第2話
「何処…?ここ…」
辺りを見渡す。広々とした大広間、中央には赤いカーペットが綺麗に敷かれていて、大きな階段が向かい合うようにある。まだまだ奥に部屋があるようだ。天井はガラス張りになっていて空がよく見える。そこには雲が無く、日が沈む直前の海色をした空だけがあった。まるで異世界漫画の世界に入り込んだような気分だ。
「ようこそ!
情熱の都【セントラルオブパッション】へ。で、オレはここの唯一神!つまり、主!そして王!キミは偉大なオレのご加護により、ここに転送されました!パチパチ〜」
自慢げにヘラヘラ笑っている。
いや、誰だよ?
柄にもなくツッコミを入れそうになった。しかもコイツ今自分で神って言ったよね?ヤバいヤツじゃん…。とか言い出しそうになったがそれは喉の奥にしまい込む。それでもこの状況は理解し難い。だって…
「私、死にましたよね?電車に轢かれて。」
「ウン、死んだね。電車に轢かれて。あっでも肉体だけだよ!ダイジョーブ。オレが轢かれるすんでで拾い上げたから、精神はこの通り!」
男は感謝しなよーとボヤいた。どうやら本当に異世界転生のようなものを果たしてしまったらしい。だが私は、コイツが誰か、ここは一体どこなのかという疑問よりもこんなやつが私みたいな奴を助けたという事実に困惑した。
「なんで助けたんですか!?私は…自分がこうしたかったからやったんです!誰かに命令されたわけじゃないし、それに…」
「お父さんとお母さんに謝りたかったから。だから…」
「ふーん。でもキミは、なにも持ってない『無価値』な人間だから、 死んだところで誰一人悲しまないし、キミの両親も報われないね。」
「なっ…!あなたに「キミの生まれてきた意味って何?キミは何がしたかったの?」
私の声を遮り、コイツは続けた。
「さっき言ったよね?轢かれるすんでで精神だけ拾い上げたって。つまりキミの体はあのまま電車にぶつかってズタボロなわけでしょ。それを掃除するのは誰だと思う?そして友達はいないけど成績はトップだったキミが死んだ責任は誰がとるの?今頃、駅は大騒ぎだし、明日には学校中キミの話題で持ちきりだろーね。」
「だから…なんだって言うんですか!?とゆうか、あなたに何がわかるんですか!」
声を荒げる。
何故かコイツと喋っているとイライラする。
「だ〜か〜ら〜『人を傷つける、もしくは苦しませる、そんでさらに困らせる』とかいうクソみたいな功績しか持ってないキミが死んでなお人を困らせてんのー。わかんない? えっ。もしかしてキミいじめられたやつみたく、自分は不幸だから仕方ないとか思っちゃうタイプ笑?」
(不幸だなんて思ってないし…!)
自分が不幸だなんて思ったことはない。
だって世界には私なんかよりつらい経験をした人も、現在進行系でしている人もいる。だから私は不幸じゃない。
むしろ恵まれすぎていたのだ。
両親は優しかった。小さい頃から一人っ子である私が寂しくないようにぬいぐるみをたくさんくれたし、眠れない時はいつもそばにいてくれて、一緒に寝てくれた。夏の夜は屋上で家族みんなで星の鑑賞をして、冬の夜はお父さんの部屋から望遠鏡を使って夜空を見ていた。あの時間が他の何よりも好きだった。
でも私はそれを壊した。
たった一つの好奇心で。
「『私が不幸』じゃないんです…。『私に出会った人』が不幸なんですよ。あなたが言った通り私は傷つけてばかりでしたから。」
「だからこんなやつ早く死んだほうが良いって?笑えないよそーいうの。」
「キミはキミ自身から目を背け続けてるだけでしょ笑?お先真っ暗なこの現実に何かと理由をつけて楽な方え逃げてるだけ。傷つく努力もしてないキミが『あーまたやっちゃった、死のう。』ってさー図々しすぎるでしょ。そんなの勝ち逃げじゃん。」
「全て過去になったら、つらい記憶が消えてなくなると思った?」
「キミは一度でも誰かと向き合おうとしたのかな?」
答えは当然NOである。コイツの言っていることは全て図星だ。人の心でも読めんのかというレベルに。だからこそイライラした。そんなこと、自分が一番分かっているから。
「作曲者に…なりたかったんです…」
無意識にでてきた。まるでここで語るのが必然のように。
「私は今まで誰かのためという体で自分のために動いてたんだと思います。失敗しても向き合おうとはしませんでした。いろんな人に迷惑かけました。」
「でも本当は、たくさんの人を幸せにできるような作曲者になりたかったんです。お父さんがそうだったから。」
そうだ…私、作曲者になりたかったんだ。
お父さんの作る曲が大好きだったんだ。
儚くも壮大な願い、子供らしい無邪気な夢。
「こんな私でも、本当にやり直せますか?たくさんの人に向き合って、生前できなかった分まで誰かに優しさを、勇気を、沢山の愛情を与えられますか?」
「こんな私の願い叶えられますか?」
さっきまでの問にそう返す。すると…
「ハハッ良いね良いね!目標はそれくらいでかくないと!音木紫苑。キミがそれを望むならオレはその手助けをするよ。唯一神から授かった【慈愛】という肩書に恥じない最高のシナリオを用意するよ。」
男は目を細め笑う。
こんなに赤裸々に胸の内を話したのはこの人が初めてだ。でも不思議と悪い気分じゃない。
とてもスッキリした気分だ。
「よしってなわけで〜
…キミは今日からオレの雑用係ね〜!」
鈍器で殴られたような衝撃だった。私は今、とてつもなく間抜けな顔をしているだろう。
その中、男はイタズラが成功したかのように笑ってみせる。
「そーいえば、まだ名乗ってなかったよね?
オレは『カレンデュラ』。これからヨロシクね〜紫苑ちゃんっ☆」
「…は?」
音木紫苑18歳。
なんだかんだあり、自称神の雑用係に任命されました。
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