第1話

授業終了のチャイムが鳴る。

「じゃっ明日ね〜」


「カラオケ行かない?」

「行く行く!!」

すっかり騒がしくなった教室からとぼとぼ重い足を動かす。

(やっと終わった)

教室から出ようとしたその時、担任に呼び止められた。


「音木さん、あなたのだけまだ進路希望受け取ってないの。就職するにしても、大学行くにしても出さないとだから…早めに出してね。」


「はい…」

(進路希望ね…)


靴を履き替え学校をあとにし、駅へと向かう。

何度も何度も繰り返す日々、きっと他の人は少しの不安と絶望を持ちながらも、明日に期待して生きている。


私は期待することすら忘れてしまった。


5時という帰宅ラッシュ真っ只中の時間ホームに立つ。聞き飽きた何のひねりもない曲がいつも通り流れている。

(私になりたいものなんて…それに…)

電車が入って来るアナウンスが流れ始めた。

スマホの時計を見る。

今日はお父さんが亡くなった日。そして今はお母さんが出てった時間。4年前から私の時間は止まったままだ。


「つまらない…思い出なんてない…」

「ただ、私は…」



ガタゴトと電車が近づいて来る音がする。


私の本当に欲しかったものってなんだろう。

私に足りなかったものってなんだろう。


「もう止めよう…考えるのも、生きるのも。」

ここでこの世界にしがみついて何になるのだろう。傷つけてばかりで何もなせない私がこの世に必要なのだろうか。




ホームに電車が入って来る。





「じゃあね私…」

線路に身を投げる






「ごめんなさい…お父さん、お母さん…」


もう楽になりたかったんだ。






驚く視線、大きな悲鳴、

それをかき消すように耳に入ってきたのは、ドンッという鈍い音がした。





(やっと…これでやっと…)

   解放される。





そう思っていた時だった。

意識が刈り取らる直前脳内でこんな声が響いた。










「可哀想に…つまんない人生ご愁傷サマ。

そんでもって、アップデートしない?キミの人生(思い出)をさ。」









目を開けると、そこには見たことのない景色が広がっていた。

そして、、


男が一人、両隣に純白の騎士を控え煌びやかな大きな椅子に座っていた。





「ようこそ。オレの【世界】へ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る