推しのダンジョン配信者がいて何が悪い!!

烏の人

第1話 ふつくしい

 薄暗い部屋にとじ込もって青白いライトを浴びる。


「へ、えへへ…。」


 気持ちの悪い笑い声を漏らすのは俺こと千田せんだ 真人まことである。


 と、言うのも訳がある。それは俺には推しがいると言うことだ。ダンジョン配信者、『なのな』。それこそ、俺の推しであり生きる意味に該当する。なので、仕方ない。異論は認めん。


『なるほど、これはなかなか強敵だね…。』


 そんなわけで、彼女のダンジョン配信に釘付けと言うわけである。一挙手一投足、ファンを思った身振り手振り。華奢かつしなやかな身体使い。


「ふつくしい…。」


 彼女の探索者としてのクラスはCである。それだけあれば、探索者として生きていける。ましてや、ダンジョン配信者としては中々の上位。それこそ、このなのなちゃんはチャンネル登録者数だって60万抱える程の大物だ。


 いい、すごくいい立ち回りだ。相手はロードウルフ。現在彼女のいる30階層はダンジョンでも中域。その中でもロードウルフはそれなりに上位の存在である。


 すばしっこく動くそれを的確に避け、次に繋げる機会をうかがう…流石だね…Cクラスでも上位の実力と見よう。


 彼女の戦闘スタイル。身体強化による一撃の刺突。一般的に短剣使いのよくやる戦術だ。例に漏れず彼女も短剣を扱っている。


 いやはや、にしてもやっぱり身体の使い方が綺麗だ…これが推したる所以。しなやかに構え、バネのように弾み、豹のごとく仕留める。その姿がとても…。


「…イイッ!!」


「キモい…。」


「びゃぁあぁあぁああ!!!???」


 なに?なになになに?マジでなに!?


「驚きすぎだろ。」


 背後から聞こえた声に振り返る。そこにいたのは、幼馴染みの加茂かも まいの姿であった。


「舞か…ノックぐらいしろよ!思春期の男子の部屋なんだから下手したらR18だぞ!!」


「はいはい、そうですね。んじゃ行くよ?」


「え?今日なんかあったっけ…?」


「何かあったっけ?じゃないでしょ。ギルドからの緊急依頼。この前あったでしょ?」


「ああ…近場のダンジョンで異常な魔力の波動が感じられたのでーってやつか。」


「なにそんな他人事なのよ。」


「それたぶん俺だから。」


「は?」


「俺その日、ちょうどそのダンジョンの異常な魔力の波動が感知されたその場所で色々と実験してたんだよ。で、やっちゃった。」


「や、やっちゃったってあんた…まじで?」


「ばかでかい爆発跡があるくらいだと思うからなぁ…まあ、気が向いたら行くわ。」


 これでも、魔力量には自信がある。扱いは…お察しの通りだが。まあ、色々あって俺のクラスもC。たぶん受ければBクラスにも受かれるか…或いはAクラスも夢ではないが、趣味が悪い。


「はあ、あんたねぇ…解った。じゃ先行っとく。」


「ん、了解。」


 休日なのに働きたくなど無い。誰だってそうだろ?そう言うわけで…またパソコンの画面に視線を落とす。


「あんた、本当にこの人好きねぇ。」


「まだ行かねぇのかよ。」


「まだ時間に余裕あるしね。」


「あっそ。」


「ダンジョン配信者ねぇ…面白いの?」


「面白いと言うより美しい。」


「キモいって…。」


「な!人の趣味を批判するのはどうかと思うぞ!!」


「だって…ちょっと引くよ?」


 マジじゃん。マジのトーンじゃん。


「ま、まあ、若干自覚はあるんだが…むかーしむかし、師匠に教わった動き方と本当に似ててな。いやあ…綺麗だなぁって…。」


「あんたの師匠ねぇ。今何してるの?」


「さあ?ダンジョンのなかで眠ってるんじゃないか?」


「な…ッ…ごめんって。」


「?」


「と、ともかく…私はもう行くから。」


「あいよ。」


 そうして、彼女はその場を後にした。


 ダンジョンか…液晶の向こう側の少女は今も戦っている。ロードウルフ…このダンジョンも割りと近場だったか?

 いやいや、それは厄介ファンがすぎる。俺はこうして遠くから眺めるだけでいいんだから。


『はぁァ!!』


 その戦いにも決着が着いたようである。彼女の短剣が、ロードウルフの喉元にしっかりと突き刺さっている。


「綺麗だ。」


 軌跡、間合い、呼吸、姿勢…何を取ってもため息が出る程…。


 人がダンジョンに潜ると聞いたら…何故か自分も潜りたくなってしまう。それは俺が昔から…そう言う風に育てられたからであろうか?


 そうだな、思い返せば物心ついた頃から俺の目の前には、訳の解らぬ怪物どもがいた。

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