第7話 試作品作り
昨日市場で購入したものを広げる。
卵、砂糖、軟質の小麦粉、牛乳、濃厚な牛乳から魔法を用いて遠心させ抽出した生クリーム。
バニラエッセンスやトッピング用の果物。
他調理道具だ。
「何作る気でいやがるんですか?」
「クレープだ。甘い香りと味で甘党の心をがっちりつかみたい。リッタには沢山試食してもらうことになるから。頼むな」
「やったぁっ! 楽しみでいやがりますっ!」
試作品をリッタに食べてもらう。甘めが好きな層にはリッタの味覚が頼りになる。
俺はほどよい甘さですっきり食べられる方が好みだからな。
リッタは竜だけあっていくら食べても身体を壊さないし、苦にしない所も協力者として適任だ。
さっそく生地作り開始だ。
卵を溶いて砂糖、薄力粉をしっかりと混ぜていく。
混ざったことを確認し、ひと肌の牛乳と植物性の油をいれる。このまま焼いてももちろんいいのだが、薄く軽い生地になってしまう。
具材をトッピングする都合上、破れにくいもっちり生地の方が都合がいい。
出来た生地の素を冷やして寝かせておくと、焼いたときに分厚いもっちりとした生地になる。作った生地の素を冷蔵ボックスの中にいれていく。
冷えるまでは生クリームやらチョコソースを作り待つことにする。
氷水を準備しその上にボウルを置く。
冷えたボールに生クリームを入れる。砂糖を入れゆっくりとかき混ぜ溶かしきっていく。泡立て君……以前鍛冶屋にお願いして作ったものを使う。泡立て君の先にはホイッパーがついており、手で軽く触れると回転するようになっている。風の魔法を加えることで高速回転できるようになっていた。
泡立て君を用いて、少し柔らかめの状態になるまでクリームをかき混ぜていく。ふんわりと泡立ってきたら、最後はホイッパーを用いて手動でかき混ぜていき、クリームがホイッパーですくえるくらいになったら完成だ。
部屋の中にバニラの香りが満ちていき、幸せ空間だった。
お菓子作りの楽しさの一つでもあると思う。
「うめぇですよ!」
生クリームの味見をしたリッタの鼻に生クリームがついていて少し面白い。
大きな丸い鉄板を温める。自家製バターを薄く延ばす。冷蔵ボックスから取り出した生地の素を中央に垂らすとシューという良い音が鳴った。
ヘラで真ん丸に均等に伸ばしていく。手早く確実に。お客さんが目で見て楽しめるように意識して練習も兼ねていく。
生地の縁が少し茶色になったことを確認しひっくり返す。焼き色がきれいな模様になっていた。
生地が乾かないように、焼きあがった生地を重ねていく。
もっちりとした破れにくい生地となっていて、理想としているものだった。
これならば食感も楽しめ、トッピングもより包みやすくなる。
「エル、我慢できねぇーですよぉ……」
「一枚ずつ食べていいぞ」
「え、いいんでごぇーますか!?」
「今回は試作品作りだから完成前の生地自体の味も確かめていきたい。少しずつ生地の味が違うはずだから、器に重ねてあるやつ毎に味の感想を覚えておいてくれ」
「りょうかいでいやがりますっ」
調味料の分量を変えていき、様々な生地を作っていた。
はむはむとリッタが食べている。
「このままでも十分うめぇーですよぉ……適度な甘さで……あ、こっちめちゃあまあまでごぜぇーます! この焦げ目ついてる生地はわざとなんでごぜぇーますかね……っ。ぱりぱりしてて最高にうめぇーです!」
生地を焼いている途中で、生地の上からもバターを塗り込み砂糖まぶし、ひっくり返し、あえてこんがりと焼いたクレープ生地だ。
甘さ控えめでバターの塩見がアクセントになっていて、男性客を狙いにしたもの。
リッタにも好評そうだ。
冷蔵しておいた生クリームの入った特製の袋を取り出した。
生クリームを生地の真ん中から縁に向かって一直線に盛り、そこから円弧を描くように縁に沿って盛っていく。
さらに一か所、その上から生クリームをのせていく。ここを起点にクレープ生地を包んでいくつもりだ。
