第6話

 白野花さんが見学に来てくれた部活は、張り切った部長が空回りしていたたまれなかった。

 女性部員が欲しいって、ずっといってたもんな。


 部長ははかなげとも思える幻想的な見た目に反して、結構大雑把だ。うちの妹と似たタイプだから僕として付き合いやすいけど、本人は「今の女の子って、どう接していいかわかんない」とか、おばさんくさいことをいっている。


 部活が終わり、白野花さんは一旦部室外へ。

 ちなみに今日も、部活に出てきた部員は僕と部長だけだった。


「来栖。あの子、どう思う」


「どう思うとは? クラスでは一番の美人さんですけど、かわいいと思っています」


「いや、それはそうだろうけど。あんたも男の子だな。確かにめっちゃかわいかったけど、入部してくれるかどうかだ」


「あぁ……無理っスね。興味なさそうでした」


 本人、もともとそういってたし。


「だ、だよね……なんで見学に来たと思う?」


「僕が誘ったんスよ。放課後待ち時間あるっていってたので、暇なら見学に来ますかって。ダメ元でしたが、よっぽど暇だったんでしょう、OKしてくれまして」


「そう、か。暇潰しか……って、それ、信じると思うのかッ!」


「信じるもなにも、それが真実ですけど」


「あんたさー、鈍感どんかんにもほどがある! それは、あんなかわいい子があんたを意識してるなんて思わないのが普通だけどさー、世の中、間違うこともあるんだ。わかれ!」


「なにいってるんスか。わけわかんないっスよ。お腹空いてます?」


 部長はお腹が空くと、ちょっとおかしくなる。酢こんぶを舐めさせると元に戻るけど、今は持ってない。


「はぁー……あの子さー、ずっと私に敵意ビンビンだったよ? その意味、ひとつしかないんだけどー」


「先輩、白野花さんになんかしたんスか? 後輩いじめ、かっこ悪い」


「原因はあんただ。鈍感男子、かっこ悪い」


 先輩は片付けをしながら、


「まぁいいや。早く行ってやんな、待ってるよ」


 先輩の視線を追うと、廊下から部室をこっそりうかがっている、白野花さんの姿が。なにやってるんだろう。


「じゃあ、お先に失礼します」


「おう! また来週な」


「はい。また来週」


 僕が部室を出ると、


「終わった?」


 すぐに白野花さんが駆け寄ってきた。


「はい、終わりました。それで……」


 なんの用ですか? といいそうになったけど、きっと昨日のアレに関係したことだろうから、


「話せる場所に移動しましょう。教室なら、今は誰もいないかもしれません、教室に行ってみましょうか」


「そうだね。うん、わかった」


 僕たちは自分たちのクラスの教室に移動した。予想通り、そこには誰の姿もなかった。完全下校時刻までまだ30分以上はあるから、話はできるだろう。


 僕が自分の席に座ると、彼女も隣の自分の席に腰を下ろす。


「ちゃんとお礼をいわないとと思って。昨日はありがとうございました」


 丁寧だな。すごくいい人だ。


「どういたしまして」


 僕はそう返し、続く言葉を待ったけど、数秒しても彼女からの言葉はなかった。


「それだけ?」


「ち、違うけど。でも、あのね? 連絡先の交換をお願いしようと思ったんだけど、もうしてもらっちゃったし……」


 彼女は再び数秒の沈黙。そして、


「昨日はいやな気分にさせて、ごめんなさいでした!」

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