抱えきれない

てると

抱えきれない

 俺は…、僕は、いつも人に見放されるのが怖い。そうして、いつも数少ない周りの人に対して横柄な態度を取ってしまう。それで人が離れそうになると、自分の一番突かれたくないところを突かれた思いがして、頭の中の小さな自分が吠え猛り、抑えきれなくなって相手を突き放してしまう。そうしてその日眠るとき、不安で不安でたまらなくて、眠れず、遅くまで、イヤホンをしてスマホで動画を観るけれど、癒されることはない。しばらくして相手が思いを直してくれると、尻尾を隠し切れずに目を輝かせて相手と仲直りする。

 ああ、嫌だ。こんな自分、嫌だけど、相手の下に入るということは、お腹を相手に開くようで、死を意味するように思えて、怖いんだ。だから、仲直りしても、やっぱりまた、横柄。

 僕は愛が怖い。愛の交換をすると、心臓を相手に預けたようで、それを持ち去られたとき、僕は真っ暗闇の中で赤い光が射してくるのをひたすら待つ。「天に富を積め」なんて言うけど、積んだ心は神様に握られてしまう。神様は愛だ、だからこそ、心を乱したとき、僕の命まで奪われてしまうんじゃないか、怖くて仕方ない。誰に祈ればいいのだろう、託したい気持ちは誰に預ければいいのだろう。

 もう輪っかはできていて、しかも人はそれがなければ解けてしまうから、必死に求めて、でも、敗北の恥辱が耐えられなくて、もう、引き返せない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

抱えきれない てると @aichi_the_east

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る