居酒屋で出会ったお姉さんにひたすらちやほやされる
mikan
第1話 居酒屋にて
俺は冴えない社会人1年目23歳の
居酒屋は満席ではなかったが、それなりににぎやかだった。溶けそうなほど暑い7月だったが、店内は冷房が効いていて涼しかった。俺はカウンター席の一番奥に座り、生ビールを一つ注文した。
「すみませーん」
「はーい」
金髪で、ボニーテールの店員さんがやってきた。
「ご注文をお伺いしまーす」
「生ひとつ...」
俺はぎこちなく返事をする。
「はい。かしこまりましたー」
1分ぐらいたったころ、再びさっきの店員さんがやってきた。
「こちら生ビールでーす」
「あざーす..」
店員さんは、ボニーテールを揺らしながら、足早に去っていった。そして、俺は、何も考えずに生ビールを一気に1/3飲んだ。ビールのジョッキを置き一息つくと、不覚にもボロボロと涙が出てきて、呼吸が乱れ始めた。
(まずい...泣き止まなければ...)
でも、決壊したダムから水が溢れる時のように、涙は止まらなかったし、呼吸を安定させることもできなかった。とりあえず机に顔を突っ伏せることにした。周囲の人や、さっきの店員がチラチラこっちを見て、クスクス笑っているのが、背中越しに感じられた。とても恥ずかしい。
「うぇーん、ヴぇーん、ぐずぐず、うぇーん、ぐずぐず」
泣き止もうとしても泣き止められなかった。もうやだ。しっかりしないといけないのに。いい年した社会人なのに。周囲に迷惑をかけるまいとなんとか声は抑えた。それでも涙は止まらなかった。
そんなとき、奇跡は起きた。泣いてから10分ぐらいたった頃だっただろうか。隣から、道に迷った幼稚園児に話しかけるような声が聞こえた。
「僕、どうしたの?」
俺は顔を上げ、声の方向を見た。すると、黒いロングヘアを肩に垂れ流し、黒のノースリーブとジーパンを着た、クール・ビューティな雰囲気の、キレイ目でかわいいお姉さんが隣に座っていた。お姉さんはテーブルに頬杖をついて、顔を傾けて、微笑みを浮かべながら、大きくて優しい目でこっちを見ていた。
「えっ」
俺は思わずドキッとした。きれいなお姉さんだった。何が起こっているかわからず、俺は泣き止んだ。でも思考は止まったままで、どう反応すればいいのかわからなかった。
10秒ぐらい沈黙があった後、お姉さんが口を開き、さっきと同じような声で、優しく問いかけてきた。
「どうしたの」
俺はなんと答えればいいのだろう。未だに思考は止まっていて、言葉が出てこない。どうすることもできなかった俺は、再び顔を机に突っ伏し、号泣した。
「ヴぇーん、ヴぇーん、ぐずぐず」
すると、お姉さんがこっちに少し近づいてきた。フワッといい匂いがした。そして、俺の背中を、白い華奢な手でさすりながら、
「うん、うん」
と言ってくれた。
これは夢ではないだろうかと一瞬思った。心臓はずっとバクバクしていた。素敵なお姉さんに背中をさすってもらっている...
かれこれ10分ぐらい泣き続けてから、俺はやっと自分をコントロールできるようになってきた。(最後の1分は、お姉さんにもっと背中をさすってもらうために泣くのを延長した。)そして、突っ伏していた顔を上げた。お姉さんは自然に背中をさすっていた手を戻した。
「えっと...」
俺は感謝の言葉を言うべきなんだろうが、なぜかうまく言葉が出なかった。
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