第5話
いつものように、ひとり教室でパンを食べていると、
「お、お話があります。放課後、お時間をいただけないでしょうか……」
言葉使いがおかしい。
なんだろう?
「いいけど、今日は部活があるから、終わってからでいい?」
今日は木曜日。僕は『月・火・木』が部活の日。
「部活!?
言葉使い戻った。よかった。
「うん、将棋部。将棋好きなんだ」
僕の趣味は、子どもの頃から将棋。中学時代は、そこそこ強かったんだ。
受験勉強でしばらくできてなかったけど、高校では迷うことなく将棋部を選んだ。
「そう……なんだ。じゃあ、待ってます」
待たせるのも悪いな。どうしよう?
「白野花さんは、帰宅部なの?」
「うん。わたし、部活やってる余裕ないかな? あんまり賢くないから、勉強の時間削れないの」
美人さんだからか、賢そうに見えるけど?
確かに1学期の中間テスト、一昨日貼り出された学年20位までの順位表に、彼女の名前はなかった。僕のは8位にあったけど。
「よかったら、将棋部の見学に来てよ。部長も喜ぶと思う。将棋部人数少ないんだ。それにちゃんと部活に顔出すの、僕と部長くらいだし」
「いいの? でもわたし、入部しないよ?」
「気にしないで。見学の人はさ、これまでも何人か来てるんだ。誰も入部してくれなかったけど」
「じゃあ……」
なにかいおうとした白野花さんに、
「見学に来た人のほとんど、部長目当てだったんだと思う。でも部長、将棋にはすごく真剣で厳しい人だから、合わない人は合わないだろうし」
言葉を被せちゃった。
「部長さん、目当て?」
「うん。将棋部の部長って、
びっくりするくらいの美人さんだからな、勅使河原先輩。名字と国籍は日本だけど、民族的には完全なフランス人なんだって。
あの人が現れたときが、入学式一番の盛り上がりだったといって過言じゃない。保護者席もざわざわしてたもん。
「ちょ、ちょっと待って! じゃあ、来栖くん、いつもあの先輩とふたりで部活してるの!? 将棋ってやったことないけど、すごく近くで向かい合って息が届く距離で手が触れたりするアレだよね?」
なにか勘違いしてるけど、将棋を知らない人はそんなものか。
「さすがに対局中は、手が触れたりしないよ。息が届くことはあるけど」
「はい? たいきょくちゅう……は? よくわからないけど、手が触れることがあるの? あの美少女妖精と手を触れ合わせてるの!?」
美少女妖精って、面白いいい方するな。的確だけど。
「まぁ、それはね。当たっちゃうことはあるよ? わざとじゃないし、それに先輩の方から当たってくることが多いから」
先輩指導に真剣になると、手を取って教えてくれることもあるしな。
「見学……行きます。行きますので!」
「そう? じゃあ、部長に連絡しておくね」
スマホで部長にメッセージを送る。『部活、見学者あり』。
返信は即座にあった。『よくやった! けして逃すな』と。
僕がスマホを戻そうとすると、
「あ、あの! 来栖くん、わ、わたし……と、連絡先の、こ、交換して、く、くだ、くだしゃい!」
なんでどもってるんだ? 今日も体調悪いのかな。
「いいけど。いいの?」
「……いいのって、なにがですか?」
「だって白野花さん、男子とは連絡先交換しないって聞いたけど。ケイジロウが、そういってしょんぼりしてたら」
「……ケイジロウ?
「うん、朝宮ケイジロウ。幼馴染なんだ。幼稚園のときから、ずっと一緒だよ」
教室を見回したけど、ケイジロウの姿はない。
部活で駆り出されてるのかも。野球部は結構大変みたいで、一年生はこき使われているらしい。
白野花さんがスマホを取り出し、連絡先交換のアプリを立ち上げる。
「はい、交換してください」
僕も同じようにアプリを操作して、連絡先の交換はすぐに終了。
と、
「カレーン、いくよー」
廊下から白野花さんを呼ぶ声がして、
「う、うん! すぐ行くー」
彼女がそれに応える。
「ごめんね……じゃあ、また後で」
教室を出て行く白野花さん。僕は昼食を再開。
すぐにスマホが震え、取り出して確認するとメッセージが届いていた。
白野花さんからだ。
『届いてますか?』
それだけ。
『届いてます』
そう返すと、かわいいうさぎが飛び跳ねてるイラストスタンプが返ってきた。
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