

「いいのよ。強がらなくて」

お姉さんは僕の頭に手を伸ばし、ポンポンと軽く頭をたたきながら、そう言った。顔が熱くなってきた。


 お姉さんの会計を担当したのは、最初にビールを運んできた金髪のボニーテールの店員だった。お姉さんの斜め後ろにいた俺と一瞬だけ目が合うと、やはり蔑む視線を送ってきた。会計を終え、居酒屋の外に出た。外はまだ蒸し暑かった。


「うーん、暑いねー」

そういいながら、お姉さんは背伸びをした。お姉さんの白い脇が目に入った。思わず目をそらして、お礼を言った。

「えっと...本当にありがとうございます。」

「どういたしまして」

「...」

「じゃあ、私、家こっち方面だから。ばいばい。」

お姉さんは手を振りながら、僕に背を向けて歩きだした。

「あっ、えっと...さようなら...」


 どうしよう。お姉さんが僕の家と反対方向に歩いていく。本当はもっとお姉さんと話がしたかったし、ここでお姉さんと別れたら、一生会えない可能性だってある。またお姉さんにまた背中をさすってほしい。話を聞いてほしい。もっとお姉さんのことを知りたい。もっとかまってほしい。もっとちやほやしてほしい。お姉さんの連絡先が欲しい。でも、声が出ない。お姉さんはどんどん離れていく。


どうすんの、俺。


 俺は全速力で走って、お姉さんの前に出ていた。

「あの、お姉さん、連絡先を教えてください!」

息切れを起こしながら、俺はそう言った。

「えっ?」

お姉さんは、びっくりした表情を浮かべていた。

「またお姉さんに背中をさすってほしいです...じゃなくて!またお姉さんと話がしたいです!」

お姉さんは少し間を開けて、それから優しく答えた。

「うーん、どうしようかな。君が悪い人だとは思わないけど...会ったばかりの人にLINEを教えるのはちょっと怖いからなぁ...メールアドレスなら教えてあげるけど」

「...はい!ぜひ教えてください!」

そして、俺はお姉さんとメールアドレスを交換した。やった!

「じゃあ、また会おうね。さようなら。」

「はい。またいつか!」


 俺は反対方向を向いて、家路についた。頭の中は、お姉さんの連絡先がわかったことでいっぱいだった。

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居酒屋で出会ったお姉さんにひたすらちやほやされる mikan @MatyaMikan

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