第7話 【探索(たんさく)】


 彼は森から飛び出した。


 めいいっぱい引かれた弓より解き放たれた一矢のように。

 嵐の中を、濡れ羽を盛んにはためかせながら、トンビは沖を目指して行った。


 不思議なことに彼はいつもよりも羽根を軽く感じた。呼吸も苦しくはなかった。ただ、ぬれた全身が火傷をしたようにヒリヒリとシビレた。


 眼前の暗雲の渦中に、仕掛け花火のような金赤の亀裂が生じた。続いて雷鳴がとどろいた。トンビは襟首を捕まれ、たわむれにその中に氷を入れられた子供のように、首すじを寒くした。



「おお、くわばら、くわばら」


 トンビは、海面の上を飛びながら、白馬を探し続けた。


 何べんも何べんも暗雲の下を大きく旋回し、東へ西へ翔けめぐった。そうして、ついに、ずいぶん西へ行ったところで、漂流し続ける白馬をトンビは見つけた。


「白馬よ、ここにいたのか。ずいぶん流されているじゃあないか」


 トンビは白馬にそう言いかけながら、頭上を旋回し続けた。



「白馬よ。どうだ、大波をくらったろう。どうだ、何べんも渦巻きに飲まれたろう」


 トンビはときどきふらつきながら、白馬の上を、波打つようにまわった。


「白馬よ……白馬よ……」



 やがて、トンビは誘蛾灯に引き寄せられ蛾のように、力なく海の上に落ちていった。



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