第2話 お姉さん

「だいじょうぶ?」

「あぁ...えっと...少しずつ落ち着いてきました。ありがとうございます。」

いったん深呼吸して、思考まとめ、言葉を発する。

「えっと...仕事がうまくいってなくて...なんか...ビール飲んだら、思わず感情があふれ出てしまって...すみません...ありがとうございます...」

「そっか」

お姉さんはそれだけ答えて、注文していたカクテルに手に伸ばした。その時、お姉さんの豊満な胸が、テーブルに当たっていたのが見えた。

「っ」

思わずドキッとしてしまった。「彼女いない歴=年齢」の俺には刺激が強くて、思わずお姉さんから目をそらした。涙で曇っていた視界がだんだんと晴れきて、お姉さんの全体像がはっきり見えてきた。容姿もきれいだが、スタイルもいい。ああ、俺はこんなお姉さんに背中をさすってもらっていたのか。


(おれ...幸せだ...)

生きていてよかったと思った。


 お姉さんは少し飲んだカクテルをテーブルに置き、正面を向きながら言った。

「私にもそういう時期、あったよ」

俺はお姉さんの横顔をずっと見ていた。

お姉さんの言葉には、さっきまでとは違う重みが含まれていた。俺より苦労してきた感じがして、簡単にうなずくことにためらいを感じたので、テーブルのほうを向き、軽く顔を下に向けることにした。



「ねえ、なんか食べて元気出そ?」

重い空気を断ち切るように、お姉さんはそう提案した。正直食欲はあまりなかったが、食べることにした。

「そうですね、なんか食べましょう。」

俺はメニュー表を取り出し、お姉さんの間に広げた。お姉さんがこっちに身をかがめ、再びお姉さんのいい匂いがして、クラっとした。そのままお姉さんに溺れてしまいたい気持ちを抑えて、メニュー表に意識を集中した。

 とりあえず、「枝豆」「唐揚げ」「サラダ」「たこわさ」「キムチ」を注文することにした。そのとき、「スペシャル唐揚げ」というメニューをお姉さんが注文した。


 注文を待っている間、お姉さんといろいろな話をしていた。

「お姉さんはどこらへんに住んでいるんですか?」

「うーん、ひみつ」

いたずらっぽい笑みを浮かべながら、お姉さんは答えた。

「ひみつ???」

「そう、ひ・み・つ」

 話を聞く限り、お姉さんは「佐藤桜さとうさくら」という名前で、昨年この地域に仕事の関係で引っ越して来たらしい。しかし、たいていの質問は「ひ・み・つ」と言ってはぐらかされたため、詳しいことはわからなかった。年齢もわからなかった。


 やがて、店員さんが料理を運んできたので、取り皿で分けながら食べた。ここ何週間か食欲がわかず、あまり食べていなかったので、久しぶりにたくさん食べた気がした。俺はビールももう一杯注文し、お姉さんもカクテルをもう一杯注文した。「ごはん」や「刺身」、「ポテトサラダ」「おいしい味噌汁」も追加で注文した。


 ところで、この「スペシャル唐揚げ」はなんだったのだろう。見かけは普通の唐揚げと同じだったが、シナモンのような甘い香りがした。しかし味は甘くなく、くどい感じではなかったので食べやすかった。なにか特別な香料を使っているのだろうか。

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