砕いた軽い焼き菓子、ナッツ、バナナ、イチゴをトッピング、チョコソースで模様を描いた。
くるくるっと生地を包み、持ちやすいように紙で包む。
「わぁっ!」
本来ここに生クリームを軽く載せて完成だが、これから作るのは話題作り用の生クリームバカ盛りクレープ。
その上から円状にぐるぐると生クリームで平らな層を作った。
そして砂糖をまぶす。炎魔法で焦げ目をつくり固めていきこれをアクセントにする。お客さんの前で炎を出すのも目で楽しんでもらうことができていいだろ。ブリュレと言われるものだ。
そこからは頭のタガを外し、ブリュレの上からさらに生クリームを惜しみなく山盛りにしていく。
最後はおまけとばかりにナッツとチョコソースをかけ彩りを添える。
「ははっ」
思わず笑ってしまう。
リッタの目が釘付けになっていた。
完成したクレープはもはや暴力。
生クリームという物理で客の心を殴るようなもの。
人によっては胃もたれするが、好きな人にとっては見るだけで幸せになることだろう。
これはデュークには食べさせられないな、と笑ってしまう。
「リッタ食べられるか?」
「うん……いいんでごぜぇーますか」
紙で包んだ特大クレープを手渡しすると、リッタは小さな手で大切そうに受け取った。
「ふわぁ」
瞳孔が開き、目が輝いて見える。期待以上の反応だった。
「……はむっ。……んんぅ~~~~~~」
鼻の頭と頬に生クリームをつけながら、ばたばたと足を動かしている。
「これはやべぇーでごぜぇーますよ……頭おかしくなっちまいそうでごぜぇます」
リッタの反応を見て確信した。
注文する客は少ないだろうが、見た目のインパクトがすごいため集客効果や宣伝効果があるのではないかと思う。
若者などが噂をしてくれるのが理想である。
噂が噂を呼び、客が客を呼ぶ。何か一つでも話題になれば、そこをきっかけに足を運んでくれ、好循環になってくれるのではと思う。
後は純粋に目で見て楽しんでほしいという気持ちもあった。
少しでも思い出に残ってもらえるのは料理を作る側にとってうれしいものだ。
他には適正な量のクリームで見栄えよく、持ちやすい上品なクレープに仕上げた。
このクレープの客層の狙いは、食後に町の観光のお供にデザートを食べてくれる人。あるいは家族連れ。
……。
リッタの反応と自分の好みで暫定メニューを決めた。
・特大生クリームマシマシ
・生クリームと各種トッピング(いちご、ばなな、チョコソース、焼き菓子、ナッツ)
・あんこと生クリーム
・塩バターと生クリーム控えめ(パリパリ生地風)
・サンドイッチ風のクレープ……野菜を挟み、マヨネーズ、燻製肉、特製のソースを塩加減の効いた生地で包む。
各種トッピングは前日の市場の様子で決まる。旬の果物を投入したいからだ。
サンドイッチ風の肉の選定は悩んだのだが、リッタの一言で焼かずにそのまま入れることができる燻製肉に決めた。
最初は焼いた肉をのせるつもりであったが。
「肉の匂いも好きでごぜぇーますが……バニラの香りが台無しになるでごぜぇーます……両方好きですが、バニラのしあわせ効果は計り知れないでいやがります」
とのこと。確かにそうだ。どうしても焼いた肉でなきゃダメなわけではないから、バニラの香りを優先した方がいい。
作り置きの燻製肉を挟むことに決めた。
リッタと試行錯誤しながら、どんな人に喜んでもらうか考えて作る料理は楽しかった。
もちろん中には失敗作もある。すっぱい果物を入れた際には、完全に生クリームの甘味を壊してしまい、リッタに落第の言葉を頂いたくらいだ。
リッタがこちらを見ていることに気づいた。
「いい顔しているでごぜぇーますよ」
顔の所々に生クリームつけたまま、親のような表情をしているリッタが面白かった。
「ありがとうな」
一緒にいてくれる彼女に最大限の感謝を伝えた。
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